「ねぇねぇ、ハルー。アクセサリー作りに興味なぁい?」
包丁を握り、にんじんを切っていた手を止める。
お兄ちゃんは、キッチンのカウンターに頬杖を付き、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。
100パーセント、何かを企んでいる時の顔だ。
「僕、今、カレー作ってるんだけど」
「そんなに睨まないでちょうだいよ。ハルの可愛いお目々に、しわが寄っちゃうわよぉ?」
「目にしわなんてできたらホラーだよ」
自分から振っておいて、話の本筋がそれてる。
僕は呆れながら、ぶつ切りにしたにんじんを鍋に放りこんだ。
「ノリが悪いわねぇ、油だけに」
「いや、意味わかんないから……」
気が散ってしょうがない。
ていうか、この人、今、在宅勤務中なんじゃないのか。
ちゃんと仕事をしているのか、妹として、そろそろ本気で心配になってくる。
ツンツンと、Tシャツの袖を突かれる。説明するまでもなく、犯人はお兄ちゃんだ。
「もう、なになに? 火使ってるんだから、危ないでしょ」
なんて、お母さんみたいなセリフが口から飛び出す。
だけど、お兄ちゃんは、僕の注意をスルーし、小さな子どもさながらカウンターから身を乗り出した。
「聞いて、ハル! お兄ちゃんね! 今度、ワークショップで講師をやることになったの!」
「えっ……それ大丈夫なの!?」
「そんな青い顔で驚かれると……お兄ちゃん、ハートが痛いわっ」
光線銃にでも撃ち抜かれたような、芝居がかったリアクション。
お兄ちゃんは、胸を押さえながら、へなへなと床に撃沈した。
「それで……何の講師をやるの?」
「そうこなくっちゃ!」
床に倒れていたはずのお兄ちゃんは、水を得た魚のように跳ね起きると、革ジャケットの胸ポケットから四つ折りのチラシを引っ張り出して、バッと台の上に広げて置いた。
キッチンの上だっていうのに、まったくお構いなしだ……。
「アクセサリー作り体験?」
「ねっ、面白そうでしょ? なんたって、最高にプリティなお兄ちゃんが考えた、スーパースペシャルな企画なんだから!」
「待って、待って。情報量が多すぎて……ツッコミ切れないから」
「なら、はさみを用意しておきましょ!」
「僕、まだ行くって一言も言ってないんですけどぉ!?」
「お兄ちゃんに任せなさい。特等席を申し込んでおいたわ♡」
「まさかと思うけど……僕のスマホ、勝手にいじったりしてないよね!?」
「なによ、今さら。あなたが大好きな桜雅くんの誕生日をパスワードに設定してることは、お兄ちゃん、とっくの昔に知ってるわ」
「わああああああっ!」
絶叫しながら、僕はお玉を落としそうになった。
恥ずかしさで、顔から火が出そうになる。
いっそ、カレーまみれになってもいいから鍋の底に身を沈めてしまいたい……!
「もうハルってば、愛が重いわねぇ」
「僕をそれ以上いじったら、プライバシーの侵害と名誉毀損罪で訴えるからっ!」
「あら、いけない! 三時からリハーサルがあるんだったわぁ」
「いや、だから! 人の話、まるっきり聞いてないし!」
「お兄ちゃん、行ってくるわね〜。帰ったら、カレー大盛りでお願いね。トッピングは、ハルちゃんで♡」
「絶対に嫌だ!」
バタン! と、扉が閉まり、嵐のような足音が去っていく。
「はぁー……」
吐き出したため息が、湯気と一緒に換気扇に吸いこまれていく。
焦げ付かないように、鍋の中のカレーをお玉でかき混ぜる。
それでも僕の気持ちは、一向に煮え切らないままだった
包丁を握り、にんじんを切っていた手を止める。
お兄ちゃんは、キッチンのカウンターに頬杖を付き、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。
100パーセント、何かを企んでいる時の顔だ。
「僕、今、カレー作ってるんだけど」
「そんなに睨まないでちょうだいよ。ハルの可愛いお目々に、しわが寄っちゃうわよぉ?」
「目にしわなんてできたらホラーだよ」
自分から振っておいて、話の本筋がそれてる。
僕は呆れながら、ぶつ切りにしたにんじんを鍋に放りこんだ。
「ノリが悪いわねぇ、油だけに」
「いや、意味わかんないから……」
気が散ってしょうがない。
ていうか、この人、今、在宅勤務中なんじゃないのか。
ちゃんと仕事をしているのか、妹として、そろそろ本気で心配になってくる。
ツンツンと、Tシャツの袖を突かれる。説明するまでもなく、犯人はお兄ちゃんだ。
「もう、なになに? 火使ってるんだから、危ないでしょ」
なんて、お母さんみたいなセリフが口から飛び出す。
だけど、お兄ちゃんは、僕の注意をスルーし、小さな子どもさながらカウンターから身を乗り出した。
「聞いて、ハル! お兄ちゃんね! 今度、ワークショップで講師をやることになったの!」
「えっ……それ大丈夫なの!?」
「そんな青い顔で驚かれると……お兄ちゃん、ハートが痛いわっ」
光線銃にでも撃ち抜かれたような、芝居がかったリアクション。
お兄ちゃんは、胸を押さえながら、へなへなと床に撃沈した。
「それで……何の講師をやるの?」
「そうこなくっちゃ!」
床に倒れていたはずのお兄ちゃんは、水を得た魚のように跳ね起きると、革ジャケットの胸ポケットから四つ折りのチラシを引っ張り出して、バッと台の上に広げて置いた。
キッチンの上だっていうのに、まったくお構いなしだ……。
「アクセサリー作り体験?」
「ねっ、面白そうでしょ? なんたって、最高にプリティなお兄ちゃんが考えた、スーパースペシャルな企画なんだから!」
「待って、待って。情報量が多すぎて……ツッコミ切れないから」
「なら、はさみを用意しておきましょ!」
「僕、まだ行くって一言も言ってないんですけどぉ!?」
「お兄ちゃんに任せなさい。特等席を申し込んでおいたわ♡」
「まさかと思うけど……僕のスマホ、勝手にいじったりしてないよね!?」
「なによ、今さら。あなたが大好きな桜雅くんの誕生日をパスワードに設定してることは、お兄ちゃん、とっくの昔に知ってるわ」
「わああああああっ!」
絶叫しながら、僕はお玉を落としそうになった。
恥ずかしさで、顔から火が出そうになる。
いっそ、カレーまみれになってもいいから鍋の底に身を沈めてしまいたい……!
「もうハルってば、愛が重いわねぇ」
「僕をそれ以上いじったら、プライバシーの侵害と名誉毀損罪で訴えるからっ!」
「あら、いけない! 三時からリハーサルがあるんだったわぁ」
「いや、だから! 人の話、まるっきり聞いてないし!」
「お兄ちゃん、行ってくるわね〜。帰ったら、カレー大盛りでお願いね。トッピングは、ハルちゃんで♡」
「絶対に嫌だ!」
バタン! と、扉が閉まり、嵐のような足音が去っていく。
「はぁー……」
吐き出したため息が、湯気と一緒に換気扇に吸いこまれていく。
焦げ付かないように、鍋の中のカレーをお玉でかき混ぜる。
それでも僕の気持ちは、一向に煮え切らないままだった


