本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました。

 ビアンカを見て、穏やかに微笑むユージン様。

 その姿に呆然としていると、ビアンカの相手をしていたらしい侍女が忙しなくこちらへ走ってきた。

「ビ、ビアンカ様! お二人は大切なお話をされているのです。ビアンカは引き続きあちらで私と遊びましょう?」

 ……大事な話どころか、先程まで沈黙が流れていたのだけども……。

 でも、そうだった。これはただの和やかなお茶会などではなく、立派なお見合いなんだわ。

 しかも、メイウェザー子爵家の将来がかかった大事な縁談だ。
 流石に侍女も焦って止めにくるわよね……。

 ビアンカは八歳の子供らしく少し不満気な表情をしていた。
 けれど、頭の良いビアンカはなんとなくこの状況を察したのだろう。

 再びお辞儀をして、「大変失礼いたしました。キャントレル伯爵子息、またお会いできる日を楽しみにしております」と言ってから、すぐに立ち去って行った。

 ユージン様はその後ろ姿を眺めながら、ゆっくりと私に問いかけてきた。

「あの子が、君の妹のビアンカか。まだ幼いのに聡明そうな子だな」
「はい、ビアンカはなんでも出来て……昔から私の自慢の妹なのです」
「……へぇ」

 ユージン様の問いかけに対し、私はすぐに笑顔で答えた。
 だってこれは、嘘偽りのない本当の言葉だったから。

 ____例え、ユージン様が私よりビアンカに興味を持っていたとしても。

 私はビアンカの悪口を言ったりなんか、絶対にしないわ。
 例え恋敵だとしても、私にとってあの子は可愛い妹なのだから。

 私は話を続けた。

「ビアンカは、可愛いだけじゃなくて歌や楽器も上手なんですよ。マナーも完璧で、頭も良くて……あ、あと虫も触れちゃうんです! かっこいいですよね」

 ビアンカの自慢話をしているうちに、段々私まで笑顔になってきてしまう。

 心からの笑顔でユージン様に話をしていると、ユージン様も「ふ、ははっ!」と楽しそうに笑ってくれた。

 ____やっぱりユージン様も、ビアンカの話を聞くのが楽しいんだわ。

 私は心の中で、ビアンカに感謝をした。
 ……その一方で少しだけ、胸がチクリと痛んだのも、嘘じゃないけれど……。



 ユージン様が笑顔で私に問いかけた。

「君は、妹のことが好きなんだな」
「はい、大好きです! ビアンカは本当に素敵な女の子ですから。……姉の私が、何一つ勝てるところがないくらい」

 私がそう言うと、ユージン様はぴくりと眉を動かした。
 いけない、今は私の話なんて興味なかったわよね。

 ズキズキ痛み出す胸の痛みを無視しながら、私は取り繕うように話を続けた。

「で、ですから……妹にはぜひ、ユージン様みたいな素敵な方と幸せになってほしいのです。私とビアンカのどちらが嫁ぐことになっても、家同士の繋がりは保たれますから」

 焦ってフォローを入れたつもりだったのに、ユージン様は先程の笑顔から一転、明らかに不機嫌な表情になってしまった。

 どうしようと困って俯いていると、少ししてからユージン様は静かに口を開いた。

「……君は、お菓子作りができるだろう」
「…………え?」

 突然お菓子の話を出されて、困惑してしまう。
 確かにお菓子作りは得意だけれど……こんな特技、令嬢としてなんの役にも立たないのに。

 戸惑う私をよそに、ユージン様は言葉を紡ぎ続ける。

「それに、妹のことだって大切に思っている。違うか?」
「? そんなの、当たり前のことですわ」
「……そうか、君にとってはそれが当たり前のことなんだな」

 私の返答を聞いたユージン様は、自嘲したような表情を浮かべながら私の目を見た。

「私にも姉がいるが、そんな風に褒められたことなど一度もない。君は自分を卑下しすぎだ」
「そう……でしょうか……」

 曖昧に笑う私を見ながら、ユージン様は少しだけ険しい顔をした。

「もっと自信を持つべきだ。君には長所が沢山あるのだから。それに……」

 そこまでいって、ユージン様が口篭る。
 私が「どうかしましたか」と催促すると、ハッとしたような表情を浮かべてから、コホンと咳払いをした。

「私が誰と結婚するかは、私自身が決めることだ。君は気にしなくていい」

 ____それってつまり、ビアンカと結婚したいから口出しするなってこと……なのかしら。

 胸がじゅくじゅくと膿んでいるような心地になる。
 あぁ、いっそビアンカを嫌いに慣れれば良かったのに。

「……そうですね、失礼いたしました」

 私が最後に謝罪をして、お茶会という名のお見合いはお開きとなった。



 ____そしてそれから数日後、ユージン様から私宛、そしてビアンカ宛の手紙がそれぞれ届いたのである。