「画面の中の『ラニーニャ』をゆるキャラにできないかな?」
あかりさんの提案に、工場内の空気が一瞬止まった。
「ソウ! アカリみたいにニコニコするの!」
タリカが勢いよく両手を叩いた。
僕は思わずあかりさんの横顔を見てしまった。
──ああ、確かに笑顔のモデルはこの人なのかもしれない。
「あかりの絵なら、僕が描くよ。」
そう言ってカルロスがイラストを描きだした。
「顔の表情を見せたいから、2頭身のキャラにして。」
なんとなくあかりさんに似ている、かわいらしいキャラを描いてくれた。
「かわいいわね。
名前は、『あずきちゃん』なんてどう?」
すると、横から藤島さんがぐいっと割り込んできた。
「おいおい、モデルは俺だろ?
『ぽちゃおじちゃん』とかよ!」
「それじゃ甘すぎて、糖尿まっしぐらですね」
神崎課長が即座に切り返した。
「誰が糖分過多だ!」
ようかんをかじりながら吠える藤島さんに、工場全体がドッと笑いに包まれた。
──こうして、伝説のドラゴンは『あずきちゃん』という優しい顔を手に入れることになった。
圧力鍋の状態が、温度や圧力など想定した範囲で正常に作動しているときは、ニコニコ。
許容できる範囲で作動しているが、異常値に近づくと困った顔。
そのほか停止すると泣き顔、圧力異常など、安全にかかわる異常を検知した場合は怒った顔など、小豆ちゃんに表情をつけていった。
「スガヤ、なんて言っているか知りたい。」
ドラゴンの状態を簡単なコメントとともに表示させた。
タッチパネルの画面を操作すれば、ほかの国の言葉でも表示できるようにした。
「これであずきの気持ちがわかるわね。」
みんなが喜んでいる。
ああ、エンジニアってこんな時に喜ぶんだな。
それから僕は、ちょっとした遊び心でカルロスに絵を描いてもらった。
「あずきちゃんの服装は、いにしえのドラゴンを鎮める巫女(みこ)さんかな。」
「シー、スガヤも好きだねぇ、そういうの。
コスプレか?」
「ほっとけ。」
残る課題は塩の量、『ちょうどいいあんばい』
「おい、菅谷。
水の量はご機嫌指数で調整済みなんだろ?
だったらここは標準的な量にしておいて、テイスティングで調整する余地を残しておくってのはどうだ?」
「そうね……塩は最後の工程だから、仕上がりのチェックで調整が現実的ね。
でも、おかげで随分と良くなったわ。
調整が必要なときだけやればいいんですもの。」
「そうだよ、スガヤ。
100%OKはアリエナイね。
80%OKでも、タリカはうれしい。
佐藤さんに『チガウ』言われることが減る。」
僕はAIとオートメーションで完璧な味の再現を目指していたけど、みんなの言う「優しいドラゴン」は扱いやすさなんだな。
「どのメーカーの菓子も同じ味じゃ、つまらんだろ?」
藤島さんの言葉がふとよぎった。
そこが職人の領域なんだ。
「ドラゴンの声を、あずきちゃんが伝えてくれる。
もうそれだけで、心強いのよ。」
やがて小豆ちゃん搭載後に出荷した小豆が、ようかんになって僕たちのもとに届けられた。
「かわいい。」
あかりさんの第一声がそれだった。
パッケージには『あずきちゃん』がデザインされ、商品名は『あずきの気持ち』。
それまでの伝統的な包み紙から、ピンクと白のかわいいものに変わっていた。
「俺のドラゴンが……こんなかわいい姿に……?」
出来上がった製品を食べながら、藤島さんがパッケージをしげしげと眺めていた。
「まぁ悪くねぇな……でも小さい。
ようかんもう一個くれ。」
「一口サイズっすからね。」
「これなら世の女の子たちにも自慢できるわね。
パッケージを見たら誰でも親しみを持ってくれるわよ。」
あかりさんが楽しそうにそう話していた。
ポップで新しい、でも伝統的なようかんの出来上がりだ。
「私たちが作った製品。」
タリカが誇らしげにそう言った。
カルロスも、もちろんあかりさんも、感動をかみしめていた。



