目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

『公表するかどうか』

その言葉を。

見てから。

私は。

しばらく。

スマートフォンを。

置けなかった。

陽向と。

結婚したい。

その気持ちは。

変わらない。

でも。

公表する。

となれば。

話は。

全然。

違う。

私は。

女優。

陽向は。

トップアイドル。

しかも。

ASTERの。

人気メンバー。

私たちの。

結婚を。

知ったとき。

ファンの人は。

どう思うんだろう。

祝ってくれる人。

驚く人。

悲しむ人。

怒る人。

離れていく人。

きっと。

全部。

いる。

「……怖いな」

私は。

左手の。

薬指を見る。

今は。

部屋の中でだけ。

つけている。

婚約指輪。

これを。

隠さず。

つけられる未来。

それは。

欲しい。

でも。

そのために。

誰かを。

傷つけるかもしれない。

そう思うと。

また。

昔の癖が。

顔を出す。

――だったら。

――私が我慢すれば。

「……ダメ」

私は。

すぐに。

首を振った。

今。

それを。

一人で。

決めちゃいけない。

陽向と。

話す。

事務所とも。

話す。

ASTERとも。

話す。

一つずつ。

◇◇◇

翌日。

私と陽向。

それぞれの。

事務所の担当者。

マネージャー。

数人。

会議室へ。

集まっていた。

空気は。

かなり。

重い。

「まず」

陽向の事務所側から。

話が始まる。

「現状ですが」

「熱愛報道以降」

「大きな仕事の」

「キャンセル等は」

「出ていません」

私は。

少しだけ。

息を吐いた。

「ただし」

続く言葉に。

また。

背筋が伸びる。

「結婚となれば」

「影響は」

「別です」

「……はい」

陽向も。

静かに。

頷く。

「スポンサー」

「テレビ局」

「広告契約」

「ファンクラブ」

「グループ活動」

「さまざまな調整が」

「必要になります」

「はい」

「また」

私の担当者が。

資料を開く。

「一ノ瀬さん側も」

「主演ドラマが」

「始まったばかりです」

「はい」

「作品そのものより」

「結婚報道ばかりが」

「注目される可能性も」

「あります」

私は。

資料を見る。

主演。

ようやく。

自分から。

やりたい。

と。

言えた仕事。

それを。

大切にしたい。

陽向との。

未来も。

大切にしたい。

どちらか。

じゃない。

「そこで」

担当者が。

言う。

「考えられるのは」

「いくつかあります」

一つ目。

婚約は。

公表しない。

正式な入籍まで。

何も言わない。

二つ目。

交際のみ。

認める。

結婚については。

触れない。

三つ目。

結婚の意思まで。

含めて。

公表する。

そして。

四つ目。

入籍したあと。

事後報告。

私は。

一つずつ。

聞きながら。

考えていた。

◇◇◇

「美月は?」

陽向が。

私を見る。

また。

ちゃんと。

聞いてくれる。

「どうしたい?」

部屋の中。

全員の視線が。

私へ。

怖い。

でも。

言う。

「私は」

一度。

息を吸う。

「今すぐ」

「婚約を」

「大きく発表したいとは」

「思ってません」

陽向が。

黙って。

聞いている。

「主演ドラマも」

「始まったばかりで」

「……」

「陽向の仕事も」

「ASTERも」

「大事だから」

「うん」

「でも」

私は。

少し。

手を握る。

「嘘は」

「つきたくないです」

担当者が。

私を見る。

「嘘?」

「はい」

「もし」

「聞かれたときに」

「付き合ってません」

「何もありませんって」

「言うのは」

「……」

私は。

首を振る。

「嫌です」

陽向の目が。

少し。

柔らかくなる。

「私たち」

「付き合ってるし」

「……」

「結婚したいって」

「決めてる」

「はい」

「それを」

「仕事のために」

「全部」

「なかったことみたいに」

「するのは」

「したくないです」

静かだった。

そして。

陽向が。

すぐに。

頷いた。

「俺も」

「……」

「美月と」

「同じ」

「今すぐ」

「結婚します!」

「って」

「発表する必要は」

「ないと思う」

「うん」

「でも」

「交際自体を」

「否定するのは」

「嫌です」

マネージャーが。

腕を組む。

「つまり」

「プライベートについて」

「詳細は話さない」

「ただ」

「明確な否定もしない」

「はい」

陽向が。

答える。

「それなら」

「現状と」

「大きくは変わらない」

「……はい」

「ただし」

マネージャーが。

陽向を見る。

「次に」

「決定的な写真が出たとき」

「もう」

「同じ対応では」

「難しいかもしれない」

陽向は。

一瞬。

黙る。

「分かってます」

◇◇◇

会議は。

まだ。

続いた。

入籍するなら。

いつ。

発表するなら。

どのタイミング。

主演ドラマ終了後。

ASTERの。

大きな活動。

スポンサー契約。

どれも。

簡単じゃない。

「……」

私は。

途中から。

少し。

息が苦しくなっていた。

結婚って。

こんなに。

たくさんの人に。

関係するんだ。

前の人生では。

もっと。

個人的なものだった。

家族。

親族。

それくらい。

でも。

今は。

違う。

陽向には。

何万人もの。

ファンがいる。

その人たちに。

夢を。

届ける仕事。

それを。

私の存在が。

壊すんじゃないか。

また。

そんな考えが。

出てくる。

「美月」

隣から。

小さな声。

「ん?」

陽向が。

机の下で。

ほんの少し。

私の指へ。

触れる。

「今」

「何考えてる?」

「……」

ばれてる。

「私」

私は。

小さな声で。

言った。

「邪魔にならないかなって」

陽向の眉が。

少し。

寄る。

「また」

「うん」

「出てきた」

「……」

「それ」

少し。

強い声。

でも。

怒ってはいない。

「あとで」

「ちゃんと話そう」

私は。

頷いた。

「うん」

◇◇◇

会議が。

終わったあと。

二人で。

車へ。

乗った。

ドアが。

閉まる。

まだ。

エンジンは。

かけない。

陽向が。

私を見る。

「言って」

「……」

「何考えてた?」

私は。

少し。

俯いた。

「陽向って」

「うん」

「ずっと」

「アイドルとして」

「ファンの人に」

「夢を見せてきたでしょ」

「うん」

「その夢の中に」

「私が」

「急に」

「現実として」

「入ってきたら」

「……」

「嫌な人」

「いるだろうなって」

陽向は。

黙っている。

「私も」

「ファンだったから」

「うん」

「もし」

「昔」

「陽向が」

「結婚するって」

「聞いたら」

私は。

考える。

「ショック」

「だったと思う」

「……うん」

「もしかしたら」

「泣いたかも」

陽向の顔が。

少し。

申し訳なさそうになる。

「だから」

「私」

「ファンの人に」

「ごめんなさいって」

「思って」

「……」

「美月」

陽向が。

止める。

「それ」

「違うと思う」

「え?」

「悲しい人が」

「いるのは」

「分かる」

「うん」

「ショックな人も」

「いる」

「うん」

「でも」

陽向が。

真っ直ぐ。

私を見る。

「美月が」

「謝ることじゃない」

「……」

「俺が」

「自分で」

「選んだことだから」

「でも」

「俺」

少し。

笑う。

「三十四歳だよ」

「……」

「恋愛するかどうかも」

「結婚するかどうかも」

「俺が決める」

「うん」

「ファンを」

「大事にしてないって」

「意味じゃない」

「……」

「むしろ」

陽向が。

少し。

遠くを見る。

「ちゃんと」

「向き合いたい」

◇◇◇

「俺さ」

陽向が。

言った。

「アイドルになって」

「ずっと」

「応援してくれる人に」

「もらってばっかだった」

「そんなことないよ」

「あるよ」

「……」

「ライブ来てくれて」

「CD買って」

「テレビ見て」

「俺が」

「しんどいときも」

「頑張れって」

「言ってくれて」

「……」

「だから」

「結婚するなら」

少し。

真剣な顔。

「俺の言葉で」

「ちゃんと」

「伝えたい」

胸が。

鳴った。

「事務所の」

「テンプレだけじゃなく?」

「うん」

「もちろん」

「文章は」

「相談するし」

「勝手には出さない」

「……」

「でも」

「俺の言葉」

「入れたい」

「何て?」

私は。

聞いた。

陽向は。

少し。

考える。

「まだ」

「決めてない」

「うん」

「でも」

「一つだけ」

「絶対」

「言いたくないことは」

「決まってる」

「何?」

「これからも」

少し。

苦笑する。

「何も変わらず」

「応援してください」

私は。

目を丸くした。

「どうして?」

「だって」

陽向が。

言う。

「変わるかもしれないじゃん」

「……」

「ファンの人の気持ち」

「俺が」

「決められない」

胸に。

小さく。

響く。

「ショックで」

「離れる人も」

「いると思う」

「うん」

「それを」

「変わらず」

「応援してくださいって」

「お願いするの」

「違う気する」

「……」

「だから」

陽向が。

少し。

笑う。

「ありがとう」

「って」

「言いたい」

「……」

「今まで」

「応援してくれたこと」

「ありがとう」

「これからも」

「応援してくれる人には」

「ありがとう」

「……」

「でも」

「離れる人にも」

少し。

寂しそうに。

笑う。

「今まで」

「ありがとうって」

「言いたい」

私は。

何も。

言えなかった。

陽向は。

ファンを。

一括りに。

していない。

好きで。

い続けることを。

要求しない。

それぞれの。

気持ちを。

選ぶ権利が。

あると。

思っている。

「……陽向」

「何?」

「私」

「それ」

「すごく好き」

「え?」

「その考え方」

陽向が。

少し。

照れる。

「そっか」

「うん」

「じゃあ」

「美月も」

「ファンの一人として」

「聞いて」

「え?」

陽向が。

少し。

姿勢を。

正す。

ふざけて。

言うのかと。

思った。

でも。

顔は。

真剣だった。

「高瀬美月さん」

「……はい」

「十年以上」

「天城陽向を」

「応援してくれて」

「ありがとうございました」

胸が。

一気に。

熱くなる。

「……」

「そして」

陽向が。

少し。

笑う。

「今は」

「ファンじゃなく」

「俺の隣に」

「いてくれて」

「ありがとう」

涙が。

溢れた。

「陽向……」

「俺」

「美月が」

「昔」

「ファンだったこと」

「めっちゃ嬉しい」

「うん」

「でも」

「もっと嬉しいのは」

私を見る。

「今」

「俺のこと」

「一人の男として」

「好きでいてくれること」

「……うん」

「だから」

「美月」

「ファンの人に」

「申し訳ないって」

「思わないで」

「……」

「一緒に」

「感謝しよ」

私は。

泣きながら。

頷いた。

「うん」

◇◇◇

数日後。

主演ドラマの。

取材。

私は。

記者から。

聞かれた。

「一ノ瀬さん」

「最近」

「プライベートでも」

「注目が集まっていますが」

一瞬。

空気が。

変わる。

事前に。

恋愛関係の質問は。

控えるよう。

お願いしていた。

でも。

ぼかした形で。

来た。

「今」

「ご自身にとって」

「幸せとは」

「何でしょうか?」

「……」

私は。

少し。

驚いた。

でも。

逃げる質問じゃない。

私は。

考えた。

そして。

答える。

「昔は」

「幸せって」

「周りの人が」

「笑っていることだと」

「思っていました」

記者が。

黙って。

聞く。

「もちろん」

「今も」

「大切な人が」

「幸せなのは」

「嬉しいです」

「でも」

私は。

少し。

笑う。

「最近は」

「その中に」

「自分も」

「入れていいんだって」

「思うようになりました」

「自分も?」

「はい」

「誰かだけが」

「我慢して」

「成り立つ幸せじゃなくて」

「……」

「みんなで」

「どうしたら」

「少しずつ」

「幸せになれるか」

「考えること」

「それが」

「今の私にとっての」

「幸せかもしれません」

答えたあと。

自分でも。

少し。

驚いた。

これは。

ドラマの役だけじゃない。

今の。

私自身の。

答えだった。

◇◇◇

そのインタビューが。

公開された日。

陽向から。

すぐに。

メッセージ。

『読んだ』

『早い』

『幸せのとこ』

少しして。

『俺、入ってる?』

私は。

思わず。

笑う。

『入ってる』

『よっしゃ』

『子どもたちも』

『うん』

『仕事も』

『うん』

『美月自身も』

その一文。

胸が。

温かくなる。

『うん』

私は。

返した。

『全部』

すると。

すぐ。

『それがいい』

◇◇◇

そして。

さらに。

数日後。

私たちは。

もう一度。

両事務所と。

話し合った。

結論は。

今すぐ。

婚約を。

発表しない。

主演ドラマ。

そして。

ASTERの。

大きな仕事。

それぞれの。

一区切りまで。

待つ。

その間。

交際について。

明確な否定は。

しない。

嘘も。

つかない。

でも。

自分たちから。

婚約を。

匂わせるようなことも。

しない。

「これで」

担当者が。

言う。

「いいですね?」

私は。

陽向を見る。

陽向も。

私を見る。

「はい」

二人。

同時。

少し。

笑った。

「それと」

マネージャーが。

陽向を見る。

「公表する日が来たら」

「本人の言葉を」

「入れたいんだろ?」

「はい」

「文章」

「考え始めとけ」

「……はい」

陽向が。

少し。

緊張した顔。

私は。

その横顔を。

見ていた。

いつか。

この人が。

ファンの人へ。

自分の言葉で。

結婚を。

伝える日。

そのとき。

私は。

どこにいるんだろう。

隣?

それとも。

別々の場所で。

発表を。

見ている?

まだ。

分からない。

でも。

今は。

逃げたいとは。

思わなかった。

◇◇◇

帰り道。

私は。

陽向へ。

聞いた。

「怖い?」

「何が?」

「公表」

陽向が。

少し。

考える。

「怖い」

即答。

「やっぱり?」

「うん」

「めっちゃ」

「……」

「ファンが」

「どう思うか」

「怖いし」

「仕事が」

「どうなるかも」

「怖い」

「うん」

「でも」

陽向が。

私を見る。

「怖いから」

「やめようとは」

「思ってない」

「……うん」

「美月は?」

私も。

考える。

「怖い」

「うん」

「でも」

左手。

今は。

指輪がない。

それでも。

私は。

笑った。

「陽向と」

「結婚したい」

陽向の。

顔が。

ぱっと。

明るくなる。

「俺も!」

「知ってる」

「でも」

「何回聞いても」

「嬉しい」

「ふふっ」

◇◇◇

家に。

帰ってから。

私は。

ケースの中の。

指輪を。

左手へ。

戻した。

外では。

まだ。

隠している。

でも。

これは。

後ろめたいから。

隠しているんじゃない。

大切に。

進むため。

準備を。

しているだけ。

鏡の中。

一ノ瀬紗良の。

顔。

薬指には。

陽向が。

高瀬美月へ。

くれた。

リング。

私は。

鏡に。

笑う。

「もう少し」

「待っててね」

いつか。

堂々と。

これを。

つけられる日まで。

陽向と。

一緒に。

一つずつ。

進んでいく。

そして。

その日。

私たちは。

まだ知らなかった。

待つ。

と。

決めたはずの。

結婚公表が。

想定より。

ずっと早く。

動き出すことになるなんて。

そのきっかけは。

またしても。

一本の。

週刊誌の記事だった。