そのころの私の毎日は、単純だった。
トレーニングを終えて、一人暮らしのアパートへ帰る。
ご飯を作る。
食べる。
食器を洗う。
翌日の授業の準備をする。
――少しくらいテレビを見よう。
そう思って横になる。
そして、
泥のように眠る。
気がつけば朝。
「えっ!」
慌てて飛び起きる。
シャワーを浴びる。
大学へ走る。
授業開始ぎりぎりに教室へ滑り込む。
後ろの席には麗子と美咲。
二人はちゃんとノートを取っている。
私も取ろうとする。
でも。
まぶたが重い。
――寝るな。
目を開ける。
――寝るな、アンナ。
また閉じる。
必死に抵抗する。
そして。
負ける。
気がつけば数分経っている。
授業。
トレーニング。
自動販売機で三人の反省会。
帰宅。
食事。
睡眠。
また大学。
そんな毎日を繰り返した。
ところが、
一か月ほどたったころだった。
「あれ?」
不思議なことが起きた。
河川敷まで走っても、前ほど息が上がらない。
以前なら三回で倒れていた腹筋が、十回できる。
バーベルも二十回、最後まで上がる。
ある日、着替えながら鏡を見た。
「あれ?」
もう一度、自分の体を見る。
細いだけだった腕に、少し筋肉がついている。
肩も、前よりしっかりしている。
脚も強くなった。
お腹が締まった。
姿勢までよくなっている。
そのとき、ふと思った。
――これか。
女子の先輩たちが、どうしてあんなにきれいに見えたのか。
ただ細いんじゃない。
体を動かして。
鍛えて。
自分でつくった体だったんだ
筋肉のついた腕。
まっすぐ伸びた背中。
しっかりした脚。
――人間の体って、筋肉がつくと、こんなにきれいになるんだ。
十八年間生きてきて、そんなことを初めて知った。
そして私は、少しずつ変わっていった。
山を見て育って。
教科書を読んで。
友達とお好み焼きを食べて。
運動とはほとんど縁のなかった高校生の私が。少しずつ。
ほんの少しずつ。
アスリートらしい体になっていく。
それが、うれしかった。
そのうち、トレーニングをしない日が続くと、なんだか体がむずむずするようになった。
あんなに嫌だった筋トレなのに。
気づけば私は、
――今日も体を動かしたいな。
なんて思う人間になっていた。
◇◇◇



