君と手をつなぎたいけど

 どこを見ても人、人、人。
 駅前のショッピングモールはいつも人が多いと思っていたけれど、さすがに平日なら大丈夫だと思っていた。

「混んでるなぁ」
「夏休みだからねぇ」

 独り言のつもりが返事が返って来る。
 そののほほんとした声に大河(たいが)が振り向くと、いつのまにか待ち合わせ場所についていたらしい福田静良(せいら)が、「ごめん伊藤、待った?」と片手をあげた。

「いや。思ったより早かったなと思った」

 約束の時間は十五分前だったが、電車が遅延していると連絡を貰っていたから、それは本心だ。一時間くらい遅れるくらいの覚悟はしていた。別にデートってわけじゃないけど、静良を待つのは全然苦ではなかったから。

「じゃあ行くか」
「そだねー」

 ゆっくり歩きだすと、隣に静良が並ぶ。
 制服じゃない彼女を横目で観察し、ジーンズであることに少しがっかりした。カジュアルな格好は可愛いけれど、もう少し女の子らしいファッションで来てくれるのを期待していたのだ。

(まったく意識されてないなあ)

 心の中でため息をつく。
 一緒に出掛けることになったのは偶然だ。
 偶々くじ引きで、部活で使う道具の買い出し班になっただけ。
 せっかく駅前まで出かけるなら、ついでに見たい写真展にも行きたいという静良たちの雑談を聞き、なら一緒に行かないかと誘ったのだ。マイナーなイベントだったけど、大河も偶然見たいと思っていたからと。本心である。

(けっして、福田静良が持ってた写真集がきっかけだったなんてことはないからな。前からSNSで見てたし、母ちゃんがファンだっただけだし)