あの日、青い海に君を置いてきた~「大丈夫」の先で君を失った。だから私は、今日も止める~



もちろん、合宿中でも風が強すぎれば出艇しない日もあった。
そんな日は、工学部を中心にした修理好きのメンバーが、
「今日は本格的に修理やりたいです」
と目を輝かせる。

ほかの部員は、
草取り。
風呂掃除。
トイレ掃除。
艇庫まわりの整備。

普段できないことをやる。

それでも時間が余る。
すると。
待ってましたとばかりに。
「トレーニングするぞ!」
航平先輩の声が飛ぶ。

――やっぱり。

腹筋。
背筋。
腕立て伏せ。

どれも、このころの私にはまだ重かった。
でも、二年生や三年生の先輩を見ればわかる。
こうやって鍛えれば、強くなる。
ばてにくい体になる。
シートを引く力。
重いセンターボードを差し込む力。

風で傾くヨットを、体重を外へ預けて起こすハイクアウトの力。
体力があってこそ、
周囲を見る余裕ができる。
考える余裕ができる。
判断できる。
ヨットを安全に操れる。

頭では、わかっていた。
でも、
きついものは、きつい。
体はつらい。
気持ちは萎える。

だから、そんな夜は寝袋の中でこっそり祈った。
――航平先輩が、明日はトレーニングの指示を出せなくなりますように。
足が折れろ、とまではもう思わなかった。
ほんの少しだけ、
私も成長していた。