「咲さんはなんでも持ってますよね。地位も名誉も……、イケメンな彼氏までいるじゃないですか。世界的に活躍する人気モデルの。……国民的女優なんて呼ばれて、みんなに愛されて、八尋だって……、」
野津くんの名前に眉を顰めた。
アリサちゃんはおもむろに、ハイブランドのバッグの中から、食材を切る道具の包丁を取り出した。
そのアンバランスさが可笑しかった。
料理をするんじゃなくて、私を刺し殺す目的で使う為にわざわざ持って来た。
悪い考えが頭をよぎる。
……ここで私がアリサちゃんに殺されたら、野津くんは罪の意識、罪悪感から私をずっと忘れないでいてくれるだろうか。
「寝たよ。」
私の言葉にアリサちゃんの顔から、表情が抜け落ちた。
「野津くんと、この部屋で。」
アリサちゃんの目に、私への殺意が明確に宿った。
本気、だったのかは分からない。
脅すだけ、だったのかも。
でも、今、私が背中を押してあげた。
怒りに目が血走り、
「返して!!あたしの八尋を返してよ!!」
アリサちゃんが突進する様にぶつかって来て、包丁が奥深くまで刺さった。
「なんで、あんたばっかり愛されるのッ!!」
包丁を抜かれて、また刺された。
アリサちゃんは三回目も刺そうとしたが、血で滑り包丁を床に取り落とした。
私の頭は怖いくらい冷静だった。
内臓が傷付いたのか、血が逆流して口から溢れた。
私はこれまで刺される役も、死体の役も、やった事が無い。
いつか、やってみたいと思ってはいた。
けど、もう無理。
涙でぼやける視界の中で、野津くんの顔が浮かんだ。
……会いたい。
私の意識はそこで途切れた。


