結婚式を。
すると決めてから。
私たちの。
『結婚会議』は。
さらに。
現実的になった。
「招待客」
陽向が。
ノートを開く。
「まず」
「ASTER四人」
「うん」
「事務所の人」
「うん」
「ドラマ関係」
「神崎さん」
「……」
陽向の。
ペンが。
止まる。
「何?」
「いや」
「書いて」
「はい」
渋々。
『神崎悠人さん』
と。
書く。
「さん付けなんだ」
「大人だから」
「さっきまで」
「警戒対象って」
「言ってたのに」
「それとこれとは別」
私は。
笑った。
そして。
次。
陽向が。
何も言わず。
空白を。
一つ。
残した。
そこに。
書く名前。
分かっている。
前の夫。
「……」
私も。
黙った。
◇◇◇
子どもたちは。
もちろん。
全員。
招待する。
それは。
最初から。
決まっている。
問題は。
その父親。
私の。
一度目の人生の。
夫。
今は。
五人の子どもたちの父親として。
私と。
繋がっている人。
「美月」
陽向が。
ペンを置いた。
「やっぱり」
「迷ってる?」
「……うん」
「呼びたい?」
「それも」
私は。
少し。
考える。
「呼びたいって」
「いうより」
「呼ばないって」
「最初から」
「決めるのが」
「違う気がする」
陽向が。
頷く。
「うん」
「だって」
「子どもたちからしたら」
「パパで」
「……」
「私たちが」
「結婚したあとも」
「その関係は」
「変わらない」
「うん」
「それに」
私は。
テーブルの。
指先を。
見つめる。
「私の人生の」
「三十四年間の中に」
「いた人だから」
陽向は。
何も。
言わず。
聞いている。
「幸せだったことも」
「苦しかったことも」
「喧嘩したことも」
「子どもたちが」
「生まれたことも」
「……」
「全部」
「なかったことには」
「したくない」
「うん」
「だから」
私は。
顔を上げる。
「来るかどうかは」
「本人に」
「決めてもらいたい」
陽向が。
少し。
笑った。
「じゃあ」
空白に。
文字を書く。
『子どもたちのお父さん』
名前ではなく。
そう。
書いた。
私は。
それを見て。
少し。
胸が。
温かくなった。
今の。
関係。
そのものだった。
◇◇◇
招待状を。
渡す日は。
思っていた以上に。
緊張した。
子どもたちと。
会ったあと。
前の夫に。
少し。
時間をもらった。
「話って?」
「うん」
私は。
バッグから。
一通の。
封筒を。
取り出す。
彼が。
それを。
見る。
「……結婚式?」
「うん」
「するんや」
「することにした」
「そっか」
封筒を。
差し出す。
でも。
手が。
少し。
止まる。
「これ」
「……俺?」
「うん」
夫が。
目を。
丸くする。
「俺を」
「呼ぶん?」
「……」
私は。
頷いた。
「無理に」
「来てほしいとは」
「言わない」
「……」
「来たくなかったら」
「来なくていい」
「子どもたちだけ」
「来てもらっても」
「大丈夫」
「うん」
「でも」
私は。
ちゃんと。
言いたい。
「選択肢として」
「あなたにも」
「渡したかった」
夫は。
しばらく。
封筒を。
見ていた。
◇◇◇
「変やな」
「え?」
夫が。
苦笑する。
「元嫁の」
「結婚式に」
「呼ばれるって」
「……そうだよね」
「しかも」
「相手」
「天城陽向やろ」
「うん」
「お前」
「昔」
「テレビ見ながら」
「この人ほんま好きって」
「言うとったよな」
「……」
顔が。
熱くなる。
「今それ言う?」
「いや」
夫が。
少し笑う。
「すごい話やなって」
「私も」
「そう思う」
二人。
少し。
笑った。
でも。
笑いが。
落ち着いたあと。
夫が。
真面目な顔になる。
「美月」
久しぶりに。
名前で。
呼ばれる。
「何?」
「俺」
「行ったら」
「邪魔にならん?」
「……」
「天城さん」
「嫌じゃないん?」
私は。
首を振る。
「陽向とも」
「話した」
「……」
「複雑な気持ちは」
「あるって」
「言ってた」
「やろな」
「でも」
少し。
笑う。
「私の過去を」
「自分との結婚で」
「塗り替えたいわけじゃないって」
夫が。
静かになる。
「……そっか」
「うん」
「だから」
「陽向が」
「呼んでもいいって」
「言ったから」
「あなたに」
「渡してるわけじゃない」
「……」
「私が」
「招待したいと思ったから」
「渡した」
夫は。
少し。
驚いたように。
私を見る。
「……変わったな」
「また?」
「いや」
少し。
笑う。
「前なら」
「天城さんが」
「どう思うか」
「俺がどう思うか」
「子どもらがどう思うか」
「全部」
「先に考えて」
「自分がどうしたいか」
「最後やったやろ」
胸が。
小さく。
揺れた。
「そうかも」
「今は」
「ちゃんと」
「自分で」
「呼びたいって」
「言うんやな」
「……うん」
私も。
少し。
笑った。
「呼びたい」
今度は。
はっきり。
言えた。
◇◇◇
夫は。
すぐには。
返事をしなかった。
「ちょっと」
「考えていい?」
「もちろん」
「子どもらにも」
「聞きたい」
「うん」
「俺がおることで」
「変に」
「気使わせたくないし」
「うん」
「それに」
少し。
視線を。
落とす。
「俺自身も」
「どういう気持ちに」
「なるか」
「分からん」
その言葉。
私は。
否定しなかった。
「そりゃ」
「そうだよね」
「うん」
「だから」
「来ないって」
「決めても」
「私は」
「何も思わない」
夫が。
少し。
笑う。
「それは」
「ありがたい」
そして。
封筒を。
受け取った。
「ちゃんと」
「考えるわ」
「うん」
◇◇◇
そのあと。
子どもたちと。
結婚式の。
話をした。
「ドレス!」
星が。
一番に。
反応した。
「ママ」
「どんなの着るの?」
「まだ」
「決めてない」
「一緒に」
「見に行きたい!」
「いいよ」
「ほんと!?」
顔が。
ぱっと。
明るくなる。
すると。
ほかの子も。
「僕も!」
「俺も!」
「見る!」
一気に。
増える。
私は。
思わず。
笑った。
「みんなで?」
「うん!」
「多すぎない?」
「ママ」
「一人で決めたら」
「変なの選びそう」
「失礼!」
星が。
笑う。
「じゃあ」
「女子代表で」
「私が行く」
「それ」
「女子とか関係ある?」
「ある」
「何が?」
「センス」
「ママよりある」
「……」
否定。
しきれない。
◇◇◇
一番小さい子は。
結婚式というものが。
まだ。
よく分かっていない。
「ママ」
「何?」
「けっこんしきって」
「なにするの?」
「うーん」
「ママと陽向が」
「みんなの前で」
「これから」
「一緒に生きていきますって」
「約束する日」
「ふーん」
興味。
薄い。
「ケーキある?」
「あると思う」
「行く!」
「そこ!?」
みんなが。
笑う。
そして。
以前。
少し。
複雑そうにしていた子が。
私へ。
聞いた。
「パパも」
「来るん?」
一瞬。
静かになる。
「招待状は」
「渡したよ」
「……」
「来るかどうかは」
「パパが」
「決める」
「そっか」
「来てほしい?」
私は。
聞いた。
その子は。
少し。
迷ったあと。
「……来てほしいかも」
「うん」
「だって」
少し。
言いにくそうに。
続ける。
「ママが」
「結婚するの」
「僕らだけ見て」
「パパだけ」
「知らんのも」
「変な感じする」
「……」
私は。
頷いた。
「そうだね」
星も。
静かに。
言う。
「私も」
「来てもいいと思う」
「うん」
「別に」
「パパとママが」
「また夫婦になるわけじゃ」
「ないし」
「うん」
「でも」
「私たちの」
「パパとママでは」
「あるから」
胸が。
温かくなる。
「うん」
「そうだね」
◇◇◇
その日の夜。
陽向へ。
電話した。
『渡した?』
「うん」
『どうだった?』
「考えるって」
『そっか』
「嫌?」
私は。
聞いた。
陽向が。
少し。
黙る。
『正直?』
「うん」
『ちょっと』
「うん」
『変な感じはする』
「……」
『だって』
少し。
苦笑する声。
『美月の元旦那さんが』
『俺と美月の結婚式にいるんだよ?』
「うん」
『冷静に考えたら』
『すごい』
「確かに」
二人。
笑う。
でも。
陽向は。
続けた。
『でも』
「うん」
『俺』
『子どもたちと』
『ちゃんと』
『これからも』
『関わっていきたい』
「……」
『だったら』
『お父さんとも』
『一生』
『完全に無関係って』
『わけにはいかないだろ』
「うん」
『だったら』
少し。
息を吐く。
『変な感じするから』
『避けるより』
『少しずつ』
『慣れたほうがいい』
胸が。
じんわり。
温かくなる。
「陽向」
『何?』
「ありがとう」
『うん』
「それに」
私は。
少し。
笑う。
「元夫が来ても」
「新郎は陽向だから」
電話の向こう。
完全に。
止まった。
「……陽向?」
『もう一回』
「言わない」
『美月!』
「ふふっ」
『今の』
『めちゃくちゃ効いた』
「何に?」
『全部』
「意味分かんない」
でも。
嬉しそうな。
声。
私も。
笑った。
◇◇◇
そして。
次に。
大きな問題。
ウェディングドレス。
「……多い」
ショップへ。
入った瞬間。
私は。
圧倒されていた。
白。
白。
白。
でも。
全部。
違う。
Aライン。
プリンセスライン。
マーメイド。
レース。
サテン。
袖あり。
袖なし。
「無理」
「ママ」
星が。
呆れる。
「まだ」
「一着も」
「着てないよ」
「だって」
「多すぎる」
「だから」
「試着するの」
「何着?」
「いっぱい」
「疲れる」
「ママ!」
今日は。
星と。
二人。
陽向には。
まだ。
見せない。
本番まで。
秘密。
「ママ」
星が。
私を見る。
「一個」
「お願い」
「何?」
「ちゃんと」
「自分が着たいの」
「選んで」
「……」
「陽向くんが」
「好きそうとか」
「みんなが」
「喜びそうとか」
「じゃなくて」
「……」
「ママが」
「これがいいって」
「思ったやつ」
胸が。
小さく。
鳴った。
「うん」
私は。
ドレスを見る。
今までなら。
どうしただろう。
体型。
年齢。
周りの目。
二回目の結婚。
いろんなことを。
考えて。
一番。
無難なものを。
選んでいたかもしれない。
でも。
今日は。
違う。
「……これ」
一着。
目に。
止まった。
柔らかな。
Aライン。
上半身には。
繊細なレース。
スカートは。
派手すぎず。
歩くたび。
光を。
ふわっと。
反射する。
「これ」
「着てみたい」
星の顔が。
ぱっと。
明るくなった。
「うん!」
◇◇◇
試着室。
ドレスを。
着せてもらう。
鏡の前。
カーテンが。
開く。
「……」
私自身が。
固まった。
鏡の中。
一ノ瀬紗良の。
顔。
白い。
ウェディングドレス。
でも。
その姿を。
見た瞬間。
不思議と。
違和感は。
なかった。
「あ……」
後ろから。
星の声。
振り向く。
星が。
口元を。
押さえている。
「どう?」
「……」
「星?」
目が。
潤んでいた。
「ママ」
「何?」
「綺麗」
胸が。
いっぱいになる。
「……ありがとう」
「ほんと」
星が。
笑う。
「すごく」
「ママっぽい」
私は。
もう一度。
鏡を見る。
ママっぽい。
その言葉が。
嬉しい。
一ノ瀬紗良の。
顔なのに。
ウェディングドレスを。
着ているのは。
ちゃんと。
私。
「これ」
私は。
鏡の中の。
自分を見る。
「好き」
星が。
笑った。
「じゃあ」
「これにしようよ」
「でも」
言いかける。
ほかも。
見たほうが。
似合うもの。
もっと。
「ママ」
「……」
「今」
「好きって」
「言ったよ」
私は。
止まった。
そうだった。
自分が。
好き。
それだけで。
選んでいい。
「……うん」
私は。
笑った。
「これがいい」
◇◇◇
星が。
スマートフォンを。
取り出す。
「写真」
「撮っていい?」
「いいけど」
「陽向には」
「絶対送らないでよ」
「分かってる」
「本当に?」
「本番で」
「泣かせたいから」
「目的そこ?」
星が。
笑いながら。
写真を撮る。
その瞬間。
私も。
笑った。
カシャ。
写真の中。
ウェディングドレス姿の。
私。
そして。
横には。
笑っている。
娘。
一度目の。
結婚式には。
いなかった。
私の。
娘。
それだけで。
これは。
前と同じ。
結婚式ではない。
全く。
新しい。
一日になる。
そう。
思えた。
◇◇◇
ショップを。
出たあと。
星が。
言った。
「ママ」
「何?」
「バージンロード」
胸が。
少し。
止まる。
「誰と」
「歩くの?」
「……」
考えて。
いなかった。
普通なら。
父親。
でも。
今の私には。
その形が。
しっくり。
来ない。
前の夫?
絶対。
違う。
子どもたち?
それも。
素敵。
でも。
私の中で。
何かが。
引っかかる。
「……一人で」
「え?」
星が。
私を見る。
私は。
少しずつ。
自分の気持ちを。
言葉にする。
「一人で」
「歩きたいかも」
「……」
「陽向のところまで」
「自分で」
「行きたい」
星が。
静かに。
聞く。
「ママ」
「誰かに」
「渡してもらうんじゃなくて」
「……」
「私が」
「自分で」
「陽向を選んで」
「歩いていく」
言いながら。
胸の中に。
すとんと。
落ちた。
これだ。
私の。
結婚式。
誰かに。
連れていってもらう。
未来じゃない。
自分で。
選んだ人の。
ところへ。
自分の足で。
歩いていく。
星が。
少し。
目を潤ませて。
笑った。
「いいと思う」
「うん」
「でも」
「何?」
「途中で」
少し。
にやっとする。
「私たちのこと」
「ちゃんと見てね」
胸が。
温かくなる。
「見るよ」
「絶対?」
「絶対」
「五人とも?」
「もちろん」
「パパ来たら?」
少し。
考える。
「……見る」
「うん」
「今まで」
「一緒にいた人たち」
「全部」
「ちゃんと」
「見て」
そして。
私は。
笑った。
「その先の」
「陽向のところに」
「行く」
◇◇◇
その夜。
前の夫から。
メッセージが。
届いた。
短い。
一文。
『結婚式、行くわ』
私は。
しばらく。
画面を。
見つめた。
続けて。
もう一通。
『子どもらも来てほしいみたいやし』
そして。
少しして。
『俺も、ちゃんと見届けたほうがええ気がする』
胸が。
じんわり。
熱くなる。
私は。
返信した。
『ありがとう』
それだけ。
すると。
また。
返ってきた。
『ただし』
「……?」
『泣いても笑うなよ』
思わず。
吹き出した。
『そっちこそ』
送る。
少しして。
『たぶん泣かん』
絶対。
分からない。
私は。
笑った。
◇◇◇
そして。
結婚式の日が。
少しずつ。
近づいていく。
ASTERの。
四人。
五人の。
子どもたち。
子どもたちの。
父親。
事務所の。
人たち。
神崎悠人。
それぞれの。
大切な人たち。
一度目の人生。
二度目の人生。
その両方に。
繋がる人たちが。
一つの場所へ。
集まろうとしている。
そして。
私は。
誰かに。
手を引かれるのではなく。
自分の足で。
バージンロードを。
歩く。
その先には。
天城陽向。
私が。
自分で。
選んだ。
未来。
ただ。
結婚式まで。
あとわずかとなった。
ある日。
ASTERのメンバーから。
陽向へ。
こんな提案が。
持ち上がった。
「披露宴」
「俺ら」
「何かやっていい?」
陽向は。
嫌な予感しかしない顔で。
四人を見た。
「……何する気?」
四人は。
顔を。
見合わせる。
そして。
にやっと。
笑った。
「それは」
「当日まで」
「新郎新婦には」
「内緒」
陽向の顔が。
引きつった。
「絶対」
「ろくなことしないだろ!」
けれど。
そのサプライズが。
結婚式当日。
私と陽向を。
大泣きさせることになるなんて。
このときの私たちは。
まだ。
知らなかった。
すると決めてから。
私たちの。
『結婚会議』は。
さらに。
現実的になった。
「招待客」
陽向が。
ノートを開く。
「まず」
「ASTER四人」
「うん」
「事務所の人」
「うん」
「ドラマ関係」
「神崎さん」
「……」
陽向の。
ペンが。
止まる。
「何?」
「いや」
「書いて」
「はい」
渋々。
『神崎悠人さん』
と。
書く。
「さん付けなんだ」
「大人だから」
「さっきまで」
「警戒対象って」
「言ってたのに」
「それとこれとは別」
私は。
笑った。
そして。
次。
陽向が。
何も言わず。
空白を。
一つ。
残した。
そこに。
書く名前。
分かっている。
前の夫。
「……」
私も。
黙った。
◇◇◇
子どもたちは。
もちろん。
全員。
招待する。
それは。
最初から。
決まっている。
問題は。
その父親。
私の。
一度目の人生の。
夫。
今は。
五人の子どもたちの父親として。
私と。
繋がっている人。
「美月」
陽向が。
ペンを置いた。
「やっぱり」
「迷ってる?」
「……うん」
「呼びたい?」
「それも」
私は。
少し。
考える。
「呼びたいって」
「いうより」
「呼ばないって」
「最初から」
「決めるのが」
「違う気がする」
陽向が。
頷く。
「うん」
「だって」
「子どもたちからしたら」
「パパで」
「……」
「私たちが」
「結婚したあとも」
「その関係は」
「変わらない」
「うん」
「それに」
私は。
テーブルの。
指先を。
見つめる。
「私の人生の」
「三十四年間の中に」
「いた人だから」
陽向は。
何も。
言わず。
聞いている。
「幸せだったことも」
「苦しかったことも」
「喧嘩したことも」
「子どもたちが」
「生まれたことも」
「……」
「全部」
「なかったことには」
「したくない」
「うん」
「だから」
私は。
顔を上げる。
「来るかどうかは」
「本人に」
「決めてもらいたい」
陽向が。
少し。
笑った。
「じゃあ」
空白に。
文字を書く。
『子どもたちのお父さん』
名前ではなく。
そう。
書いた。
私は。
それを見て。
少し。
胸が。
温かくなった。
今の。
関係。
そのものだった。
◇◇◇
招待状を。
渡す日は。
思っていた以上に。
緊張した。
子どもたちと。
会ったあと。
前の夫に。
少し。
時間をもらった。
「話って?」
「うん」
私は。
バッグから。
一通の。
封筒を。
取り出す。
彼が。
それを。
見る。
「……結婚式?」
「うん」
「するんや」
「することにした」
「そっか」
封筒を。
差し出す。
でも。
手が。
少し。
止まる。
「これ」
「……俺?」
「うん」
夫が。
目を。
丸くする。
「俺を」
「呼ぶん?」
「……」
私は。
頷いた。
「無理に」
「来てほしいとは」
「言わない」
「……」
「来たくなかったら」
「来なくていい」
「子どもたちだけ」
「来てもらっても」
「大丈夫」
「うん」
「でも」
私は。
ちゃんと。
言いたい。
「選択肢として」
「あなたにも」
「渡したかった」
夫は。
しばらく。
封筒を。
見ていた。
◇◇◇
「変やな」
「え?」
夫が。
苦笑する。
「元嫁の」
「結婚式に」
「呼ばれるって」
「……そうだよね」
「しかも」
「相手」
「天城陽向やろ」
「うん」
「お前」
「昔」
「テレビ見ながら」
「この人ほんま好きって」
「言うとったよな」
「……」
顔が。
熱くなる。
「今それ言う?」
「いや」
夫が。
少し笑う。
「すごい話やなって」
「私も」
「そう思う」
二人。
少し。
笑った。
でも。
笑いが。
落ち着いたあと。
夫が。
真面目な顔になる。
「美月」
久しぶりに。
名前で。
呼ばれる。
「何?」
「俺」
「行ったら」
「邪魔にならん?」
「……」
「天城さん」
「嫌じゃないん?」
私は。
首を振る。
「陽向とも」
「話した」
「……」
「複雑な気持ちは」
「あるって」
「言ってた」
「やろな」
「でも」
少し。
笑う。
「私の過去を」
「自分との結婚で」
「塗り替えたいわけじゃないって」
夫が。
静かになる。
「……そっか」
「うん」
「だから」
「陽向が」
「呼んでもいいって」
「言ったから」
「あなたに」
「渡してるわけじゃない」
「……」
「私が」
「招待したいと思ったから」
「渡した」
夫は。
少し。
驚いたように。
私を見る。
「……変わったな」
「また?」
「いや」
少し。
笑う。
「前なら」
「天城さんが」
「どう思うか」
「俺がどう思うか」
「子どもらがどう思うか」
「全部」
「先に考えて」
「自分がどうしたいか」
「最後やったやろ」
胸が。
小さく。
揺れた。
「そうかも」
「今は」
「ちゃんと」
「自分で」
「呼びたいって」
「言うんやな」
「……うん」
私も。
少し。
笑った。
「呼びたい」
今度は。
はっきり。
言えた。
◇◇◇
夫は。
すぐには。
返事をしなかった。
「ちょっと」
「考えていい?」
「もちろん」
「子どもらにも」
「聞きたい」
「うん」
「俺がおることで」
「変に」
「気使わせたくないし」
「うん」
「それに」
少し。
視線を。
落とす。
「俺自身も」
「どういう気持ちに」
「なるか」
「分からん」
その言葉。
私は。
否定しなかった。
「そりゃ」
「そうだよね」
「うん」
「だから」
「来ないって」
「決めても」
「私は」
「何も思わない」
夫が。
少し。
笑う。
「それは」
「ありがたい」
そして。
封筒を。
受け取った。
「ちゃんと」
「考えるわ」
「うん」
◇◇◇
そのあと。
子どもたちと。
結婚式の。
話をした。
「ドレス!」
星が。
一番に。
反応した。
「ママ」
「どんなの着るの?」
「まだ」
「決めてない」
「一緒に」
「見に行きたい!」
「いいよ」
「ほんと!?」
顔が。
ぱっと。
明るくなる。
すると。
ほかの子も。
「僕も!」
「俺も!」
「見る!」
一気に。
増える。
私は。
思わず。
笑った。
「みんなで?」
「うん!」
「多すぎない?」
「ママ」
「一人で決めたら」
「変なの選びそう」
「失礼!」
星が。
笑う。
「じゃあ」
「女子代表で」
「私が行く」
「それ」
「女子とか関係ある?」
「ある」
「何が?」
「センス」
「ママよりある」
「……」
否定。
しきれない。
◇◇◇
一番小さい子は。
結婚式というものが。
まだ。
よく分かっていない。
「ママ」
「何?」
「けっこんしきって」
「なにするの?」
「うーん」
「ママと陽向が」
「みんなの前で」
「これから」
「一緒に生きていきますって」
「約束する日」
「ふーん」
興味。
薄い。
「ケーキある?」
「あると思う」
「行く!」
「そこ!?」
みんなが。
笑う。
そして。
以前。
少し。
複雑そうにしていた子が。
私へ。
聞いた。
「パパも」
「来るん?」
一瞬。
静かになる。
「招待状は」
「渡したよ」
「……」
「来るかどうかは」
「パパが」
「決める」
「そっか」
「来てほしい?」
私は。
聞いた。
その子は。
少し。
迷ったあと。
「……来てほしいかも」
「うん」
「だって」
少し。
言いにくそうに。
続ける。
「ママが」
「結婚するの」
「僕らだけ見て」
「パパだけ」
「知らんのも」
「変な感じする」
「……」
私は。
頷いた。
「そうだね」
星も。
静かに。
言う。
「私も」
「来てもいいと思う」
「うん」
「別に」
「パパとママが」
「また夫婦になるわけじゃ」
「ないし」
「うん」
「でも」
「私たちの」
「パパとママでは」
「あるから」
胸が。
温かくなる。
「うん」
「そうだね」
◇◇◇
その日の夜。
陽向へ。
電話した。
『渡した?』
「うん」
『どうだった?』
「考えるって」
『そっか』
「嫌?」
私は。
聞いた。
陽向が。
少し。
黙る。
『正直?』
「うん」
『ちょっと』
「うん」
『変な感じはする』
「……」
『だって』
少し。
苦笑する声。
『美月の元旦那さんが』
『俺と美月の結婚式にいるんだよ?』
「うん」
『冷静に考えたら』
『すごい』
「確かに」
二人。
笑う。
でも。
陽向は。
続けた。
『でも』
「うん」
『俺』
『子どもたちと』
『ちゃんと』
『これからも』
『関わっていきたい』
「……」
『だったら』
『お父さんとも』
『一生』
『完全に無関係って』
『わけにはいかないだろ』
「うん」
『だったら』
少し。
息を吐く。
『変な感じするから』
『避けるより』
『少しずつ』
『慣れたほうがいい』
胸が。
じんわり。
温かくなる。
「陽向」
『何?』
「ありがとう」
『うん』
「それに」
私は。
少し。
笑う。
「元夫が来ても」
「新郎は陽向だから」
電話の向こう。
完全に。
止まった。
「……陽向?」
『もう一回』
「言わない」
『美月!』
「ふふっ」
『今の』
『めちゃくちゃ効いた』
「何に?」
『全部』
「意味分かんない」
でも。
嬉しそうな。
声。
私も。
笑った。
◇◇◇
そして。
次に。
大きな問題。
ウェディングドレス。
「……多い」
ショップへ。
入った瞬間。
私は。
圧倒されていた。
白。
白。
白。
でも。
全部。
違う。
Aライン。
プリンセスライン。
マーメイド。
レース。
サテン。
袖あり。
袖なし。
「無理」
「ママ」
星が。
呆れる。
「まだ」
「一着も」
「着てないよ」
「だって」
「多すぎる」
「だから」
「試着するの」
「何着?」
「いっぱい」
「疲れる」
「ママ!」
今日は。
星と。
二人。
陽向には。
まだ。
見せない。
本番まで。
秘密。
「ママ」
星が。
私を見る。
「一個」
「お願い」
「何?」
「ちゃんと」
「自分が着たいの」
「選んで」
「……」
「陽向くんが」
「好きそうとか」
「みんなが」
「喜びそうとか」
「じゃなくて」
「……」
「ママが」
「これがいいって」
「思ったやつ」
胸が。
小さく。
鳴った。
「うん」
私は。
ドレスを見る。
今までなら。
どうしただろう。
体型。
年齢。
周りの目。
二回目の結婚。
いろんなことを。
考えて。
一番。
無難なものを。
選んでいたかもしれない。
でも。
今日は。
違う。
「……これ」
一着。
目に。
止まった。
柔らかな。
Aライン。
上半身には。
繊細なレース。
スカートは。
派手すぎず。
歩くたび。
光を。
ふわっと。
反射する。
「これ」
「着てみたい」
星の顔が。
ぱっと。
明るくなった。
「うん!」
◇◇◇
試着室。
ドレスを。
着せてもらう。
鏡の前。
カーテンが。
開く。
「……」
私自身が。
固まった。
鏡の中。
一ノ瀬紗良の。
顔。
白い。
ウェディングドレス。
でも。
その姿を。
見た瞬間。
不思議と。
違和感は。
なかった。
「あ……」
後ろから。
星の声。
振り向く。
星が。
口元を。
押さえている。
「どう?」
「……」
「星?」
目が。
潤んでいた。
「ママ」
「何?」
「綺麗」
胸が。
いっぱいになる。
「……ありがとう」
「ほんと」
星が。
笑う。
「すごく」
「ママっぽい」
私は。
もう一度。
鏡を見る。
ママっぽい。
その言葉が。
嬉しい。
一ノ瀬紗良の。
顔なのに。
ウェディングドレスを。
着ているのは。
ちゃんと。
私。
「これ」
私は。
鏡の中の。
自分を見る。
「好き」
星が。
笑った。
「じゃあ」
「これにしようよ」
「でも」
言いかける。
ほかも。
見たほうが。
似合うもの。
もっと。
「ママ」
「……」
「今」
「好きって」
「言ったよ」
私は。
止まった。
そうだった。
自分が。
好き。
それだけで。
選んでいい。
「……うん」
私は。
笑った。
「これがいい」
◇◇◇
星が。
スマートフォンを。
取り出す。
「写真」
「撮っていい?」
「いいけど」
「陽向には」
「絶対送らないでよ」
「分かってる」
「本当に?」
「本番で」
「泣かせたいから」
「目的そこ?」
星が。
笑いながら。
写真を撮る。
その瞬間。
私も。
笑った。
カシャ。
写真の中。
ウェディングドレス姿の。
私。
そして。
横には。
笑っている。
娘。
一度目の。
結婚式には。
いなかった。
私の。
娘。
それだけで。
これは。
前と同じ。
結婚式ではない。
全く。
新しい。
一日になる。
そう。
思えた。
◇◇◇
ショップを。
出たあと。
星が。
言った。
「ママ」
「何?」
「バージンロード」
胸が。
少し。
止まる。
「誰と」
「歩くの?」
「……」
考えて。
いなかった。
普通なら。
父親。
でも。
今の私には。
その形が。
しっくり。
来ない。
前の夫?
絶対。
違う。
子どもたち?
それも。
素敵。
でも。
私の中で。
何かが。
引っかかる。
「……一人で」
「え?」
星が。
私を見る。
私は。
少しずつ。
自分の気持ちを。
言葉にする。
「一人で」
「歩きたいかも」
「……」
「陽向のところまで」
「自分で」
「行きたい」
星が。
静かに。
聞く。
「ママ」
「誰かに」
「渡してもらうんじゃなくて」
「……」
「私が」
「自分で」
「陽向を選んで」
「歩いていく」
言いながら。
胸の中に。
すとんと。
落ちた。
これだ。
私の。
結婚式。
誰かに。
連れていってもらう。
未来じゃない。
自分で。
選んだ人の。
ところへ。
自分の足で。
歩いていく。
星が。
少し。
目を潤ませて。
笑った。
「いいと思う」
「うん」
「でも」
「何?」
「途中で」
少し。
にやっとする。
「私たちのこと」
「ちゃんと見てね」
胸が。
温かくなる。
「見るよ」
「絶対?」
「絶対」
「五人とも?」
「もちろん」
「パパ来たら?」
少し。
考える。
「……見る」
「うん」
「今まで」
「一緒にいた人たち」
「全部」
「ちゃんと」
「見て」
そして。
私は。
笑った。
「その先の」
「陽向のところに」
「行く」
◇◇◇
その夜。
前の夫から。
メッセージが。
届いた。
短い。
一文。
『結婚式、行くわ』
私は。
しばらく。
画面を。
見つめた。
続けて。
もう一通。
『子どもらも来てほしいみたいやし』
そして。
少しして。
『俺も、ちゃんと見届けたほうがええ気がする』
胸が。
じんわり。
熱くなる。
私は。
返信した。
『ありがとう』
それだけ。
すると。
また。
返ってきた。
『ただし』
「……?」
『泣いても笑うなよ』
思わず。
吹き出した。
『そっちこそ』
送る。
少しして。
『たぶん泣かん』
絶対。
分からない。
私は。
笑った。
◇◇◇
そして。
結婚式の日が。
少しずつ。
近づいていく。
ASTERの。
四人。
五人の。
子どもたち。
子どもたちの。
父親。
事務所の。
人たち。
神崎悠人。
それぞれの。
大切な人たち。
一度目の人生。
二度目の人生。
その両方に。
繋がる人たちが。
一つの場所へ。
集まろうとしている。
そして。
私は。
誰かに。
手を引かれるのではなく。
自分の足で。
バージンロードを。
歩く。
その先には。
天城陽向。
私が。
自分で。
選んだ。
未来。
ただ。
結婚式まで。
あとわずかとなった。
ある日。
ASTERのメンバーから。
陽向へ。
こんな提案が。
持ち上がった。
「披露宴」
「俺ら」
「何かやっていい?」
陽向は。
嫌な予感しかしない顔で。
四人を見た。
「……何する気?」
四人は。
顔を。
見合わせる。
そして。
にやっと。
笑った。
「それは」
「当日まで」
「新郎新婦には」
「内緒」
陽向の顔が。
引きつった。
「絶対」
「ろくなことしないだろ!」
けれど。
そのサプライズが。
結婚式当日。
私と陽向を。
大泣きさせることになるなんて。
このときの私たちは。
まだ。
知らなかった。



