桜が咲いたら、必ず君に会いにいく

 遡ること小一時間前。

「寝坊したああああああっ!」

 オレは人生最大の危機に瀕していた。

 ダッシュで階段を下り、ダイニングの戸を開け放つ。

「おい、おふくろ! なんで起こしてくれなかったんだよ!?」
「朝からうるさいわねぇ。何度も呼んだわよ」

 これっぽっちも危機感がない。
 こっちは非常事態だというのに。

「息子の大事な入学式だぞ!? のんきに茶なんて飲んでる場合か!? 」
「これはコーヒーよ」
「どっちも変わらん!」」
「あのねぇ、あんた、中学の時もそうだったじゃない。昨日、あれだけ言ったのに……。ゲームばっかりで、全然、聞いてないんだから」
「ぐぬぬぬ」
「ぐちぐち言ってる暇があったら、その間抜けな寝癖を早く直してきたらどうなの。それともまさか、頭にアンテナ付けて入学式に出る気? あー、お母さん、恥ずかしいわぁ」
「失礼な! オレの脳みそはオフラインだ!」
「人間には静電気が通ってるのよ。もう一回、小学校の理科からやり直す?」

 おふくろは立ち上がって、皿洗いを始める。

 まったくギャグも冗談も通じない親だ。

「朝ごはん、さっさと食べちゃって。ああ、ほら、目玉焼きが焦げちゃってるじゃない」
「それは、おふくろが失敗したんだろ!?」
「あんたが遅いからよ」
「オレの寝坊と、目玉焼きの焦げが、どう関係してるんだよ!?」

 失敗を息子のせいにするなんて。
 おやげないとは思わないのか。

 ふてくされながらも、焦げた目玉焼きを口に放りこむ。

 あれ、意外とイケる……?
  
 断然、オレは醤油派だが、焦げがいい味を出している。

 って、なんだ、このタコさんウィンナーは。
 そんな愛くるしげな目でオレを見るでない!
 
 さては、そういう作戦なのか!?

 結局、朝食を取るのにも想定以上の時間がかかり……。

「ヤバイヤバイッー!!」

 オレは朝から自転車で道路を爆走する、疾風のレーサーへと、予期せぬデビューを果たしたのだった。