桜が咲いたら、必ず君に会いにいく

 オレは駅のベンチに座り、ハルを待っていた。

「ハルーーーーー!!」
「お……おうくん!?」

 ダボったい紫のパーカーを見つけ、スタートダッシュを切る。

「わ、わ、わ、わぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 目標地点まで残り1メートル。

 しかし、オレが抱きつこうとした瞬間、ハルはすばしっこい動きで身を翻し、視界からフレームアウトした。

「イッタァァァァァァァ!!」
「あっ……」

 後ろにあった電柱に、オレのおでこがクリティカルヒットする。

 こ、この野郎……なんて頑丈な柱だ。

「だ、大丈夫!?」
「水臭いじゃないか、ハル!」
「ご、ごめん……」
「ここは熱い抱擁の場面だろ!」
「走れメロスじゃないんだよ!?」

 ——オレは激怒した。
 
「遠かりし日に交わしたオレ達の絆は、どこにいったんだ!?」
「ちょっと、おうくん……! 声が大きいって!」

 ハルが、とっさにオレの口を塞ぐ。

 気付けば、オレ達は道行く人々の注目の的になっていた。
 
「とにかく、中に入ろう?」
「おい、ハル! 話はまだ終わって……」
「いいから!」

 ぐいっと背中を押され、建物の中へ。
 ハルめ、あとで覚えておけ……。

「そういや、お前、なんで私服なんだよ?」
「えっ」
「急いでたなら、そのまま来ればいいじゃないか」

 ハルの格好を見ると、ところどころ服が乱れていた。
 
 オレの推測が正しければ、電話の後、一度、家に寄って出直してきたのだろう。

「す、好きじゃないんだよ」
「好きじゃない? って、何が?」
「せ、制服……」
「なんで?」
「なんでって言われても……」

 ハルは目を泳がせ、パーカーの紐の先をくるくると指に巻きつけた。
 それから小さな声で、ぼそっとつぶやく。

「……似合わないんだよ」
「えっ、しょうもなっ」
「ぼ、僕にとっては重要なんですっ!」

 ぎゅっと両手のこぶしを握り、ハルは顔を赤くする。

 なぜ、オレが怒られねばならんのだ。正直に言っただけなのに。

「だったら、今度、着てこいよ。似合うか、似合わないか、オレが見てやる」
「お、おうくんが?」
「他に誰がいる? まさか、背後霊か!?」

 ガバっと立ち上がり、オレは戦闘態勢を取る。

「どこだ! 出てこい! 隠れるなんて卑怯だぞ!」
「ふふふっ」

 ふと笑い声が落ちる。
 となりを見ると、ハルが口元をおさえて笑っていた。

「僕しかいないよ」

 あどけない声がささやく。

 ねこじゃらしのような柔らかい感触が、肋骨の内側をくすぐった。

 ……ハルって、こんなに可愛かったっけ?

 胸の中がざわめき立つ。

 一度、意識してしまうと、音はますます大きくなっていった。

「ま、まぁ、なんだ……。お前は素材がいいからな。おしゃれなんて必要ねぇか」

 れ、冷静になれ、桜雅。
 お前には美澄先輩という心に決めた人がいるだろ。

 ましてや、ハルはオレの弟分。
 決して、意志が揺らいだわけでは……。

 ——って、なんで頬を赤らめているんだ、ハル!? 

「そ、そんなに見つめないでよ……照れる」

 パーカーのフードを深く被り、ハルは顔を隠した。

 ぬぅ〜っ!!

 心臓のバロメーターが上昇して、測定不能になる。

 どうやら、オレは一線を破壊し、さらなる人類未踏の領域へと足を踏み入れてしまったらしい。