【毎日19:38更新】僕らのノイズ ※最後の願いは、よく考えたうえで送信してください。



 高校三年、九月一日、火曜日。

「えー、君達はここ、私立芝原学院高校の生徒として、その名に恥じぬ行動を心がけるように。特に! 三年生は今学期から本格化する受験に向けて、引き続き頑張ってもらいたい」

 校長先生の話長くね?
 俺ら暑すぎて死にそうなんだけどー。
 そんな悪態をついている小さな声が後ろから聞こえてくる。言うならいっそ、堂々と言って怒られればいいのに。そのほうが、刺激的でまだこの暑さに耐えられる気さえする。
 いや、でも、暑いから、教室に置いてあるタブレットで生中継してほしい。冷たい水で喉を潤しながらそれを鑑賞するほうが、よほど充実した時間になるはず。

 未だ、昼間の平均気温は三十五度を維持し続けている今日この頃。全身は体育館の熱気に包まれ、みんな汗をかいていた。
 夏服のYシャツは、ベストを着ているせいで背中は汗でびっしょりになっている。
 早く教室に行って、クーラーで涼みたい。私はポケットから水色と白色のボーダー柄をしたハンカチを取り出して、首筋に伝う汗を拭った。

 今日から、二学期が始まった。
 世間一般的には一番、中だるみが発生しやすい時期といわれている、あの「魔の二学期」が、遂に。
 夏なんてもうすぐ終わるというのに、連日猛暑。それがこうも長く続くと微妙に腹が立つ。こんなことでイライラしても体温が上がってしまうだけだから、私は、頭の中でかき氷を食べるのを想像してやり過ごそうとしていた。
 とにかく涼しいことをイメージすれば、これ以上、汗をかかずに済みそうだから。

 校長先生の退屈な長話のあと、校歌を歌い終え、私たちは解散の合図で自分の教室へと向かった。

 ホームルームが終わり全員解散すると、クラスの中でも特に目立つ朋美のいるグループが、私の席の両隣と目の前を囲んできた。
 悪夢が再び始まるのか……。

 前学期はトイレで水をかけてきたり、移動教室から戻ると私の机を廊下に出していたり、絵に描いたような暴言暴力、ととにかく暇そうで羨ましささえ覚えた。
私たちは進路を決めなければいけない年齢、時期ではないのか、と。
 それでも、(まあよくも、奇数人数で仲間割れしないな)と呆れ、ため息や馬鹿にしたような笑いが漏れ出てしまう。
 心の中でクスっと笑ったのが相手方にバレたのか、三人組の一人、桜木朋美(さくらぎともみ)が、私の机の柱を軽く蹴った。

 私は、蹴られた衝撃で、全身に雷が走り、瞬間的に目を閉じて身震いした。

「あんたさ、いつになったら芝学辞めんの? ……目障りなんだけど」

 朋美が私のバッグの口を逆さまにして中身を全て落とした。そして、片足でぎしぎしと強く踏みつけている。ああ、もう汚れているからいいけれど……というか、お母さんもお父さんもこれを見て、何も気にかけてくれていないし、私って一体……。
 踏まれた教科書やノートが上履きの汚れでいっぱいになってしまったのを、私はぼうっと見つめていた。

(もう何度目だろう)

 いちいち数えなくなった。
 見つめた先にある、散乱したバッグの中身を慣れた手つきでバッグに戻している間に、三人ともどこかへ行ってしまった。そのうしろ姿が、どこか懐かしくて、羨ましくて、誰にも見つからないように、下唇を静かに噛んだ。