君と手をつなぎたいけど

「ちょっと気を抜くとはぐれそうだね。合流場所決めておいた方がいいかな?」

 もしバラバラになって姿を見失っても、それを決めておけばすんなり用事に向かうことが出来るだろう。静良の言うことは理にかなってる。
 でも大河は逡巡した後、ぼそっと口を開いた。

「俺のシャツ、掴んどく?」
「え、いいの?」
「ん」

 緊張でぶっきらぼうになった大河に気にすることなく、静良がにっこり笑って大河のシャツの裾をつまんだ。

「へへっ。これで迷子にならずに済むね。大河お兄ちゃん」
「誰がお兄ちゃんですか。こんな大きな妹を持った覚えはありませんよ」

 彼女が素直に従ってくれたことにドギマギしつつ、軽口をたたく。

 手をつなぐ勇気はない。
 でもシャツをつまんだ彼女との距離がさっきよりずっと近くなる。

「そのまま放さないでね」
「うん!」

(だからさ、そんな嬉しそうにされると勘違いしそうになるんだよなあ)

「俺の顔はいいから写真を見なさい」
「はーい」

 いつか、この小さな手を握れる日がくるだろうか。シャツではなく「俺の手をはなさないでね」といえる日が。もしくは言ってもらえる日が来るといい。

 そんなことを考えつつ、目の前にあるパネルを見つめる。
 隣で同じようにパネルを見ていた静良が、もう数センチ身を寄せてきたのは、さらに混んできたせい。だから――

「私ね、くじ運がいいんだ」

 そんな小さな声が聞こえたのは、空耳――だよな?