昇降口で上履きに履き替え最上階まで昇ると、廊下の奥、行き止まりに部室が見えた。
心のざわつきをかき消すように、半ば走り気味で早歩きをしたせいか、酸欠に近い状態でここまで来てしまった。
乱れる息を整えようと、壁に手を伸ばすと、この季節らしく、ひんやりとした冷たさだけが伝わってくる。背中を微量の電流が走ったような気がした。
そうだ、この不安はきっと――寒いせいだ。
ドクンと拍動が後頭部を何度も打つ。
今にも口から飛び出てしまいそうな心臓に右手を当てて、そっと強く言い聞かせた。
大丈夫、きっと、うまくやれる。
部室に近づくにつれ、私は口角を上げて、笑顔を作って、明るさを必死に取り繕った。
大会のこと、この明るさで謝ればなんとかなるだろうと思いたい一心で、ドアを横に引いた。
「おはようございます!」
私は、部室全体に聞こえるように、大きな声で挨拶した。
「昨日のこと、ごめんなさい! 実は――」
バチンッ――その音と共に、朋美に襟元を強く引っ張られた。
「あんたが……あんたが……」
朋美から向けられる怒りに満ちた眼差しと、発せられた言葉に、記憶の蓋をこじ開けられた。
大会で勝ったのに、金賞を獲れたのに、どうして。
頬の痛みよりも、頭の中であふれる疑問符のほうが、何倍も、何十倍も気持ち悪くて吐きそうになる。
同じだ。
那月が朋美に駆け寄って背中をさするところも、陸がため息を何度もついて呆れて不満を告げてくるところも。
それだけじゃない、ほぼ全て、繰り返されている。ちゃんと" あのとき "願ったはず"なのに……。
朋美は楽譜を持って部室から出て行き、部室には私一人が残された。
やっと、気がついた。
変わっていたのは、変わってしまったのは――――。
この場所で膝から崩れ落ちることも、涙があふれて止まらないことも、一切ない、私のほうだった。
部室に入るまで、ほんの数十分前までは、あんなにざわざわしたものでいっぱいになっていたはずなのに。まるで、自分が大きな空洞の中心にいるようで。
窓の向こう側から、グラウンドで練習している運動部のかけ声だけが聞こえてくる。
とにかく全体の合わせ練習までは、なんとか頑張らないと。
ゆらゆらと揺れている気持ちを落ち着かせようと、自分に何度も言い聞かせた。

