桜が咲いたら、必ず君に会いにいく

「……ただいま」

 リビングを覗くと、おふくろがテーブルに向かって、何かを眺めていた。

「おふくろ……」
「ああ、帰ってたの。いつもみたいにバカデカい足音がしないから、気付かなかったじゃない」

 オレの足音は、ティラノサウルスか……。
 
「なぁ……何見てんの?」
「アルバムよ、あんたの」
「つまり白昼堂々、オレの黒歴史を漁っていたと」
「今は昼じゃなくて、夕方よ。どうしてあんたは、いつもそう嫌味なの」

 コツンと頭を小突かれる。
 だけど、いつものパワーはない。
 普段が鬼ババアなら……今は精々、ぬらりひょんだ。
 
「この前、ハルちゃんが来たじゃない?」
「あ、ああ……」 
「これ、昔、ハルちゃんが引っ越す前に撮った写真。あんた覚えてる? お花見の時の」

 アルバムのページをおふくろが指差す。

 そこに映っていたのは、小さい頃のオレとハルが満開の桜の下でピースしている写真だった。

 写真の中のオレは、はにかむハルと肩を寄せ合い、無邪気に笑っている。
 口の周りには、ケチャップがべったりとくっついていた。
 確か……写真を撮る前、ハルん家の母ちゃんが作ってくれたお弁当のハンバーグを3つも食べたんだっけ。

「やんちゃ坊主なあんたに、まさか女の子の友達ができるなんてねぇ」
「……へ?」

 女の子の……友達‥‥?

 一瞬、思考が固まる。

 いくら記憶を辿れど、オレに異性の友人はいなかったはずだ。

 オレの周りに寄ってくる連中といえば、図体と態度だけはデカいガキ大将か、思春期をこじらせた厨二病のどちらか。だから、ハルのようなタイプは特例中の異例……。

 ——いや、待てよ。

 どこか不自然だったあいつの言動。
 握れば壊してしまいそうなくらい、小さかった手。

あいつの体が細いのは、カルシウムが足りていないのだとばかり思っていた。

 でも、まさか……。
 
「な、なぁ、おふくろ」
「どうしたのよ、急に」

 ——そんなはずはない。

 頭では否定しつつ、オレは乾いた唇を噛みしめ、おふくろに聞いてみる。

「えっ、あんた……まさか知らなかったの!?」

 次の瞬間、頭蓋骨を砕くような衝撃が、全身を突き抜けた。

 嘘だろ……。そんなことってあるのかよ……。

 バラバラになっていた点と点が綺麗に繋がり、めまいを覚える。

 おふくろは両腕をテーブルに伸ばして突っ伏すと、穴が空きそうなほど深いため息を漏らした。