あの日、青い海に君を置いてきた~「大丈夫」の先で君を失った。だから私は、今日も止める~


夜。
片づけが終わり、寝袋を広げるまでの自由時間。
私たちはくだらない話をした。
受験を終えたばかりだったから、文学史クイズをすることもあった。

山さんが言う。
「森鴎外」
「『舞姫』!」
「田山花袋」
「『蒲団』!」
「夏目漱石」
「『こころ』!」

「じゃあ前期三部作」
「『三四郎』『それから』『門』!」
「正解!」
そんなことで大騒ぎした。

かと思えば、
宇宙は最後にどうなるのか。
ブラックホールの向こうには何があるのか。
人は死んだらどこへ行くのか。

突然、壮大な話になる。
誰かがまじめに語り、
誰かが茶化し、
麗子が大きな口を開けて笑う。

「こんなに楽しいメンバー、初めて」
私も、そう思った。
まじめな人。
毒舌な人。
冗談ばかり言う人。
気が利く人。
修理のことになると突然、生き生きする人。
みんな違う。

だから、面白かった。
土曜の朝から日曜の夜まで。

一緒に働いて、
一緒に食べて、
一緒に笑って、
同じ床に寝袋を並べる。

気づけば、
家族より長い時間を一緒に過ごしていた。

最初は、
――寝袋で泊まるなんて絶対いや。
そう思っていた艇庫が、
いつの間にか、
帰ってくるとほっとする場所になっていた。

そして私は。
仲間の中に航平先輩の姿を見つけるだけで、
少しだけうれしくなるようになっていた。

まだ、それを恋だとは思っていなかった。