【毎日19:38更新】僕らのノイズ ※最後の願いは、よく考えたうえで送信してください。


 今までの――私が知っている、大会の時期以外はわりと穏やかなはずの――部室の空気とは思えず、体が固まる。自由に身動きが取れない。少しでも動かせば、後頭部から首伝いに冷や汗が垂れていきそうな予感がした。
 視界には、まるで大会本番を直前にしたような、冷たくギスギスした空気をまとう部員たちしかいない。
 今出演が決まっているステージは、定期演奏会とかの楽しむことが一番になるようなステージだけ。先生もそう言っていた。
 後輩の一人は、私を見るなりサァーっと血が引いたような顔をして、青ざめていた。そして、手に持っていた楽譜を近くの机に置き、準備室の方へと駆け込んで行った。
 私は不思議に思いながらもバッグを床に置き、みんなの方を向いて「おはよう!」と明るく挨拶した。けれど、誰一人として返事をしてくれなかった。

「きっと、みんな私が急に復帰したから、驚いてるんだよね! そりゃそうだよね! みんなとはもう、二ヶ月も顔を合わせていなかったし!」

 自分の眼球が横へ、上へ、下へとあちこちに動き回る感覚がする。気持ち悪くなってきたのを飲み込んで離し続けることしかできなかった。

「あ! もしかして、幽霊と思われてるとか? でも、両足はね、ほら! 物理的に存在しているし!」

 と、けらけらと乾いた声で笑いながら、私は自分の手で足を触って見せる。

「で、でもね! エースの一人がいないって事態にさせてしまった期間は申し訳なかったと思ってて」

 私は、視界に映るみんなと自分の目をうまく合わせられないまま、笑い続けた。自分ではもう何を言っているのか分からない。
 口任せに話すほど、みんながお互いの顔を見合わせ、目配せして、バツが悪そうな表情に変わっていく。
 
 もうダメか。もう、ここまでかもしれない。
 きっと私は、何かやらかしてしまった。
 でも、後戻りするには遅すぎたんだろうな……。

 諦めていつもの立ち位置に行こうとバッグに手を伸ばしかけたとき、準備室のドアが勢いよく音を立てた。私はすぐにその音の持ち主へ視線を飛ばした。
 準備室のドアから、さっき入っていった後輩と他のエース組の三人――朋美、陸、那月(なつき)――が出てくる。
朋美だけ私のもとへとまっすぐ歩いてきて、目の前で、大きな壁のように立ちはだかった。

「朋美、あのっ――」

 全てを言い終わる前に、朋美は片手で私の頬を強く叩いた。
 私は、痛いと感じるよりも、状況を飲み込めずにいた。びくびくした気持ちが朋美に気づかれないようにと、穏やかに口角を上げて微笑み返した。そうしたら、朋美の顔が鬼のように歪んで、今度はもう片方の頬を叩かれた。頬に広がるじわじわとした痛みと、熱。
 私は最後に叩かれた右頬を手で抑えて朋美を睨んだ。