目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

それは。

主演ドラマの。

撮影が始まって。

少し経った。

ある朝のことだった。

まだ。

目覚ましが鳴る前。

スマートフォンが。

何度も。

震えていた。

「……ん」

寝ぼけたまま。

手を伸ばす。

着信。

事務所。

その下。

陽向。

マネージャー。

そして。

星。

「……何?」

一気に。

目が覚めた。

こんな時間に。

これだけ。

連絡が来るなんて。

嫌な予感しかしない。

まず。

事務所からの。

着信へ。

折り返す。

「もしもし」

『一ノ瀬さん』

声が。

硬い。

「はい」

『今』

『ご自宅ですか?』

「はい」

『SNSは』

『見ました?』

「……まだ」

一瞬。

間。

『見ないでください』

胸が。

ざわついた。

「何があったんですか?」

『週刊誌から』

『昨日』

『問い合わせが来ました』

「……」

また。

陽向とのこと?

私は。

ベッドの上で。

身体を起こした。

「内容は?」

『天城さんが』

『ジュエリーショップへ』

『出入りしていた件です』

心臓が。

止まった。

「……え?」

『写真を』

『撮られています』

指輪。

頭に。

最初に。

浮かんだ。

陽向が。

私へ。

プロポーズするために。

星と。

選んでくれた。

あの。

婚約指輪。

「それって……」

『記事では』

担当者が。

ゆっくり。

言う。

『婚約指輪を購入したのではないか』

『と』

『書かれる予定です』

「……」

血の気が。

引いていく。

まだ。

公表しない。

そう。

決めたばかりだった。

主演ドラマ。

ASTERの仕事。

一区切りついてから。

ちゃんと。

準備して。

陽向自身の。

言葉で。

伝える。

そのはずだった。

なのに。

『それと』

「……まだあるんですか?」

『天城さんと一緒に』

『若い女性が』

『店へ入った写真もあります』

息が。

止まった。

星。

「顔は!?」

思わず。

声が。

大きくなる。

『落ち着いて』

「星の顔は」

「写ってますか!?」

『……一ノ瀬さん』

もう。

隠せない。

私は。

唇を噛む。

『天城さん側から』

『その女性について』

『一般人に近い立場の方なので』

『絶対に身元を出さないよう』

『すでに申し入れています』

「……」

一般人に。

近い。

星は。

モデル活動を。

始めている。

完全な一般人ではない。

もし。

調べられたら。

私との。

仕事の繋がりも。

出てくる。

さらに。

星の家族。

高瀬家。

そこまで。

辿られたら。

「……嫌」

声が。

震えた。

『一ノ瀬さん』

「子どもたちは」

「関係ないです」

『分かっています』

「絶対」

「出さないでください」

『はい』

「お願いします」

『その件も含めて』

『今日』

『緊急で』

『両事務所と話し合います』

「……はい」

電話が。

切れた。

◇◇◇

私は。

しばらく。

動けなかった。

まだ。

左手には。

昨日。

寝る前につけた。

指輪。

小さな石が。

朝の光を。

反射している。

こんなに。

嬉しかったものが。

突然。

怖いものに。

見えそうになる。

その瞬間。

また。

スマートフォン。

陽向。

私は。

すぐに。

出た。

「陽向」

『美月』

声が。

いつもと違う。

「聞いた」

『うん』

「星は?」

『今』

『俺からも』

『連絡した』

「大丈夫?」

『顔は』

『帽子とマスクで』

『はっきり分かる写真じゃない』

少し。

息が。

戻る。

『でも』

「うん」

『絶対とは』

『言えない』

「……」

『ごめん』

「陽向」

『俺が』

「違う」

すぐに。

止めた。

「謝らないで」

『でも』

「私も」

指輪を見る。

「陽向と」

「一緒に選びに行ってって」

「星に」

「関わってもらった」

『……』

「だから」

一度。

息を吸う。

「陽向一人のせいじゃない」

電話の向こう。

少し。

静かになる。

『……うん』

「一緒に」

「考えよ」

自分で。

言えた。

陽向が。

小さく。

『うん』

と。

返した。

◇◇◇

午前。

会議室。

私。

陽向。

それぞれの。

事務所。

マネージャー。

広報。

前より。

人数が多い。

机の上。

週刊誌から。

送られてきた。

記事の。

ゲラ。

見出し。

――ASTER天城陽向、極秘ジュエリー店訪問。

――一ノ瀬紗良との交際は結婚秒読み?

「……」

写真。

店から。

出てくる。

陽向。

手には。

小さな。

紙袋。

そして。

数分後。

別の出口から。

出る。

星。

顔は。

ほとんど。

見えていない。

でも。

私には。

分かる。

「記事本文では」

広報担当が。

説明する。

「同伴女性については」

「知人女性」

「とだけ」

「書く予定のようです」

陽向が。

すぐに。

言う。

「それも」

「できれば」

「載せてほしくないです」

「申し入れています」

「……お願いします」

陽向の。

声が。

硬い。

「ただ」

広報担当が。

続ける。

「問題は」

「婚約について」

空気が。

重くなる。

「先方から」

「具体的な質問が」

「来ています」

資料。

そこには。

三つ。

質問。

『一ノ瀬紗良さんとの交際は事実か』

『ジュエリーは婚約指輪か』

『結婚の予定はあるか』

私は。

黙って。

文字を見ていた。

前なら。

どうしただろう。

否定して。

守れるなら。

否定したほうがいい。

そう。

思ったかもしれない。

でも。

今は。

それが。

正解とは。

思えない。

「対応案としては」

担当者が。

言う。

「これまで通り」

「プライベートについては」

「本人に任せています」

「で」

「通す方法」

「……」

「あるいは」

「婚約のみ否定」

陽向の顔が。

変わった。

「それは嫌です」

即答。

マネージャーが。

陽向を見る。

「分かってる」

「案として」

「出してるだけだ」

「……」

「三つ目」

担当者が。

一度。

息を吸う。

「予定を」

「前倒しして」

「交際及び婚約を」

「正式に発表する」

胸が。

大きく。

鳴った。

今?

まだ。

早い。

そう。

思っていた。

「ただし」

私の担当者が。

言う。

「発表するとなれば」

「主演ドラマ側」

「スポンサー」

「ASTER関係」

「本日中に」

「かなりの調整が」

「必要になります」

「……はい」

「そして」

「一度発表すれば」

「戻せません」

私は。

膝の上で。

手を握った。

◇◇◇

「俺は」

陽向が。

口を開いた。

「発表したいです」

全員の。

視線が。

集まる。

「陽向」

マネージャーが。

低い声。

「勢いで」

「言ってないな?」

「言ってません」

「……」

「むしろ」

陽向が。

記事を見る。

「これ以上」

「隠して」

「追いかけられるほうが」

「怖いです」

胸が。

揺れた。

「俺と美月だけなら」

「まだ」

「いい」

「……」

「よくないけど」

少し。

言い直す。

「仕事だから」

「ある程度」

「覚悟します」

「でも」

写真の。

星を見る。

「美月の」

「大事な人まで」

「追われる可能性が」

「あるなら」

「……」

「俺たちが」

「何も言わないことで」

「余計に」

「周りを」

「嗅ぎ回られるほうが」

「嫌です」

マネージャーが。

黙る。

理屈は。

分かる。

でも。

公表すれば。

今度は。

私自身が。

もっと。

追われる。

「美月」

陽向が。

私を見る。

「どう思う?」

また。

聞いてくれる。

私は。

すぐには。

答えなかった。

怖い。

ものすごく。

怖い。

でも。

一番。

嫌なのは。

何?

自分に。

聞く。

陽向の。

人気が。

落ちること?

私が。

叩かれること?

主演ドラマへ。

影響が出ること?

全部。

怖い。

でも。

一番。

嫌なのは。

「……子どもたち」

私は。

言った。

「うん」

「子どもたちのことを」

「調べられるのが」

「一番」

「嫌」

陽向が。

頷く。

「うん」

「星も」

「他の子たちも」

「前の夫も」

「……」

「私たちの」

「恋愛とは」

「関係ない」

「うん」

「だから」

私は。

記事を見る。

「私たちが」

「ちゃんと」

「事実を」

「話すことで」

「余計な詮索が」

「減らせるなら」

一度。

息を吸う。

「発表したい」

部屋が。

静かになる。

「ただ」

私は。

続けた。

「条件があります」

「何ですか?」

「家族について」

「一切」

「話さない」

「……」

「私の」

「過去のことも」

「子どもたちのことも」

「公表しない」

陽向も。

すぐ。

頷く。

「それは絶対」

「うん」

「結婚は」

私は。

陽向を見る。

「私と陽向の話として」

「伝えたい」

「うん」

その言葉に。

担当者が。

ゆっくり。

頷いた。

◇◇◇

「もう一つ」

私は。

言った。

「はい」

「発表するなら」

胸が。

少し。

速くなる。

「陽向から」

「ファンの人へ」

「ちゃんと」

「自分の言葉で」

「伝えてほしい」

陽向が。

私を見る。

「……うん」

「この前」

「言ってたでしょ」

「うん」

「変わらず応援してくださいって」

「言いたくないって」

陽向が。

小さく。

笑った。

「覚えてた?」

「覚えてるよ」

「じゃあ」

私は。

少し笑う。

「言って」

「陽向の言葉で」

「……うん」

陽向が。

真っ直ぐ。

頷いた。

「言う」

◇◇◇

話し合いは。

そこから。

何時間も。

続いた。

スポンサー。

放送局。

ASTER。

主演ドラマ。

発表するなら。

いつ。

どこから。

どういう文章で。

そして。

結論。

記事が。

発売される。

前日。

私たち自身から。

公表する。

先に。

ファンクラブ。

そのあと。

双方の。

公式サイト。

SNS。

「……明日」

私は。

呟いた。

早い。

あまりにも。

早い。

昨日まで。

まだ。

秘密だったのに。

明日には。

何万人もの人が。

知る。

「美月」

会議が。

終わったあと。

陽向が。

私の隣へ。

来る。

「怖い?」

「うん」

即答。

「陽向は?」

「めちゃくちゃ」

「……そっか」

二人。

少し。

笑った。

「でも」

陽向が。

言う。

「一緒だな」

「何が?」

「怖いの」

「……うん」

「じゃあ」

陽向が。

手を。

少し。

差し出す。

人のいない。

廊下。

私は。

その手を。

握った。

「一緒に」

「怖がろ」

その言葉。

いつか。

星が。

私に。

言ってくれた。

私は。

笑った。

「うん」

◇◇◇

その夜。

子どもたちにも。

先に。

伝えることにした。

全員。

一緒に。

ビデオ通話。

画面。

にぎやか。

「ママ!」

「何?」

「顔近い!」

「そっちでしょ」

「ママ今日仕事?」

「終わったよ」

そして。

私は。

少し。

真面目な顔になる。

「みんな」

「聞いてほしいことがある」

画面の向こう。

星は。

何となく。

察した顔。

夫も。

少し。

緊張している。

「明日」

「ママと」

「陽向が」

「結婚すること」

「みんなに」

「発表することになった」

「……」

一瞬。

静か。

そして。

「テレビ出る?」

一番小さい子。

やっぱり。

そこ。

「出るかもしれない」

「ひなたも?」

「出るかも」

「ぼくは?」

「出ません」

「なんで!」

「出なくていいの!」

みんなが。

笑う。

でも。

私は。

続ける。

「みんなのことは」

「絶対」

「話さないから」

「……」

「ママが」

「前に」

「どういう人生だったかも」

「子どもがいることも」

「世間には」

「言わない」

一人が。

聞く。

「なんで?」

「守りたいから」

私は。

まっすぐ。

答える。

「みんなは」

「芸能人じゃない」

「……」

「ママと陽向が」

「結婚することと」

「みんなの生活は」

「別だから」

夫が。

静かに。

頷く。

星が。

言う。

「私も?」

「星は」

少し。

考える。

「モデルしてるけど」

「それでも」

「私の娘だってことは」

「今は」

「言わない」

「うん」

「星が」

「自分で」

「言いたいって」

「思う日が来たら」

「また」

「一緒に考えよう」

星が。

少し。

笑った。

「分かった」

◇◇◇

「ママ」

以前。

結婚を。

少し。

複雑だと。

言っていた子が。

聞く。

「うん」

「明日」

「怖い?」

「……うん」

私は。

正直に。

答えた。

「すごく」

「じゃあ」

「やめる?」

「……」

以前なら。

この質問で。

心が。

揺れたかもしれない。

でも。

今は。

違う。

「やめない」

私は。

笑った。

「怖いけど」

「結婚したいから」

「……」

「陽向と」

「一緒にいたいから」

その子は。

少し。

考える。

そして。

「そっか」

「うん」

「じゃあ」

小さく。

笑う。

「頑張って」

胸が。

いっぱいになる。

「ありがとう」

◇◇◇

通話の最後。

一番小さい子が。

言った。

「ママ」

「何?」

「けっこんしたら」

「うん」

「ひなたと」

「ゲームいっぱいする?」

「それは」

「陽向に聞いて」

「じゃあ」

突然。

画面へ。

顔を。

近づける。

「ひなたー!」

「今日いないよ!」

「なんで!」

また。

みんなが。

笑った。

こんな。

普通の。

笑い声。

明日。

世間が。

何を言っても。

ここは。

守りたい。

強く。

そう思った。

◇◇◇

翌朝。

発表の日。

私は。

仕事へ行く前。

家で。

一人。

文章を。

読み返していた。

事務所と。

何度も。

確認した。

私の。

コメント。

『私事ではございますが、このたび天城陽向さんと将来を共に歩んでいくことを決めました。』

そのあと。

仕事への。

感謝。

これからも。

女優として。

作品へ。

向き合うこと。

でも。

一ヶ所だけ。

私が。

入れたいと。

お願いした。

文章。

『これからも、自分自身の人生を大切にしながら、周囲の大切な方々への感謝を忘れず、一歩ずつ歩んでまいります。』

一ノ瀬紗良として。

出す。

文章。

でも。

この言葉を。

書いたのは。

高瀬美月。

それでいい。

「……よし」

送信時刻。

午前十時。

あと。

五分。

スマートフォンが。

震える。

陽向。

『生きてる?』

私は。

思わず笑う。

『ギリギリ』

『俺も』

『文章読んだ?』

『何回も』

『俺のも?』

『読んだ』

陽向の。

ファン向けの。

言葉。

何度。

読んでも。

胸が。

熱くなった。

◇◇◇

午前十時。

まず。

ASTERの。

ファンクラブ。

陽向の。

文章が。

公開された。

私は。

画面を。

開く。

『いつも応援してくださっている皆さんへ』

その一行。

胸が。

鳴る。

『今日は、俺の言葉で伝えたいことがあります。』

『このたび、大切な人とこれからの人生を一緒に歩いていくことを決めました。』

『突然の報告で、驚かせてしまうと思います。』

『嬉しいと思ってくださる方も、寂しいと思う方も、ショックを受ける方もいると思います。』

涙が。

滲む。

陽向らしい。

『どんな気持ちになるかを、俺が決めることはできません。』

『だから、変わらず応援してくださいとは言いません。』

「……陽向」

その先。

『ただ、今まで俺を見つけて、応援して、一緒にたくさんの景色を見てくれたことに、本当に感謝しています。』

『これからも応援してくださる方には、これからも楽しんでもらえるよう全力で届けます。』

『そして、もし今回のことで距離を置こうと思う方にも、今まで本当にありがとうと伝えたいです。』

涙が。

一滴。

落ちた。

『俺は、アイドルでいることも、大切な人と生きることも、どちらも自分で選びました。』

『どちらかを適当にするつもりはありません。』

『ASTERの天城陽向として、これからも全力でステージに立ちます。』

最後。

『本当に、いつもありがとう。』

私は。

しばらく。

動けなかった。

ファンだった。

私だから。

余計に。

分かる。

これは。

陽向が。

ファンを。

手放す文章じゃない。

縛る文章でもない。

ただ。

ありがとう。

と。

伝える文章。

「……好き」

思わず。

呟いた。

◇◇◇

そして。

私の。

発表も。

公開された。

数分。

スマートフォンが。

震え始める。

通知。

通知。

通知。

怖い。

見ない。

そう。

決めていたのに。

画面の。

一部が。

目に入る。

『え!?』

『本当に結婚するの?』

『おめでとう』

『無理』

『ショック』

『泣いてる』

『でも陽向の文章読んだら何も言えない』

『幸せになって』

『まだ受け止められない』

いろんな。

言葉。

胸が。

ぎゅっとなる。

喜びだけじゃない。

当然。

でも。

陽向が。

言っていた。

どんな気持ちになるかは。

俺が。

決められない。

その通り。

「……うん」

私は。

スマートフォンを。

伏せた。

全部。

受け止めようと。

しなくていい。

今。

やること。

撮影。

私は。

立ち上がった。

◇◇◇

現場へ。

到着。

スタッフから。

「おめでとうございます」

と。

言われる。

「ありがとうございます」

何度も。

頭を下げる。

神崎も。

楽屋前で。

私を見るなり。

「おめでとう」

と。

言った。

「ありがとう」

「ついに」

少し。

笑う。

「天城さん」

「勝った顔してそう」

「何に?」

「知らない」

私は。

笑った。

すると。

神崎が。

少し。

真面目になる。

「大丈夫?」

「……」

私は。

考える。

「怖い」

「うん」

「でも」

少し笑う。

「嬉しい」

「なら」

神崎も。

笑った。

「いいんじゃない」

「うん」

◇◇◇

撮影を。

終えたころ。

陽向から。

メッセージ。

『終わった?』

『今終わった』

『俺も』

『会える?』

私は。

迷わなかった。

『会いたい』

◇◇◇

夜。

いつもの。

私の部屋。

玄関を。

開ける。

陽向。

「……」

「……」

二人。

しばらく。

何も言わなかった。

そして。

同時に。

「疲れた」

言った。

「ふふっ」

「あはは」

笑う。

それだけで。

力が。

抜けた。

「美月」

「うん」

「怖かった?」

「うん」

「俺も」

「反応」

「見た?」

「ちょっと」

「俺も」

陽向が。

少し。

寂しそうに。

笑う。

「やっぱ」

「離れるって」

「言ってる人」

「いる」

「……うん」

「悲しい?」

「悲しい」

即答。

「そっか」

「でも」

陽向が。

少し。

息を吐く。

「仕方ない」

「……」

「その人が」

「悪いわけでもない」

「うん」

「俺が」

「悪いとも」

「思ってない」

「うん」

「ただ」

「そういうことも」

「ある」

「……」

私は。

陽向の。

手を握った。

「でも」

「何?」

「私は」

少し。

笑う。

「今日の文章」

「すごく好きだった」

陽向の顔が。

少し。

赤くなる。

「本当?」

「うん」

「ファンだった私にも」

「ちゃんと」

「届いた」

「……」

「ありがとうって」

「言われた気がした」

陽向が。

目を。

潤ませる。

「美月」

「何?」

「俺」

「今」

「美月が」

「元ファンで」

「よかったって」

「めっちゃ思ってる」

「元じゃないよ」

「え?」

私は。

笑った。

「今も」

「天城陽向の」

「ファン」

「……」

「ただ」

陽向の。

手を。

握る。

「一番近くで」

「応援するファンになっただけ」

「……無理」

「何が?」

「今日」

「泣かせないで」

「もう泣いてるじゃん」

陽向が。

笑いながら。

私を。

抱きしめた。

◇◇◇

少しして。

私は。

婚約指輪を。

ケースから。

出した。

今日まで。

家でしか。

つけられなかった。

左手。

薬指へ。

通す。

陽向が。

じっと。

見ている。

「……美月」

「何?」

「明日」

「それ」

「つけて出る?」

心臓が。

鳴った。

今まで。

外では。

隠していた。

でも。

もう。

婚約は。

公表した。

私は。

指輪を見る。

怖い。

写真を。

撮られるかもしれない。

記事に。

なるかもしれない。

でも。

これは。

隠さなければ。

いけないものでは。

もう。

ない。

私は。

ゆっくり。

頷いた。

「うん」

陽向の。

顔が。

ぱっと。

明るくなる。

「つける」

「……マジ?」

「うん」

私は。

リングを。

光へ。

かざす。

「明日から」

少し。

笑う。

「外でも」

「つけたい」

陽向が。

本当に。

嬉しそうに。

笑った。

「似合う」

「知ってる」

「強くなったな」

「誰のおかげ?」

「俺?」

「それだけじゃない」

「えー」

私は。

笑った。

子どもたち。

星。

陽向。

夫だった人。

紗良。

仕事。

いろんな人と。

いろんな時間。

全部が。

今の。

私を。

作っている。

◇◇◇

翌朝。

撮影現場。

私は。

車を降りた。

左手。

薬指。

指輪。

スタッフの。

視線が。

一瞬。

そこへ。

向く。

でも。

私は。

隠さなかった。

「おはようございます」

いつも通り。

笑う。

「おはようございます!」

歩き出す。

怖い。

まだ。

少し。

でも。

嬉しい。

私は。

高瀬美月。

世間には。

一ノ瀬紗良。

その矛盾は。

これからも。

消えない。

それでも。

今日。

この指輪を。

つけて歩いているのは。

間違いなく。

私。

誰かに。

選ばれたからじゃない。

私も。

この未来を。

選んだから。

そして。

公表という。

大きな山を。

越えた私たちには。

次に。

もっと。

現実的な。

問題が。

待っていた。

――入籍するとき。

――私は、何という名前で。

――陽向の隣に立つのか。

戸籍の上では。

一ノ瀬紗良。

心は。

高瀬美月。

結婚を。

公表したことで。

その矛盾と。

向き合う日は。

とうとう。

避けられなくなっていた。