目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

結婚式まで。

あと三日。

なのに。

陽向は。

明らかに。

落ち着きがなかった。

「美月」

「何?」

「忘れ物ない?」

「まだ三日前だけど」

「指輪は?」

「当日持っていく」

「婚姻届は?」

「もう入籍したでしょ」

「そうだった!」

私は。

思わず。

笑った。

そう。

私たちは。

すでに。

夫婦になっている。

あの日。

私が。

一度目の人生を終え。

二度目の人生を。

始めた日。

その日に。

二人で。

婚姻届を。

出した。

戸籍に。

書かれた名前は。

高瀬美月では。

なかった。

それでも。

届を出す直前。

陽向は。

私を見て。

ちゃんと。

言った。

『美月』

『今日から』

『俺の奥さんになってください』

私は。

笑って。

答えた。

『はい』

紙に。

どんな名前が。

書かれていても。

あの日。

陽向と。

夫婦になったのは。

私。

高瀬美月。

だから。

結婚式は。

法律のためじゃない。

大切な人たちの前で。

私たちが。

これからを。

一緒に生きると。

伝える日。

「……陽向」

「何?」

「もう」

「夫なんだよね」

「……」

陽向が。

固まる。

「何?」

「もう一回」

「言わない」

「美月!」

「ふふっ」

まだ。

夫。

妻。

という言葉に。

二人とも。

慣れていない。

◇◇◇

一方。

結婚式の。

裏では。

ASTERの。

四人が。

何かを。

企んでいた。

「これ」

「絶対泣くよな」

「陽向は泣く」

「美月さんも」

「たぶん泣く」

「てか」

「俺らが」

「先に泣きそう」

会議室。

テーブルの上。

大量の。

写真。

動画。

メッセージ。

陽向の。

アイドルとしての。

十年以上。

デビュー前。

初ライブ。

初めての。

大きな会場。

五人で。

泣いた日。

笑った日。

失敗した日。

そして。

最近の。

陽向。

そこへ。

星から。

提供された。

美月の。

昔の写真が。

少しだけ。

加わっていた。

もちろん。

子どもたちの。

顔や。

家族の。

個人的な情報は。

式の中だけ。

外には。

絶対に。

出さない。

その約束で。

「これ」

一人が。

一枚の写真を。

持ち上げる。

「美月さん」

「ASTERのライブグッズ」

「持ってる?」

星が。

笑う。

「はい」

「これ」

「ママです」

そこには。

まだ。

高瀬美月だった頃の。

美月。

ASTERの。

ライブグッズを。

手にして。

笑っている。

陽向の。

メンバーカラー。

ピンク。

「……」

四人が。

黙る。

「これ」

「陽向に見せたら」

「終わるな」

「確実に」

星が。

少し笑った。

「ママも」

「たぶん泣きます」

「じゃあ採用」

「早い」

◇◇◇

サプライズは。

映像。

だけでは。

なかった。

「歌」

一人が。

言う。

「やっぱ」

「やる?」

「やるでしょ」

「披露宴で」

「ASTER四人だけ?」

「いや」

「陽向も」

「最後」

「引っ張り込む」

「新郎を?」

「絶対」

「嫌がる」

「でも」

「歌う」

全員。

分かっている。

陽向は。

嫌だと言いながら。

最終的には。

絶対。

歌う。

「曲は?」

一人が。

候補を。

出す。

陽向と。

美月が。

昔から。

好きだった。

ASTERの。

バラード。

あの日。

プロポーズの。

カラオケで。

陽向が。

美月一人のために。

歌った曲。

「これ」

「いいじゃん」

「でも」

星が。

少し。

驚く。

「ママ」

「この曲」

「すごく好きです」

四人が。

にやっとする。

「じゃあ」

「決まり」

◇◇◇

そして。

もう一人。

披露宴の。

招待客で。

妙に。

楽しそうな人が。

いた。

神崎悠人。

「天城さん」

撮影の。

休憩中。

神崎が。

私へ。

聞いた。

「結婚式」

「緊張してる?」

「私に聞くんですか?」

「だって」

「天城さん」

「絶対」

「今頃」

「一人で」

「緊張してそう」

想像して。

笑ってしまう。

「してると思います」

「やっぱり」

神崎が。

コーヒーを。

飲む。

「でも」

「結婚式で」

「俺」

「ちゃんと」

「呼んでもらえるんだね」

「呼びましたよ」

「天城さん」

「嫌がらなかった?」

「ちょっと」

「やっぱり」

「でも」

私は。

笑う。

「私が」

「来てほしいって」

「言ったから」

「……」

神崎が。

少し。

目を細める。

「変わったね」

「またそれ」

「だって」

「昔だったら」

「天城さんが」

「嫌がるかもって」

「呼ばなかったでしょ」

「……」

図星。

「今は?」

私は。

少し。

考える。

「陽向の気持ちは」

「聞く」

「うん」

「でも」

「私が」

「呼びたい人も」

「ちゃんと」

「言う」

神崎が。

笑った。

「いいね」

「ありがとうございます」

「じゃあ」

少し。

いたずらっぽい顔。

「当日」

「天城さんに」

「美月さんを」

「よろしく」

「って」

「言おうかな」

「やめてください」

「何で?」

「絶対」

「変な顔するから」

「見たい」

「神崎さん」

「はい」

「楽しんでますよね?」

「ちょっと」

「もう」

◇◇◇

結婚式。

二日前。

私は。

子どもたちと。

会った。

すると。

一番小さい子が。

大きな紙袋を。

抱えている。

「ママ!」

「何それ?」

「ないしょ!」

「見えてるけど」

「でもないしょ!」

ほかの子たちも。

何か。

隠している。

「……みんな」

「何かしてる?」

「してない」

「絶対してる」

星だけが。

妙に。

平然としている。

「ママ」

「何?」

「当日まで」

「聞かないで」

「……」

最近。

それ。

多い。

陽向と星が。

プロポーズを。

企んでいたときも。

そうだった。

「分かった」

私は。

笑う。

「待つ」

一人が。

少し。

驚く。

「聞かんの?」

「気になるよ」

「じゃあ聞けば?」

「でも」

私は。

みんなを見る。

「みんなが」

「当日にしたいなら」

「待つ」

星が。

少し。

嬉しそうに。

笑う。

「ママ」

「ほんと」

「待てるようになったね」

「それ」

「褒めてる?」

「褒めてる」

◇◇◇

少しして。

一人が。

私へ。

聞いた。

「ママ」

「何?」

「結婚式」

「緊張する?」

「する」

「なんで?」

「みんなの前で」

「陽向と」

「結婚しますって」

「言うんだよ?」

「もう結婚したんやろ?」

「そうだけど」

「じゃあ」

「同じやん」

「違うの」

一番小さい子が。

首を傾げる。

「ママ」

「何?」

「ドレス」

「おひめさま?」

「たぶん」

「みたい!」

「当日ね」

「ひなた」

「泣く?」

星が。

吹き出す。

「絶対泣く」

「僕もそう思う」

「俺も」

全員。

意見一致。

「そんなに?」

私は。

笑う。

星が。

真顔で。

言う。

「ママ」

「陽向くん」

「ドレス姿」

「まだ見てないんでしょ?」

「うん」

「じゃあ」

「絶対」

「泣く」

「そこまで?」

「泣く」

もう。

誰も。

疑っていない。

◇◇◇

その帰り。

前の夫が。

私を。

呼び止めた。

「美月」

「何?」

少し。

迷っている顔。

「式」

「ほんまに」

「行ってええんやな?」

「うん」

「今さら?」

「いや」

「近づいてきたら」

「やっぱり」

「変な感じして」

「……」

私は。

少し。

笑った。

「無理しなくていいよ」

「いや」

夫が。

首を振る。

「行く」

「うん」

「子どもらも」

「来てほしいって」

「言っとるし」

「うん」

「それに」

少し。

遠くを見る。

「俺も」

「見届けたほうが」

「いい気がする」

「……」

「お前が」

「ちゃんと」

「次に行くところ」

胸が。

静かに。

揺れた。

「もう」

「次には」

「行ってるけどね」

「分かっとる」

夫が。

苦笑する。

「でも」

「式って」

「なんか」

「区切りみたいな」

「感じするやろ」

「……うん」

「俺にとっても」

「そうかもしれん」

私は。

何も。

言わなかった。

ただ。

頷いた。

◇◇◇

すると。

夫が。

少し。

言いにくそうに。

続ける。

「あと」

「何?」

「もし」

「俺」

「当日」

「泣いても」

「……」

「笑うなよ」

前にも。

言っていた。

私は。

思わず。

笑いそうになる。

「もう」

「今」

「笑ってるやん」

「だって」

「言い方が」

「美月」

「ごめん」

「謝るな」

二人で。

笑った。

そして。

私は。

ふと。

思う。

この人と。

こんなふうに。

話せる日が。

来るなんて。

一度目の人生では。

想像していなかった。

夫婦では。

なくなった。

でも。

敵でもない。

子どもたちの。

父親と母親。

今は。

その距離が。

一番。

心地いい。

◇◇◇

結婚式。

前日。

私は。

仕事を。

早めに。

終えてもらった。

家へ。

帰る。

明日の。

荷物を。

確認する。

靴。

アクセサリー。

必要なもの。

婚約指輪。

そして。

結婚指輪。

箱を。

開ける。

二つの。

リング。

明日。

陽向と。

交換する。

胸が。

速くなる。

「……明日」

本当に。

結婚式。

なんだ。

すでに。

夫婦なのに。

不思議。

そのとき。

インターホン。

「……誰?」

開く。

陽向。

「え!?」

「来た」

「何で!?」

「会いたくて」

「明日会うじゃん」

「明日まで」

「長い」

「一晩だよ」

「長い」

相変わらず。

◇◇◇

でも。

今日は。

家へ。

入れなかった。

「ごめん」

私は。

玄関先で。

言う。

「今日は」

「帰って」

「ええ!?」

「明日」

「ドレス」

「初めて見るんでしょ」

「うん」

「だったら」

少し。

笑う。

「今日は」

「会わないで」

「気分作りたい」

陽向が。

少し。

口を。

尖らせる。

「……寂しい」

「一日」

「一日でも」

「寂しい」

「三十四歳」

「関係ない」

私は。

笑った。

「じゃあ」

「少しだけ」

玄関の。

外。

二人。

並ぶ。

夜。

静かな。

廊下。

「陽向」

「何?」

「明日」

「うん」

「私」

「一人で」

「歩くから」

「……うん」

バージンロード。

その話は。

もう。

してある。

「誰かに」

「連れてきてもらうんじゃなくて」

「うん」

「自分で」

「陽向のところに」

「行く」

陽向が。

じっと。

私を見る。

「待ってる」

「うん」

「絶対」

「待ってる」

「逃げないでね」

「逃げるわけない!」

「ふふっ」

◇◇◇

少し。

沈黙。

そして。

陽向が。

言った。

「美月」

「何?」

「俺」

「今」

「めちゃくちゃ」

「幸せ」

胸が。

温かくなる。

「まだ」

「式」

「明日だけど?」

「関係ない」

「うん」

「だって」

陽向が。

笑う。

「美月が」

「明日」

「俺のところまで」

「歩いてきてくれるんだろ」

「……うん」

「それ」

「考えただけで」

目が。

少し。

潤んでいる。

「待って」

私は。

笑う。

「今から」

「泣かないでよ」

「無理かも」

「本番」

「絶対泣くじゃん」

「みんなにも」

「言われた」

「誰に!?」

「子どもたち」

「俺の扱い!」

私は。

笑った。

◇◇◇

「ねえ」

今度は。

私が。

言う。

「陽向」

「ん?」

「一つ」

「聞いていい?」

「何?」

「明日」

「私が」

「歩いてくるとき」

「何を」

「考えると思う?」

陽向が。

少し。

考える。

「……たぶん」

「うん」

「最初」

「ドレス綺麗」

「って」

「思う」

「うん」

「次」

少し。

照れる。

「美月だ」

「って」

「……」

胸が。

鳴った。

「顔は」

「紗良だけど」

「うん」

「でも」

「歩いてくるの」

「美月だから」

涙が。

滲みそうになる。

「そっか」

「うん」

「じゃあ」

私は。

笑う。

「私も」

「歩きながら」

「陽向だって」

「思う」

「……」

「最推しじゃなくて?」

「……」

少し。

考えるふり。

「半分くらい」

「美月!」

「冗談」

陽向が。

膨れる。

「夫として」

「見てよ」

「見る」

「ちゃんと?」

「ちゃんと」

「約束」

「うん」

◇◇◇

帰る前。

陽向が。

一歩。

近づく。

「キス」

「……」

私は。

少し。

笑う。

「今日は」

「なし」

「え!?」

「明日」

「式で」

「するでしょ」

「……」

陽向の。

顔が。

赤くなる。

「それ」

「人前」

「急に」

「恥ずかしくなってきた」

「今さら?」

「ASTERいるんだぞ」

「子どもたちも」

「……」

二人。

同時に。

固まる。

「子どもたちの前で」

「キス……」

私も。

顔が。

熱くなる。

「……軽くで」

「うん」

「軽く」

「絶対」

「ASTERに」

「いじられる」

「それは」

「諦めて」

「美月冷たい」

二人で。

笑う。

そして。

今日は。

キスの代わりに。

陽向が。

私の手を。

握った。

「じゃあ」

「明日」

「うん」

「待ってる」

「うん」

「おやすみ」

「おやすみ」

手が。

離れる。

陽向が。

数歩。

歩く。

でも。

また。

振り返る。

「美月!」

「何?」

「愛してる!」

「声!」

「ごめん!」

慌てて。

周りを見る。

私は。

笑った。

そして。

少しだけ。

声を。

落として。

返す。

「私も」

陽向の。

顔が。

嬉しそうに。

なる。

◇◇◇

その夜。

私は。

なかなか。

眠れなかった。

ベッドの中。

目を。

閉じる。

一度目の。

結婚。

五人の。

子どもたち。

事故。

病院。

陽向の。

腕の中。

鏡に。

映った。

知らない顔。

紗良の。

記憶。

子どもたちに。

会いたくて。

泣いた日。

陽向と。

喧嘩した日。

「好き」

と。

気づいた日。

初めて。

キスをした日。

星に。

「ママ」

と。

呼ばれた日。

五人全員が。

もう一度。

私を。

ママと。

呼んでくれた日。

前の夫へ。

妻には。

戻れないと。

言った日。

陽向に。

プロポーズされた日。

そして。

明日。

全部。

繋がっている。

一つも。

消さなくていい。

苦しかった日も。

幸せだった日も。

全部。

私の人生。

「……紗良」

ふと。

名前を。

呼んだ。

もう。

以前のように。

姿は。

見えない。

声も。

聞こえない。

でも。

この身体に。

残っている。

記憶も。

想いも。

私の中に。

ある。

「明日」

私は。

小さく。

言う。

「結婚するよ」

返事は。

ない。

でも。

なぜか。

胸の奥が。

少し。

温かかった。

◇◇◇

そして。

結婚式当日。

まだ。

朝の光が。

柔らかい時間。

私は。

控室の。

鏡の前に。

座っていた。

髪を。

整えてもらい。

メイクを。

してもらい。

最後。

ウェディングドレスを。

身につける。

カーテンが。

開く。

鏡の中。

白い。

ドレス。

一ノ瀬紗良の。

顔。

でも。

もう。

迷わない。

私は。

鏡の中の。

自分を見る。

そして。

小さく。

笑った。

「……高瀬美月」

三十四歳で。

一度。

人生を。

終えた。

五人の。

子どもたちの。

母親。

女優。

そして。

天城陽向の。

妻。

「今日」

胸へ。

手を。

当てる。

「結婚式を」

少し。

笑う。

「します」

その瞬間。

控室の。

ドアが。

ノックされた。

「ママ?」

星の声。

「入っていい?」

「うん」

扉が。

開く。

星が。

入ってくる。

私を。

見た。

そして。

完全に。

止まった。

「……」

「星?」

「……ママ」

「何?」

星の。

目に。

一気に。

涙が。

溜まる。

「綺麗」

胸が。

いっぱいになる。

「ありがとう」

「やばい」

星が。

笑いながら。

涙を拭く。

「私」

「もう泣いてる」

「まだ」

「式始まってないよ」

「ママも」

「泣いてるじゃん」

「……ほんとだ」

二人で。

笑った。

◇◇◇

そして。

廊下の向こう。

会場には。

ASTERの。

四人。

事務所の。

人たち。

神崎悠人。

五人の。

子どもたち。

そして。

少し。

緊張した顔で。

子どもたちの隣に。

座る。

前の夫。

みんなが。

待っている。

その先には。

天城陽向。

私が。

自分で。

選んだ人。

「ママ」

星が。

私の手を。

握る。

「行ける?」

私は。

一度。

深呼吸した。

怖くない。

と言えば。

嘘になる。

でも。

もう。

怖いからって。

立ち止まらない。

「うん」

私は。

星の手を。

一度。

握り返す。

そして。

離した。

「行ってくる」

星が。

笑う。

「うん」

「行ってらっしゃい」

チャペルの。

扉の前。

私は。

一人で。

立つ。

誰かに。

連れていってもらうためじゃない。

誰かに。

渡してもらうためでもない。

私が。

自分で。

選んだ未来へ。

歩いていくため。

音楽が。

始まる。

そして。

ゆっくり。

扉が。

開いた。

光の。

向こう。

バージンロードの。

一番先に。

陽向が。

立っている。

私を。

見た瞬間。

その顔が。

崩れた。

「……」

遠くても。

分かる。

泣いてる。

私は。

思わず。

笑った。

やっぱり。

そして。

一歩。

バージンロードへ。

足を。

踏み出した。

明日ではなく。

いつかでもなく。

今。

私は。

自分の足で。

幸せのほうへ。

歩き始めた。