朋美は肩で呼吸をしながら私から離れると、部室の前方中心部に置かれた真っ黒なピアノのほうに歩いていった。
「ほんと、あんたのそういうところが無理。――だいたい、エース組としての恥晒しもいいとこよ。本来、出場申請書にソロの代理を担う生徒の名前を書かないといけない決まりでしょ? 今年はエース組に全ソロを任せていたから、代理は必要ない、なんて勝手に先生が判断して、出場申請書に書かなかった。それだけの話……。そういう意味では、先生にも責任はあるけれど……」
朋美は、私の胸に≪退部届≫と大きく太字で書かれた一枚の紙を押しつけてきた。
「元々、あんたもあんたで時間ギリギリまで学校で練習して、挙句に走って間に合わせようとしてたんでしょ? しかも、交通事故に巻き込まれた。……バッカじゃないの!? あんたはいつもそう。大事なところで、周りを巻き込んで失敗する。もう、金輪際、ここの合唱部員を名乗らないで。……顔も見たくない」
スパっと切られた言葉で、私の頭の中は真っ白になった。何一つ、考えられなくなっていた。
朋美は、後輩たちに「今日は外で全体練習だから」と指示を出すなり、那月たちと部室から出ていってしまった。
私は一人、静まりかえった部室に取り残されていた。一人になって初めて、緊張の糸が解けて、全身が砂のように崩れ落ちた。
事故で負った全身の痛みなど、今はどうでもいい、と感じるくらい、心が張り裂けてしまいそうで、涙がとめどなく溢れる。不器用に両手で拭って止めようとしても、嗚咽を漏らしてしまう。
このままどうにかなってしまうのではないか。
声が枯れてもずっと、小さい子どもみたいに泣き続けた。
音楽室の反響版が、虚しく私の声を余計に響かせてくる。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
いつの間にか、顧問の先生が部室に様子を見に来たらしく、私の背中をゆっくりさすりながら、いろんな言葉で慰めてくれた。けれど、どんな言葉もはね退けてしまうくらい、頭も心も何もかも、滅茶苦茶だった。
こんなに声を上げて泣いたのは、いつぶりなんだろう。
その日を境に、私は納得がいかないままの責任をとらされるように部活を辞め、さらには、自分から合唱部員と関わることさえもやめてしまった。
逃げるしか、なかった。
*
「ほんと、あんたのそういうところが無理。――だいたい、エース組としての恥晒しもいいとこよ。本来、出場申請書にソロの代理を担う生徒の名前を書かないといけない決まりでしょ? 今年はエース組に全ソロを任せていたから、代理は必要ない、なんて勝手に先生が判断して、出場申請書に書かなかった。それだけの話……。そういう意味では、先生にも責任はあるけれど……」
朋美は、私の胸に≪退部届≫と大きく太字で書かれた一枚の紙を押しつけてきた。
「元々、あんたもあんたで時間ギリギリまで学校で練習して、挙句に走って間に合わせようとしてたんでしょ? しかも、交通事故に巻き込まれた。……バッカじゃないの!? あんたはいつもそう。大事なところで、周りを巻き込んで失敗する。もう、金輪際、ここの合唱部員を名乗らないで。……顔も見たくない」
スパっと切られた言葉で、私の頭の中は真っ白になった。何一つ、考えられなくなっていた。
朋美は、後輩たちに「今日は外で全体練習だから」と指示を出すなり、那月たちと部室から出ていってしまった。
私は一人、静まりかえった部室に取り残されていた。一人になって初めて、緊張の糸が解けて、全身が砂のように崩れ落ちた。
事故で負った全身の痛みなど、今はどうでもいい、と感じるくらい、心が張り裂けてしまいそうで、涙がとめどなく溢れる。不器用に両手で拭って止めようとしても、嗚咽を漏らしてしまう。
このままどうにかなってしまうのではないか。
声が枯れてもずっと、小さい子どもみたいに泣き続けた。
音楽室の反響版が、虚しく私の声を余計に響かせてくる。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
いつの間にか、顧問の先生が部室に様子を見に来たらしく、私の背中をゆっくりさすりながら、いろんな言葉で慰めてくれた。けれど、どんな言葉もはね退けてしまうくらい、頭も心も何もかも、滅茶苦茶だった。
こんなに声を上げて泣いたのは、いつぶりなんだろう。
その日を境に、私は納得がいかないままの責任をとらされるように部活を辞め、さらには、自分から合唱部員と関わることさえもやめてしまった。
逃げるしか、なかった。
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