【毎日19:38更新】僕らのノイズ ※最後の願いは、よく考えたうえで送信してください。

 朋美がこんなことをするなんて――ありえない。
 いつもだったら、今までの朋美だったら、「おかえり!」って私を抱きしめて、優しく出迎えてくれるはず、なのに。

――酷い。
 
 朋美の後ろですべてを見ていた那月が朋美に駆け寄り、朋美の肩をさすり始める。
 私はその光景を、立ったまま見つめることしかできない。
 今はこの二人以外、誰も、何も言ってはいけない――こんな空気に逆らうなんて、無理に決まっている。

「あんたが……あんたが……」

 朋美は片手で那月を退けたあと、こちらに早足で歩いてくるなり、私の顔を血走った目で睨みながら、私の襟を両手で掴んだ。朋美のせいで息がしにくい。こんな朋美、一度も見たことがない。血走った目も、今みたいに襟を掴むところも。

「あんたがいなければ、うちもみんなも本番で歌えたはずなのに! エース組がいれば大丈夫ってあれだけ信頼されてきて、練習もずっとしてきたのに……。で、この有様? 事故に遭って、エースが欠けました。歌えませんでした。で? はい終わり? ふざけんじゃねえ!」

 朋美の怒声に、自分の耳を疑わざるをえなかった。凍っていた空気が、朋美の怒声で粉々に割れた。
 まるで、リトルクレッシェンドのように従うように少しずつ大きくなっていった朋美の声に、周りは肩を震わせたり、互いに体を寄せあったりして怯えていた。
私は、自分の両手両足が小刻みに震えるのを見られないよう、とにかく全身に力を入れてその場に立っているので精一杯だった。
 そもそも、「歌えませんでした」とは何のことだろうか。コンクールには私以外のみんなが出たはずなのに、「歌えなかった」……?
 身体の震えが止まらない。私はその震えを隠そうとして、思わず、クスっと笑いながら口を開いてしまった。

「まさか、緊張してたから歌えなかったの? でも、それって練習不足が招いていることでしょ? なんで私がここまで責められないといけないの?」

 陸が私のすぐ近くの椅子に座り、大きなため息をつきながら頬杖をついた。

「夕夏、お前、マジで何も知らないの? 先生から聞かされてないの?」
「え? 何も……何かあったの?」
「何か、って……お前、とぼけんのもいい加減にしろよ……お前が事故に遭ったから、ソロが一人いなくなっただろ? それに、まともに練習できていないから、『自由曲をフルで歌い通せない』って先生が俺らに相談すらしないで勝手に判断して、リハーサル直前で出場棄権したんだよ。俺ら全員、あのステージで、大会で歌えずに今、ここにいるんだよ」

 陸の鋭利な目が、私の目の奥を突き刺してくる。

「なんで? 一緒に練習してきて、自分のパートしか音を覚えてなかったってこと? それって変だよね? みんなの音を聴いて歌うのが合唱じゃないの? 普段からそういう練習してたよね、『互いの音を覚えることも練習の一つだから』って。だから、みんな歌えるはずじゃないの? ……代理がいないくらい、なんとかなったはずじゃ」

 陸は、呆れたように大きなため息をまた一つついて椅子から立ち上がり、ぶっきらぼうに部室から出ていってしまった。