目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

「私と紗良が」

「事故に遭った日」

部屋が。

静かになった。

担当者も。

陽向のマネージャーも。

何も言わない。

陽向だけが。

私を。

じっと見ている。

あの日。

私は。

死んだ。

少なくとも。

高瀬美月という人間は。

世間では。

あの日。

人生を終えた。

そして。

一ノ瀬紗良も。

あの日。

大きな事故に遭った。

もし。

あの事故が。

なかったら。

私は。

今。

ここにはいない。

陽向の。

隣にも。

いない。

だから。

私にとって。

あの日は。

死んだ日で。

生まれ直した日。

でも。

「……美月」

陽向が。

静かに。

呼ぶ。

「本当に」

「その日でいい?」

「うん」

私は。

すぐには。

笑わなかった。

ちゃんと。

考える。

「正直」

「今まで」

「あの日が来るの」

「怖かった」

「……うん」

「子どもたちと」

「離れた日だから」

胸が。

少し。

痛む。

「私の身体が」

「なくなった日で」

「みんなが」

「ママを失った日」

「……」

「紗良にとっても」

「事故に遭った日」

「うん」

「だから」

私は。

膝の上で。

手を握る。

「ずっと」

「悲しい日として」

「残ると思ってた」

陽向は。

黙って。

聞いている。

「でも」

私は。

顔を上げた。

「悲しかったことを」

「消したいわけじゃない」

「……」

「子どもたちが」

「泣いたことも」

「前の夫が」

「苦しかったことも」

「私が」

「会いたくて」

「泣いたことも」

「全部」

「本当だから」

「うん」

「でも」

少し。

笑う。

「その日に」

「もう一個」

「思い出を」

「増やしても」

「いいんじゃないかなって」

陽向の。

目が。

少し。

揺れた。

「美月」

「うん」

「それって」

「俺との結婚を」

少し。

声を。

詰まらせる。

「美月が」

「生き直した日の」

「続きにしてくれるってこと?」

胸が。

温かくなった。

私は。

頷いた。

「そうしたい」

◇◇◇

陽向は。

しばらく。

何も言わなかった。

そして。

突然。

両手で。

顔を覆った。

「……無理」

「何が?」

「泣く」

「今?」

「今」

マネージャーが。

ため息をつく。

「まだ」

「入籍日決めただけだぞ」

「分かってます!」

「じゃあ泣くな」

「無理です!」

私は。

思わず。

笑った。

でも。

私も。

少し。

泣きそうだった。

「じゃあ」

担当者が。

確認する。

「お二人の希望としては」

「事故の日を」

「入籍日にしたい」

「ということで」

「はい」

私は。

答えた。

陽向も。

「はい」

と。

続く。

「ただ」

担当者が。

資料を見る。

「その日は」

「今年ですと」

「平日ですね」

「平日?」

陽向が。

聞く。

「仕事」

「ある?」

「現時点では」

「調整可能です」

「でも」

私は。

言った。

「仕事」

「無理に」

「休まなくても」

「いいんじゃない?」

陽向が。

私を見る。

「え?」

「婚姻届」

「出したあと」

「普通に」

「仕事しても」

「いいかなって」

「……」

陽向。

少し。

呆然。

「美月」

「何?」

「結婚した日に」

「仕事行くの?」

「だって」

「予定入ってたら」

「行くでしょ」

「俺」

陽向が。

ものすごく。

真剣な顔。

「その日くらい」

「一日」

「美月といたい」

「……」

「ダメ?」

その言い方。

ずるい。

「……ダメじゃない」

「じゃあ休もう」

「即決」

「そこは!」

担当者たちが。

少し。

笑った。

◇◇◇

会議が。

終わって。

二人で。

外へ出る。

エレベーターの中。

陽向が。

私の手を。

握った。

「美月」

「何?」

「本当に」

「ありがとう」

「何が?」

「あの日」

「選んでくれて」

「……」

私は。

少し。

考える。

「陽向は」

「嫌じゃない?」

「何が?」

「あの日」

「紗良の事故の日でも」

「あるから」

陽向の。

表情が。

少し。

変わった。

紗良。

陽向の。

幼い頃からの。

大切な人。

恋愛では。

なかった。

でも。

人生の。

大きな一部。

「嫌じゃない」

陽向は。

ゆっくり。

答えた。

「俺にとっても」

「あの日は」

「紗良を」

「失った日だから」

「……うん」

「でも」

「同時に」

私を見る。

「美月に」

「会った日」

胸が。

鳴った。

「最初は」

「紗良だと思ったけど」

「うん」

「それでも」

少し。

笑う。

「あの日」

「美月が」

「俺の前に」

「来た」

「……」

「だから」

陽向が。

私の手を。

少し。

強く握る。

「悲しい日だけに」

「しなくていい」

私は。

頷いた。

「うん」

◇◇◇

その日の夜。

私は。

星へ。

電話をした。

『もしもし?』

「星」

『何?』

「入籍の日」

『決まったの!?』

声が。

一気に。

大きくなる。

「候補だけど」

『いつ?』

私は。

少し。

息を吸った。

「あの日」

『……』

電話の向こうが。

静かになる。

「ママが」

「事故に遭った日」

しばらく。

返事が。

なかった。

「星?」

『……なんで?』

責める声では。

ない。

ただ。

驚いている。

「悲しい日だから」

『うん』

「だから」

私は。

ゆっくり。

話した。

「悲しいことを」

「忘れるためじゃなくて」

「その日に」

「違う思い出も」

「増やしたいの」

『……』

「ママにとって」

「あの日は」

「みんなと」

「離れた日」

「……うん」

「でも」

「陽向に」

「出会った日でもある」

『うん』

「二度目の人生が」

「始まった日」

少し。

間。

「だから」

「今度は」

「陽向と」

「新しい人生を」

「始める日に」

「したいなって」

星が。

小さく。

息を吐いた。

『……ママ』

「何?」

『私』

少し。

声が。

震える。

『あの日』

『嫌いだった』

胸が。

痛む。

「うん」

『毎年』

『あの日が来ると』

『ママが死んだ日って』

『思ってた』

「……うん」

『だから』

少し。

鼻を。

すする音。

『その日が』

『ママの結婚記念日に』

『なるの』

「……」

私は。

黙って。

待つ。

『最初』

『変って思った』

「うん」

『でも』

星が。

少し。

笑った。

『来年から』

『ママが死んだ日だけじゃ』

『なくなるんだね』

涙が。

滲んだ。

「うん」

『ママが』

『幸せになるって』

『決めた日にも』

『なるんだ』

「……うん」

『じゃあ』

明るい。

声になる。

『いいと思う』

「本当?」

『うん』

『私』

『その日のこと』

『少しだけ』

『嫌いじゃなくなれるかも』

涙が。

頬を。

流れた。

「星」

『何?』

「ありがとう」

『ママが決めたんでしょ』

「うん」

『じゃあ』

少し。

いたずらっぽい。

声。

『陽向くんにも』

『ちゃんと』

『毎年覚えさせないとね』

「絶対」

「忘れないと思う」

『確かに』

二人で。

笑った。

◇◇◇

その数日後。

子どもたちにも。

伝えた。

全員。

揃っている日に。

「ママ」

「結婚する日」

「決めたの?」

「うん」

一人が。

聞く。

「いつ?」

私は。

日付を。

伝えた。

少し。

大きい子たちは。

すぐに。

意味に。

気づいた。

「……それ」

「うん」

「ママが」

「死んだ日?」

一番小さい子が。

不思議そうに。

私を見る。

「ママ」

「死んだの?」

「……」

説明。

難しい。

星が。

横から。

「前のママの身体が」

「いなくなった日」

と。

優しく言う。

一番小さい子は。

少し。

考える。

「でも」

「ママいるよ?」

「うん」

私は。

笑った。

「いるよ」

「じゃあ」

「死んでない?」

「……」

みんなが。

少し。

困った顔。

私は。

その子の。

頭を撫でる。

「ママね」

「一回」

「すごく遠くに」

「行っちゃったの」

「うん」

「でも」

「戻ってきた」

「うん」

「それで」

「その日に」

「陽向と」

「結婚することにした」

「なんで?」

「新しく」

「始める日に」

「したいから」

一番小さい子。

少し。

考える。

そして。

「じゃあ」

「おたんじょうび?」

「え?」

「ママの」

「新しいおたんじょうび」

部屋が。

静かになった。

私は。

目を。

見開く。

星も。

夫も。

ほかの子たちも。

その子を見る。

「……そうかも」

私は。

笑った。

「二回目の」

「お誕生日みたいな日」

一番小さい子が。

嬉しそうに。

「じゃあケーキ!」

「結局それ?」

みんなが。

笑った。

でも。

私の胸には。

その言葉が。

残った。

新しい。

誕生日。

死んだ日。

じゃなく。

もう一度。

生き始めた日。

子どもの。

何気ない。

言葉が。

あの日の意味を。

少しだけ。

変えてくれた。

◇◇◇

そのあと。

前の夫と。

二人になる。

「……ほんまに」

夫が。

言った。

「あの日に」

「するんやな」

「うん」

「しんどくない?」

「少しは」

「……」

「でも」

私は。

子どもたちが。

遊ぶ姿を見る。

「あの日を」

「なかったことには」

「できないし」

「うん」

「だったら」

「悲しいだけの」

「日にしなくても」

「いいかなって」

夫は。

しばらく。

黙っていた。

そして。

「俺」

「毎年」

「あの日」

「仕事してても」

「時間」

「思い出してた」

胸が。

少し。

痛くなる。

「事故の連絡」

「来た時間とか」

「病院行った時間とか」

「……」

「全部」

「うん」

「今年から」

夫が。

少し。

苦笑する。

「天城さんとの」

「結婚記念日でも」

「あるんやな」

「……うん」

「変な感じ」

「私も」

二人。

少し。

笑う。

「でも」

夫が。

子どもたちを見る。

「ええんちゃう」

「……」

「あの日が」

「こいつらにとっても」

「ちょっとでも」

「違う日になるなら」

私は。

ゆっくり。

頷いた。

「ありがとう」

◇◇◇

そして。

入籍日を。

決めたことで。

次の話が。

一気に。

現実味を。

増した。

「式」

陽向が。

私の部屋で。

突然。

言った。

「……何?」

「結婚式」

「うん」

「したい?」

私は。

少し。

止まった。

結婚式。

白い。

ウェディングドレス。

たくさんの。

招待客。

誓い。

指輪。

「……分かんない」

「え?」

「前に」

「結婚したときも」

「式」

「してるから」

陽向が。

少し。

複雑そうに。

なる。

「そっか」

「うん」

「だから」

「二回目って」

「変じゃないかなって」

陽向の。

眉が。

寄った。

「何が?」

「だって」

「私」

「一回」

「結婚式してるし」

「美月」

「うん」

「俺は」

陽向が。

自分を。

指差す。

「初めて」

「……」

「俺」

「美月と」

「結婚式したい」

真っ直ぐ。

言われる。

胸が。

鳴った。

「でも」

「二回目とか」

「関係なくない?」

「……」

「前の結婚式を」

「消すわけじゃない」

「うん」

「俺との結婚は」

「俺との」

「新しい結婚だし」

「……」

「それに」

少し。

照れながら。

「俺」

「ウェディングドレスの」

「美月見たい」

「そこ?」

「めちゃくちゃ大事」

思わず。

笑った。

◇◇◇

「もし」

陽向が。

続ける。

「式するなら」

「誰呼びたい?」

私は。

考える。

「星たち」

「うん」

「五人とも」

「絶対」

「ASTERのみんな」

「うん」

「事務所の人」

「うん」

「ドラマの」

「お世話になった人も」

「神崎さん?」

陽向の。

声が。

一段。

低くなる。

私は。

笑った。

「呼んだらダメ?」

「ダメじゃない」

「顔」

「ダメって言ってる」

「言ってない!」

「じゃあ呼ぶ」

「……はい」

陽向が。

少し。

拗ねる。

「結婚式で」

「嫉妬しないでよ」

「努力します」

「まだ努力なんだ」

「神崎さんは」

「別枠」

「何の?」

「警戒対象」

「もう!」

二人で。

笑う。

そして。

私は。

少し。

言いにくそうに。

続けた。

「あと」

「うん」

「前の夫」

陽向の。

表情が。

少し。

変わる。

「……呼びたい?」

「分からない」

私は。

正直に。

言った。

「呼んだら」

「気まずいかなとも」

「思うし」

「うん」

「でも」

「子どもたちを」

「連れてきてもらうことも」

「あるかもしれない」

「うん」

「それに」

私は。

少し。

考える。

「私の人生の」

「大事な部分だった人だから」

「……」

「完全に」

「いなかったことにして」

「式をするのも」

「違う気がする」

陽向は。

少し。

黙った。

私は。

すぐに。

言う。

「でも」

「陽向が」

「嫌なら」

「美月」

止められる。

「俺が」

「嫌かどうかで」

「決めなくていい」

「……」

「まず」

「美月は」

「どうしたい?」

また。

その質問。

私は。

少し。

考える。

「選べるように」

「しておきたい」

「……」

「来るか」

「来ないかは」

「本人が」

「決められるように」

「招待は」

「したいかも」

陽向が。

ゆっくり。

頷いた。

「じゃあ」

「そうしよう」

「いいの?」

「うん」

少し。

苦笑する。

「たぶん」

「変な気持ちは」

「するけど」

「……」

「でも」

「美月の過去を」

「全部」

「俺だけのものに」

「塗り替えたいわけじゃないから」

胸が。

熱くなる。

「陽向」

「何?」

「ありがとう」

「うん」

「でも」

「?」

「神崎さんの席」

「俺から遠くして」

「まだ言う!?」

◇◇◇

それから。

結婚式について。

少しずつ。

話すようになった。

派手な。

芸能人らしい。

大きな式?

それとも。

身近な人だけの。

小さな式?

「俺」

陽向が。

言う。

「豪華さより」

「美月が」

「誰と」

「一緒にいたいか」

「大事だと思う」

「うん」

「だから」

「人数」

「そんな多くなくていい」

「私も」

「そう思う」

「じゃあ」

陽向が。

ノートへ。

書く。

『家族と大切な人たち』

その文字を。

私は。

じっと見た。

家族。

昔。

その言葉は。

私にとって。

守らなきゃ。

頑張らなきゃ。

我慢しなきゃ。

そんな。

責任と。

一緒に。

あった。

今は。

少し。

違う。

子どもたち。

陽向。

星。

ASTER。

私を。

支えてくれた。

人たち。

家族って。

一つの形じゃない。

血が。

繋がっている人。

昔。

夫婦だった人。

一緒に。

夢を追う仲間。

これから。

夫婦になる人。

全部。

同じ形じゃなくていい。

それぞれが。

違う場所に。

いていい。

◇◇◇

「美月」

陽向が。

ノートから。

顔を上げる。

「何?」

「式」

「する?」

私は。

少し。

考えた。

一度目の。

結婚式。

あの日の私も。

幸せだった。

それを。

否定しない。

でも。

今。

目の前にいる。

陽向と。

新しい。

誓いを。

交わしたい。

五人の子どもたちにも。

見てほしい。

私が。

母親であることを。

やめるんじゃなく。

そのまま。

新しい幸せを。

選ぶ姿を。

そして。

陽向の。

大切な人たちにも。

伝えたい。

この人と。

これから。

生きていきます。

「……したい」

陽向の。

目が。

大きくなる。

「本当?」

「うん」

私は。

笑った。

「結婚式」

「したい」

次の瞬間。

陽向が。

ものすごく。

嬉しそうに。

笑った。

「よっしゃ!」

「声大きい」

「だって!」

「ウェディングドレス!」

「そこから離れて」

「無理!」

私は。

笑った。

◇◇◇

そして。

私たちは。

まだ。

知らなかった。

この。

小さな。

結婚式の計画が。

ASTERのメンバー。

五人の子どもたち。

事務所の人たち。

神崎悠人。

そして。

来るかどうか。

最後まで。

迷うことになる。

前の夫まで。

それぞれの。

想いを。

少しずつ。

動かしていくことを。

入籍の日まで。

あと少し。

そして。

その先には。

私が。

もう一度。

ウェディングドレスを着て。

今度は。

誰かに。

連れていかれるのではなく。

自分の足で。

陽向のもとへ。

歩いていく日が。

待っていた。