桜が咲いたら、必ず君に会いにいく

「やったな、相棒!」
「し、死ぬかと思ったぁ……」

 MISSIONCOMPLETE(ミッションコンプリート)の文字が、壁に現れる。

 外に出ると、ダンジョンの出口は、さっきの売店の前に繋がっていた。

「ハル、オレ達は最強のコンビだ!」
「っ!?」

 オレはハルの肩に腕を回し、そのままネックロックを決める。

 オレと相棒にかかれば、壊せない扉なんてないのだ。

「い、痛いよ、おうくんっ。離して……」

 オレの腕から抜け出そうと、ハルは必死で身をよじる。

 そんなにむさ苦しいか……。

 ちょっと傷付く。

「桜雅くん……と、となりにいるのは、お友達?」
「さ、紗雪先輩!?」

 ペットボトルを持った紗雪先輩が、こっちを見て、不思議そうに首を傾げていた。

「「しまった」」

 オレとハルの声が、見事にシンクロする。

 慌てて腕を離すと、ハルは肩を縮めて、気まずそうにうつむいた。

「実は迷子の男の子を見つけて。一緒にご両親を探してたの」
「そ、そうだったんですか!?」
「何回か電話したんだけど……着信、気付かなかった?」
「す、すみません!」

 ダンジョンに夢中で、全然、気にしてなかった!

「ところで、そっちの彼は……」

 訝しげな視線が、ハルに向けられる。

「えぇっとですねっ、紗雪先輩……。これには海より深〜い事情がありまして」

 どうする、オレ。
 海より深い事情なんて、どう説明すりゃあいいんだよ!?
 
「ごめんなさい、先輩」

 その時、オレのとなりで固まっていたハルが口を開いた。

「僕はおうくん――桜雅くんの幼馴染で、咲間(さくま)ハルと言います」

 意を決したように、ハルは一歩前に出る。
 しかし、その指先は震え、ズボンの裾をぎゅっと掴んでいた。

「今日は高校の友達と一緒に遊びに来てたんですけど、急用ができちゃったみたいで、先に帰ってしまって……。だから、おうくんとは、たまたま会っただけなんです」

 ハルは紗雪先輩にこう説明した。

 ダンジョンは二人以上でないとプレイできない。
 だから、オレがハルに付き添ったのだと。

「そうなんすよ! こいつ、昔から運動音痴だから! オレがいないと、すぐリタイアすんじゃないかって、心配で心配で」

 ハルが目配せをしてきたので、オレは慌てて話を合わせる。

「そうだったんだ」

 紗雪先輩は納得してくれたらしい。

 ナイスだ、ハル。恩に切るぞ!

「ねぇ、ハルくん」
「えっ、いきなり名前呼び!?」

 紗雪先輩は、はっとしたように口元を押さえる。

 「ご、ごめんね。ハルくん、なんだか弟みたいで可愛いから、つい……」
「お、弟みたい……ですか」

 ハルは笑おうとして失敗したみたいな、なんとも言えない顔をした。

 ドンマイ、ハル。

 だが、本来なら特上級の幸福だぞ。

 彼氏(仮)であるこのオレを差して置いて、紗雪先輩に可愛いと言わしめるなんて!

「あの、先輩……。僕、お邪魔でしたよね」
「ううん。むしろ、桜雅くんのお友達に会えて光栄だよ」

 オリーブの瞳が、慈愛の色で優しく光る。

「二人さえ良ければ、ハルくんも一緒に回らない?」
「「えっ」」

 またしてもハルと声がハモった。

「で、でもっ、デート中なんじゃ……」

 挙動不審なハルの視線が、右へ左へ泳ぐ。
 すると、紗雪先輩は、ハルの後ろにいるオレを上目遣い気味に覗き見た。

「ダメかな……? 桜雅くん」
「もちろん、オッケーです!!」
「しょ、正気で言ってる!?」
 
 右手の親指で、グッとサインを作り、バシッと胸の前で掲げる。

 ハルは言葉を失い、半開きの目で、オレの顔を見上げた。

「よかった。ありがとう、桜雅くん」
 
 ちょうど真上に来た太陽に、白百合の笑顔が輝く。

 紗雪先輩のお願いを断るなんて選択は、オレの辞書にはない!