ただし。
合宿は、楽しいことばかりではなかった。
砂浜ランニング。
これは、本当にきつかった。
朝六時。
起床。
顔を洗って、艇庫前の砂浜へ集合する。
東側の岬に向かって、弓なりに伸びる砂浜を走る。
歩くだけでも、足が砂に沈む。
それを見た私は思った。
――これで走るの?
――は?
――狂ってるの?
もちろん、そんなことを口に出せる雰囲気ではない。
体育会なのだ。
航平先輩が短く言った。
「行くぞ」
「瀬戸大、ファイト!」
「「オー!」」
「ファイト!」
「「オー!」」
朝日に向かって、みんなで走る。
景色だけなら、完璧な青春だった。
でも。
全然、前へ進まない。
一歩踏み出すたびに、足が砂へ沈む。
沈んだ足を引き抜く。
それだけで体力を奪われる。
蹴った力が、前へ進む力にならない。
砂浜には流木もある。
海藻も落ちている。
踏めば滑る。
足を取られれば、捻挫するかもしれない。
着地する場所にも気を配る。
波は、やさしく寄せては返していた。
海水をかぶったところだけ、砂の色が黒い。
私は走りながら心の中で叫んだ。
――航平先輩、もっと水際へ!
濡れた砂は締まっている。
乾いた砂ほど足が沈まない。
先頭を走る航平先輩が、少しずつ水際へ寄っていく。
――そう!
――そこ!
――最高!
濡れた砂、最高!
グラウンドほどではないけれど、ずっと走りやすい。
足を蹴れば、ちゃんと前へ進む。
私は必死で黒い砂を探した。
流木をよける。
海藻をよける。
そして、
「瀬戸大、ファイト!」
「オー!」
声を出しながら走る。
やがて折り返し地点へ着く。
そこで向きを変える。
帰り道には、さっき自分たちがつけた無数の足跡が残っている。
それをたどるようにして、艇庫へ戻る。
たどり着いたころには、全員が肩で息をしていた。
何人かが大きく遅れる日もあった。
砂浜ランニングは、見た目よりずっときつかった。
そこへ、艇庫二階の窓から食事当番が顔を出す。
「おかえりー!」
私たちが戻る時刻に合わせて、
テーブルを出し、
ご飯を並べ、
みそ汁を用意し、
ふりかけまで置いてある。
朝の砂浜ランニングを経験すると、
――食事当番、最高。
心からそう思った。
でも山さんだけは言った。
「俺は飯作るくらいなら、砂浜走ったほうがいい」
「本気?」
「本気」
麗子が笑った。
「言ってるだけじゃない?」
私たちも笑った。
◇◇◇
そして、いよいよ海へ出る。



