あの日、青い海に君を置いてきた


波は相変わらず高かった。
有名な浮世絵のように、巨大な白波が次々と砕けていく。
四月の海水は、瀬戸内海といえどもまだ冷たい。

仲間たちのヨットは、もうすっかり見えなくなっていた。
波を頭からかぶる。

「げほっ、げほっ……!」
口に入った海水にむせた。
塩辛い。
苦しい。
息を吸おうとしても、次の波が顔を覆う。

時々、意識が遠のきそうになる。
そのたびに、航平先輩が握っているわたしの手を強く引いた。
「アンナ! しっかりしろ!」
「……はい」
返事をしたつもりだった。
でも、自分の声さえ聞こえない。

風。

波。

海。

すべてが轟音になっていた。
どこまでも続く荒波の中で、このまま海の藻屑になって、二人で消えてしまうのだろう。
そんなことを思った。

ヨットから離れて、どれほど流されたのかわからない。
もう艇は見えない。
陸も見えない。

こんなところまで流されて、生きて戻れるはずがない。
死ぬんだ。
わたしも。
航平先輩も。