桜が咲いたら、必ず君に会いにいく

 迎えた週末。

ショッピングモール3階の催し物広場には、ポップなBGMが流れていた。

「世界に1つだけのアクセサリーを作っちゃおう! みんな、僕のことはなっちゃんって呼んでねー」

 完璧なビジネスモードの笑顔で、マイクを握るお兄ちゃん。

 胸元には、『講師 なっちゃん』と書かれた、手作り感満載なネームプレートが付いていた。

 茶色のエプロンを着こなして、ビシッと立っている姿は、まるで普段と別人だ。

 だけど、その本性は、ただのオネエだなんて誰が想像できるだろう。

 きっと……知っているのは、この場で僕だけだ。

 ほんと外面だけはいいんだから……。

「そして、もう一人! みんなのお手伝いをしてくれる、とっても美人なアシスタントさんを紹介します! 学生スタッフのユキおねえさんでーす!」

 お兄ちゃんのノリノリな声に合わせて、ステージ脇から、すらっとした華奢なシルエットが前に歩み出てくる。

 えっ……嘘でしょ!?

「こんにちは! 学生スタッフのユキです。今日は、なっちゃん先生のサポートをしながら、みなさんと楽しい時間が過ごせたらなと思います。ぜひ、たくさん話しかけてくださいね」

 ネームプレートの『学生スタッフ ユキ』という文字が目に飛びこんでくる。

「きれいなお嬢さんねぇ」
「モデルさんみたい」

 集まったお客さん達の口からは、惚れ惚れとしたつぶやきが漏れていた。

 直後、挨拶を終えた先輩の視線が、ふと客席の方へ寄せられる。
 
 視線が交わった瞬間、先輩は驚いたように眉をしならせ、最前列に座る僕を翠緑(すいりょく)の瞳に映した。

ハルくん……?

 小さく開いた口が、声には出さず動きだけで、僕に問いかけている。

 き、気まずすぎるっ……!

 手に脂汗がにじみ、頬の筋肉がピクッと固まった。

 ……と、その時。

「アクセサリー作りを始める前に……ちょーっとだけ、みんなに聞いてみようかな!」

 マイクを握り直し、我が物顔で弁舌を振るうお兄ちゃん。

 嫌な予感がする……。

 僕の第六感が警鐘を鳴らしていた。

「アクセサリー作りに欠かせない、一番大切なものって、みんなはなんだと思う? じゃあ——前の席に座ってる、イケてるパーカーの君!」
「えっ!?」

 一斉に注がれる、お客さん達の視線。

 紫のカラコンの下に透ける瞳孔が、(あや)しく光った。

 やられた……あれは、どう見ても確信犯だ。

「あ……えっと……」

寄せられる好奇の目。

僕の脳みそは、ぐるぐるとフル稼働を始めた。

アクセサリー作りに大切なもの……?

なんだろう。

道具とか、パーツ選びのセンスとか?

いや、でも、相手は、あのお兄ちゃんだ。

もっと問題の根底をひっくり返すような、タチの悪い答えに決まってる。

 周囲からのプレッシャーに、胃がクラッシャーされそうになる。

 なんて答えれば、お兄ちゃんを満足させられるんだ!?

 考えても、考えても、何も思い付かない!

 僕の思考は、キャパオーバーを迎えていた。

「心、ではないでしょうか……?」

 静かなつぶやきが、凛と会場に落ちる。

 お客さん達の視線が、先輩に吸い寄せられた。

「だーい正解〜! さすがユキおねえさん! 100点満点の答えだよ!」

 グッドサインを作ったお兄ちゃんの顔に、渾身の笑顔が咲き誇る。

「ふふふ、ありがとうございます」


 照れくさそうに微笑んだ先輩に、お客さん達から「なるほどねぇ」と、大きな拍手が送られた。

「最初は誰だって初心者です! 完璧なものを作ろうとしなくても大丈夫! どんなに不器用でも、ヘンテコな形になっちゃったとしても——心をこめて作った作品には、ダイヤモンドにも負けない価値があるんです!」
「おぉーっ!」

 お兄ちゃんの名言(?)に、客席から熱い歓声が上がる。

 残念イケメンのくせして、口だけはよく回るんだから……。

 とはいえ、九死に一生を得たのは確かだ。
 僕はようやく胸の爆弾から解放され、へなへなと椅子の背もたれに体を預けた。

 すると、拍手喝采を浴びるお兄ちゃんの傍らで、先輩は僕にだけわかるアングルで、こっそりとウィンクを送ってきたのだった。