その後、オレ達は三人でお化け屋敷に挑戦することにした。
「紗雪先輩、オレの後ろについててくださいね。お化けが出たら、一瞬で殴り倒してやりますから!」
「ふふふ、頼もしいね。でも、いくらお化けが相手でも暴力はだめよ?」
「はい! オレは平和主義者です!」
お化け屋敷といえば、世のカップル達が、桃色の悲鳴を上げながら、イチャイチャする定番スポット。
今度こそ、紗雪先輩をエレガントにリードしてみせる!
ジェットコースターの時のような悲劇は、もう二度と繰り返さない!
あわよくば、
『桜雅くん、素敵!』
なんて抱き付かれちゃったりして。
くぅ〜、たまらん!
「や、やっぱり、先輩と二人で行ってきなよ。僕、外で待ってるから……」
「なんだなんだぁ〜。さては、入る前からビビってるのか、ハル」
「び、ビビってないし!」
強気な言葉とは裏腹に、ハルの足は震えていた。
生まれたての子鹿か。
「私は、ハルくんとも一緒に行きたいな。その方が心強いし。もちろん、無理にとは言わないけど」
「え、えっと……」
ハルは口をモゴモゴさせて、言いよどんだ。
こいつ、昔から断れないタチなんだよなぁ。
「いいじゃねぇか。もしちびりそうになったら、オレがおんぶしてやる」
「し、しなくていい! ていうか、ちびんないし!」
顔を真っ赤にして怒るハル。
そんなガキっぽいオレ達のやり取りを、紗雪先輩は聖母のようなまなざしで見ていた。
お化け屋敷といったって、本物の幽霊が出てくるわけじゃない。
種や仕掛けを暴いてしまえば、中はただの屋敷だ。
常日頃、『おふくろ』という凶暴な鬼が家中を徘徊しているオレにとって、こんなのは屁のかっぱ――いや、河原のきゅうりってもんだ。
と、入る前は、余裕をかましていたオレだったのだが……。
足を踏み入れた先は、死の禁足地であった。
「桜雅くん、大丈夫……?」
「な、なんともありません! こんなの、ただの作り物ですよっ。ハハハ……」
「無理してない? 足、震えてるよ」
「むっ、武者震いってやつです」
「リタイアしてもいいからね」
「まさか! 紗雪先輩を置いて逃げるなんて! そんな薄情な真似はできません!」
震える足の裏に、ぐっと力を入れる。
根性を見せろ、オレ!
「ま、待ってよぉ〜。二人とも歩くの早いってばぁ〜」
「ハル、お前まだそこにいたのか!?」
後ろを見ると、ハルが入口付近に座り込んで動けなくなっていた。
それに気付いた紗雪先輩が、ルートを引き返し、ハルのもとへ駆け寄る。
「ごめんね、ハルくん。暗かったから、気が付かなくて」
「あ、いえ……僕がトロいだけですから」
優しい紗雪先輩に手を握られ、ハルはよろよろと立ち上がった。
暗闇の中、繋がれた二人の手に目が釘付けになる。
ラッキーな奴め……。その場所、オレと代われぇい!
しばらく進んでいくと、暗闇の中にベッドがぽつんと置かれている部屋にたどり着いた。
大きさ的にキングベッドか。
これがお一人様用なら、屋敷の主人は、きっと相当な金持ちに違いない。
幽霊一家の大富豪様は、一体、どんな枕を使っているんだ?
気になって、ベッドに近付くと、
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
なんだなんだよ、これ!?
ベッドの下から手がっ!
ぬっと、ベッドの下から手が伸びてきて、オレの足首を掴んだ。
「は、離せ、この野郎! 不意打ちなんて卑怯だぞ!」
「きゃあっ!」
その時、手を振り払おうと、足を振り上げた反動で、オレは後ろにいた紗雪先輩とぶつかってしまった。
やらかした!?
「あ、危ないっ!」
よろめいた紗雪先輩の手を、ハルがすかさず掴む。
「ハルくん!」
「わ、わぁぁぁっ!?」
——が、引力に勝てず、ハルの体がくるっと半回転して、人は一緒に床へ倒れこんだ。
「だ、大丈夫かぁ!?」
慌てて、二人のかたわらに駆け寄る。
紗雪先輩は、「いたたた……」と、すぐに起き上がったけれど、ハルは床に伏したままだ。
もしや、気絶してる?
「おい、ハル!!」
「う、うぅん……」
肩をゆすると、薄いまぶたが開かれる。
いたいけな瞳が揺れて、ぼんやりとオレを見つめた。
「よかった、生きてる!」
「か、勝手に死なせないでよ……」
乱れた髪を直しながら、ハルは上体を起こした。
「た、大変、申し訳ありません! お怪我はありませんか!?」
壁の一部が開いて、中からキャストらしき男性が飛び出してくる。
なるほど。そこにスタッフ用の隠し扉があったのか。
「ぼ、僕は大丈夫です……」
「ですが、お客様、念のために医務室へ!」
「そうだぞ、ハル。もし骨でも折れてたらどうする。オレがアマソンで、10リットルも牛乳を送ってやった意味がないだろ!?」
「いや、いつ送ったの!? 僕、何も聞いてないんだけど!」
「でも、桜雅の言う通りだよ、ハルくん。後で痛むといけないし」
「う、うぅ……本当に平気なんですって」
オレと紗雪先輩に押し切られ、ハルは医務室へ連れて行かれた。
「紗雪先輩、オレの後ろについててくださいね。お化けが出たら、一瞬で殴り倒してやりますから!」
「ふふふ、頼もしいね。でも、いくらお化けが相手でも暴力はだめよ?」
「はい! オレは平和主義者です!」
お化け屋敷といえば、世のカップル達が、桃色の悲鳴を上げながら、イチャイチャする定番スポット。
今度こそ、紗雪先輩をエレガントにリードしてみせる!
ジェットコースターの時のような悲劇は、もう二度と繰り返さない!
あわよくば、
『桜雅くん、素敵!』
なんて抱き付かれちゃったりして。
くぅ〜、たまらん!
「や、やっぱり、先輩と二人で行ってきなよ。僕、外で待ってるから……」
「なんだなんだぁ〜。さては、入る前からビビってるのか、ハル」
「び、ビビってないし!」
強気な言葉とは裏腹に、ハルの足は震えていた。
生まれたての子鹿か。
「私は、ハルくんとも一緒に行きたいな。その方が心強いし。もちろん、無理にとは言わないけど」
「え、えっと……」
ハルは口をモゴモゴさせて、言いよどんだ。
こいつ、昔から断れないタチなんだよなぁ。
「いいじゃねぇか。もしちびりそうになったら、オレがおんぶしてやる」
「し、しなくていい! ていうか、ちびんないし!」
顔を真っ赤にして怒るハル。
そんなガキっぽいオレ達のやり取りを、紗雪先輩は聖母のようなまなざしで見ていた。
お化け屋敷といったって、本物の幽霊が出てくるわけじゃない。
種や仕掛けを暴いてしまえば、中はただの屋敷だ。
常日頃、『おふくろ』という凶暴な鬼が家中を徘徊しているオレにとって、こんなのは屁のかっぱ――いや、河原のきゅうりってもんだ。
と、入る前は、余裕をかましていたオレだったのだが……。
足を踏み入れた先は、死の禁足地であった。
「桜雅くん、大丈夫……?」
「な、なんともありません! こんなの、ただの作り物ですよっ。ハハハ……」
「無理してない? 足、震えてるよ」
「むっ、武者震いってやつです」
「リタイアしてもいいからね」
「まさか! 紗雪先輩を置いて逃げるなんて! そんな薄情な真似はできません!」
震える足の裏に、ぐっと力を入れる。
根性を見せろ、オレ!
「ま、待ってよぉ〜。二人とも歩くの早いってばぁ〜」
「ハル、お前まだそこにいたのか!?」
後ろを見ると、ハルが入口付近に座り込んで動けなくなっていた。
それに気付いた紗雪先輩が、ルートを引き返し、ハルのもとへ駆け寄る。
「ごめんね、ハルくん。暗かったから、気が付かなくて」
「あ、いえ……僕がトロいだけですから」
優しい紗雪先輩に手を握られ、ハルはよろよろと立ち上がった。
暗闇の中、繋がれた二人の手に目が釘付けになる。
ラッキーな奴め……。その場所、オレと代われぇい!
しばらく進んでいくと、暗闇の中にベッドがぽつんと置かれている部屋にたどり着いた。
大きさ的にキングベッドか。
これがお一人様用なら、屋敷の主人は、きっと相当な金持ちに違いない。
幽霊一家の大富豪様は、一体、どんな枕を使っているんだ?
気になって、ベッドに近付くと、
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
なんだなんだよ、これ!?
ベッドの下から手がっ!
ぬっと、ベッドの下から手が伸びてきて、オレの足首を掴んだ。
「は、離せ、この野郎! 不意打ちなんて卑怯だぞ!」
「きゃあっ!」
その時、手を振り払おうと、足を振り上げた反動で、オレは後ろにいた紗雪先輩とぶつかってしまった。
やらかした!?
「あ、危ないっ!」
よろめいた紗雪先輩の手を、ハルがすかさず掴む。
「ハルくん!」
「わ、わぁぁぁっ!?」
——が、引力に勝てず、ハルの体がくるっと半回転して、人は一緒に床へ倒れこんだ。
「だ、大丈夫かぁ!?」
慌てて、二人のかたわらに駆け寄る。
紗雪先輩は、「いたたた……」と、すぐに起き上がったけれど、ハルは床に伏したままだ。
もしや、気絶してる?
「おい、ハル!!」
「う、うぅん……」
肩をゆすると、薄いまぶたが開かれる。
いたいけな瞳が揺れて、ぼんやりとオレを見つめた。
「よかった、生きてる!」
「か、勝手に死なせないでよ……」
乱れた髪を直しながら、ハルは上体を起こした。
「た、大変、申し訳ありません! お怪我はありませんか!?」
壁の一部が開いて、中からキャストらしき男性が飛び出してくる。
なるほど。そこにスタッフ用の隠し扉があったのか。
「ぼ、僕は大丈夫です……」
「ですが、お客様、念のために医務室へ!」
「そうだぞ、ハル。もし骨でも折れてたらどうする。オレがアマソンで、10リットルも牛乳を送ってやった意味がないだろ!?」
「いや、いつ送ったの!? 僕、何も聞いてないんだけど!」
「でも、桜雅の言う通りだよ、ハルくん。後で痛むといけないし」
「う、うぅ……本当に平気なんですって」
オレと紗雪先輩に押し切られ、ハルは医務室へ連れて行かれた。


