去年の夏、透くんと最後に食べたかき氷の味を、わたし、白川 凛花はまだ覚えてる。
ふたりで並んで座って、笑い合って、「来年の夏休みも一緒にかき氷食べようね」って約束した。
透くんも「約束だ」って、笑ってくれた。
——なのに、かき氷を食べ終えて目を開けたら、隣に透くんはいなかった。
駄菓子屋は廃墟になっていて、中庭の涼しい風も、風鈴の音も、ぜんぶ消えていた。
学校が始まっても、クラスメイトは誰ひとり透くんのことを覚えていなくて。まるで最初から、蒼木 透なんて人は存在しなかったみたいに——世界が書き換わってしまっていた。
でも、わたしは覚えてる。
あの夏祭りで、透くんがくれた風鈴。透き通ったガラスに、水色の模様が描かれた、小さな風鈴。
あれだけは消えなかった。——透くんとの夏は、たしかにあったんだって。
◆
あれから一年。
季節が一周して、わたしは高校3年生になった。
風鈴は木箱から取り出して、ずっと部屋に飾ったままにしている。
秋になっても、冬になっても、しまわなかった。窓を開けるたびに、カラン、と小さく鳴る。その音を聞くと、透くんの声が聞こえる気がして——どうしても、片づけられなかった。
「凛花、いつまで風鈴出しっぱなしにしてるの? もう冬よ?」
お母さんには何度も言われた。
「季節感ゼロだよ〜。まさか夏に会った彼氏の思い出の品、とか?」
友だちにもからかわれた。
「……ちがうし。ただ、音が好きなだけだし」
嘘はついてない。この音が好きなのは本当だから。
でも、本当の理由は言えない。去年の夏に時間を超えて出会った男の子がくれたものだなんて、言ったところで誰も信じてくれない。
だから、ひとりで信じてた。
来年の夏——きっと、また会える。
根拠なんてない。でも、あの風鈴が消えなかったこと。それだけが、わたしの確信のぜんぶだった。
◆
そして——2026年、8月1日。
去年、初めてタイムリープした日と同じ日付。
去年よりは少しだけ暑さがマシな気がするけど、やっぱり暑い。相変わらずの、容赦ない夏。
でも、わたしの心はそれどころじゃなかった。
逸る気持ちを抑えて、わたしは夏井商店——あの駄菓子屋を目指して歩いていた。
去年の帰り、廃墟になっていたあの場所。
もしかして、いや——【絶対に】、元通りになっているはず。
だって、一年前のこの日にタイムリープしたんだから。同じ日に来れば、きっとまた——
「……根拠ないのに、なんでこんなに確信してるんだろ、わたし」
自分でも呆れるけど、足は止まらない。
見慣れた路地の角を曲がると——
「……っ!」
声にならない声が漏れた。
夏井商店は、そこにあった。
去年の夏と変わらない、古びた木造の外観。手書きの看板。ちょっと暗い店内に並ぶ駄菓子たち。
廃墟の面影なんて、どこにもない。まるで、あの日の光景が嘘だったみたいに。
「やっぱり……やっぱり、あった……!」
震える足で、一歩踏み入れる。
とたんに、中庭の方からすうっと涼しい風が吹いてきて——あの、時間がゆっくりになったみたいな空気が、頬を撫でた。
去年と、変わらない。
目頭がじわっと熱くなる。でも、泣いてる場合じゃない。
わたしは今日、透くんに会いに行くんだから。
◆
中庭に出ると、不揃いな石畳も、手入れされた植え込みも、木陰のベンチも、ぜんぶ元通りだった。
風鈴がカラン、と鳴って——その音が、部屋に飾ってある風鈴と重なった。
「……おかえり、って言われてるみたい」
かき氷のメニューが風にゆれている。
視線で追っていくと——あった。
『日向夏シロップ』
あの山吹色の、甘酸っぱいシロップ。
去年、この味を選んだことで、すべてが始まった。
「……今年も、これしかないでしょ」
迷わず日向夏シロップを選んで、いつものベンチに腰かける。
運命なんだって、全部うまくいくって——もはや、根拠のない確信が揺るがない自信に変わっている自分が、ちょっとおかしくて、でも止められない。
ひとくち、食べる。
去年と同じ、爽やかな柑橘の甘酸っぱさが口に広がって——
「……ん〜っ、やっぱりおいしい……」
能天気に味わいながら、ふたくち、みくちと食べ進めていると——
ふっ、と空気が変わった。
蝉の声が遠のいて、風がほんの少しだけ冷たくなる。
肌がぞわっとして、けれど懐かしい——この感覚。
(来た……! やっぱり……!)
心の中でガッツポーズ。
調子に乗ってるって自分でもわかってる。でも、だって本当にまた来られたんだから!
目を開けると——ベンチの隣に、人の気配があった。
ふたりで並んで座って、笑い合って、「来年の夏休みも一緒にかき氷食べようね」って約束した。
透くんも「約束だ」って、笑ってくれた。
——なのに、かき氷を食べ終えて目を開けたら、隣に透くんはいなかった。
駄菓子屋は廃墟になっていて、中庭の涼しい風も、風鈴の音も、ぜんぶ消えていた。
学校が始まっても、クラスメイトは誰ひとり透くんのことを覚えていなくて。まるで最初から、蒼木 透なんて人は存在しなかったみたいに——世界が書き換わってしまっていた。
でも、わたしは覚えてる。
あの夏祭りで、透くんがくれた風鈴。透き通ったガラスに、水色の模様が描かれた、小さな風鈴。
あれだけは消えなかった。——透くんとの夏は、たしかにあったんだって。
◆
あれから一年。
季節が一周して、わたしは高校3年生になった。
風鈴は木箱から取り出して、ずっと部屋に飾ったままにしている。
秋になっても、冬になっても、しまわなかった。窓を開けるたびに、カラン、と小さく鳴る。その音を聞くと、透くんの声が聞こえる気がして——どうしても、片づけられなかった。
「凛花、いつまで風鈴出しっぱなしにしてるの? もう冬よ?」
お母さんには何度も言われた。
「季節感ゼロだよ〜。まさか夏に会った彼氏の思い出の品、とか?」
友だちにもからかわれた。
「……ちがうし。ただ、音が好きなだけだし」
嘘はついてない。この音が好きなのは本当だから。
でも、本当の理由は言えない。去年の夏に時間を超えて出会った男の子がくれたものだなんて、言ったところで誰も信じてくれない。
だから、ひとりで信じてた。
来年の夏——きっと、また会える。
根拠なんてない。でも、あの風鈴が消えなかったこと。それだけが、わたしの確信のぜんぶだった。
◆
そして——2026年、8月1日。
去年、初めてタイムリープした日と同じ日付。
去年よりは少しだけ暑さがマシな気がするけど、やっぱり暑い。相変わらずの、容赦ない夏。
でも、わたしの心はそれどころじゃなかった。
逸る気持ちを抑えて、わたしは夏井商店——あの駄菓子屋を目指して歩いていた。
去年の帰り、廃墟になっていたあの場所。
もしかして、いや——【絶対に】、元通りになっているはず。
だって、一年前のこの日にタイムリープしたんだから。同じ日に来れば、きっとまた——
「……根拠ないのに、なんでこんなに確信してるんだろ、わたし」
自分でも呆れるけど、足は止まらない。
見慣れた路地の角を曲がると——
「……っ!」
声にならない声が漏れた。
夏井商店は、そこにあった。
去年の夏と変わらない、古びた木造の外観。手書きの看板。ちょっと暗い店内に並ぶ駄菓子たち。
廃墟の面影なんて、どこにもない。まるで、あの日の光景が嘘だったみたいに。
「やっぱり……やっぱり、あった……!」
震える足で、一歩踏み入れる。
とたんに、中庭の方からすうっと涼しい風が吹いてきて——あの、時間がゆっくりになったみたいな空気が、頬を撫でた。
去年と、変わらない。
目頭がじわっと熱くなる。でも、泣いてる場合じゃない。
わたしは今日、透くんに会いに行くんだから。
◆
中庭に出ると、不揃いな石畳も、手入れされた植え込みも、木陰のベンチも、ぜんぶ元通りだった。
風鈴がカラン、と鳴って——その音が、部屋に飾ってある風鈴と重なった。
「……おかえり、って言われてるみたい」
かき氷のメニューが風にゆれている。
視線で追っていくと——あった。
『日向夏シロップ』
あの山吹色の、甘酸っぱいシロップ。
去年、この味を選んだことで、すべてが始まった。
「……今年も、これしかないでしょ」
迷わず日向夏シロップを選んで、いつものベンチに腰かける。
運命なんだって、全部うまくいくって——もはや、根拠のない確信が揺るがない自信に変わっている自分が、ちょっとおかしくて、でも止められない。
ひとくち、食べる。
去年と同じ、爽やかな柑橘の甘酸っぱさが口に広がって——
「……ん〜っ、やっぱりおいしい……」
能天気に味わいながら、ふたくち、みくちと食べ進めていると——
ふっ、と空気が変わった。
蝉の声が遠のいて、風がほんの少しだけ冷たくなる。
肌がぞわっとして、けれど懐かしい——この感覚。
(来た……! やっぱり……!)
心の中でガッツポーズ。
調子に乗ってるって自分でもわかってる。でも、だって本当にまた来られたんだから!
目を開けると——ベンチの隣に、人の気配があった。

