目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

「……無理」

陽向は。

楽屋の前で。

立ち止まっていた。

昨日。

マネージャーから。

言われた。

――明日、ASTER全員にお前から話せ。

そして。

今日。

その日が。

来てしまった。

「……」

ドアの向こうから。

いつもの。

笑い声が聞こえる。

何年も。

一緒にいる。

メンバー。

ライブ前も。

落ち込んだときも。

嬉しいときも。

ずっと。

同じ場所で。

走ってきた。

なのに。

ドアが。

開けられない。

「何してんの?」

突然。

後ろから。

声。

「うわっ!」

陽向が。

飛び上がる。

ASTERのメンバーの一人が。

不思議そうに。

見ている。

「入らないの?」

「入る!」

「じゃあ入れよ」

「心の準備!」

「楽屋入るだけで?」

「今日は違う!」

「何が?」

「それは……」

言えない。

ここで。

一人だけに。

先に言うのは。

違う。

「……とにかく」

陽向は。

深呼吸した。

「行く」

「何その顔」

「うるさい!」

そして。

ドアを。

開けた。

◇◇◇

「おはよー」

「おはよ」

「遅い」

「五分前だから!」

いつもの。

ASTER。

五人。

全員。

揃っている。

このあと。

番組収録。

その前の。

少しだけ。

空いた時間。

マネージャーが。

陽向を見る。

――今、言え。

その目。

「……」

陽向は。

座れない。

立ったまま。

「みんな」

「何?」

一人が。

お菓子を食べながら。

返事をする。

「ちょっと」

「話ある」

「何その改まった感じ」

「怖」

「また何か撮られた?」

「違う!」

「じゃあ何?」

四人の。

視線。

全部。

自分へ。

五人の子どもたちより。

怖い。

いや。

同じくらい。

怖い。

「俺」

「うん」

喉が。

乾く。

「……結婚します」

「……」

静寂。

一秒。

二秒。

三秒。

「は?」

最初に。

声が出た。

「……結婚?」

「うん」

「誰が?」

「俺」

「誰と?」

「……彼女」

「それは分かる!」

一気に。

楽屋が。

騒がしくなる。

「ちょっと待って!」

「プロポーズしたの!?」

「いつ!?」

「熱愛出たばっかだよな!?」

「マジ!?」

「お前!」

「一回黙って!」

陽向が。

両手を。

上げる。

でも。

誰も。

黙らない。

「相手って」

「この前の?」

「……うん」

「一ノ瀬紗良さん?」

その名前に。

陽向が。

一瞬。

止まる。

「……世間では」

「そう」

「世間では?」

空気が。

少し。

変わった。

しまった。

言い方。

「いや」

「そこは」

陽向が。

迷う。

どこまで。

話す?

美月のこと。

紗良の身体に。

高瀬美月が。

いること。

これは。

陽向だけの。

秘密じゃない。

美月の。

人生そのもの。

勝手に。

話していいことじゃない。

「とにかく」

「俺が」

「結婚したい人」

「……」

「その人に」

「プロポーズして」

「受けてもらった」

メンバーたちは。

それぞれ。

顔を見合わせた。

◇◇◇

最初に。

口を開いたのは。

以前。

陽向のスマートフォンを見て。

『それもう、家族になりたい顔してる』

と。

言ったメンバーだった。

「……おめでとう」

陽向の目が。

大きくなる。

「え?」

「いや」

少し。

笑う。

「まずそれだろ」

「……」

胸が。

熱くなる。

「ありがとう」

すると。

別のメンバーも。

「まあ」

「びっくりしたけど」

少し笑って。

「おめでとう」

「ありがとう」

「でも早!」

「そこは俺も思う!」

「自覚あるんかい!」

全員が。

笑った。

少しだけ。

肩の力が。

抜ける。

でも。

次の瞬間。

一人が。

真面目な顔になる。

「陽向」

「うん」

「本当に」

「考えた?」

その質問。

分かっていた。

「何を?」

「全部」

「……」

「お前一人の」

「話じゃないだろ」

楽屋が。

静かになる。

「ファン」

「グループ」

「スポンサー」

「仕事」

「……」

「一ノ瀬さん側の」

「仕事もある」

「うん」

「それで」

少し。

言葉を選ぶ。

「本当に」

「今なん?」

陽向は。

黙った。

責められているとは。

思わない。

むしろ。

当然の質問。

だから。

ちゃんと。

答えたい。

「結婚するって」

「今日明日」

「籍入れるって意味じゃない」

「……うん」

「まだ」

「時期も」

「公表も」

「何も決めてない」

「じゃあ」

「何でプロポーズした?」

「……」

陽向は。

少し。

考えた。

そして。

笑った。

「一緒に」

「考えたかったから」

「え?」

「結婚するかどうかを」

「俺一人で」

「ずっと考えるんじゃなくて」

「……」

「まず」

「美月と」

その名前が。

自然に。

出た。

「……美月?」

一人が。

眉を寄せる。

陽向が。

止まる。

「今」

「美月って言った?」

「……」

「一ノ瀬紗良さんじゃないの?」

「……」

しまった。

でも。

誤魔化すのも。

変。

陽向は。

大きく。

息を吐いた。

「その話」

「今は」

「全部は言えない」

メンバーたちが。

少し。

驚く。

「俺だけの」

「秘密じゃないから」

「……」

「でも」

「俺が」

「好きになった人は」

「俺の中では」

「美月」

「……」

「そこだけ」

「覚えといてほしい」

少し。

不思議そうな。

空気。

でも。

誰も。

それ以上。

踏み込まなかった。

長く。

一緒にいる。

だから。

分かる。

陽向が。

ふざけていない。

そして。

言えないことには。

理由がある。

「分かった」

一人が。

頷く。

「その人のことは」

「美月さんって」

「思っとけばいい?」

「……うん」

陽向が。

笑う。

「ありがとう」

◇◇◇

「で?」

別のメンバーが。

聞いた。

「一緒に考えたいから」

「プロポーズ?」

「うん」

「それ」

「どういう意味?」

陽向は。

ソファへ。

腰を下ろす。

「俺」

「前だったら」

「結婚したい!」

「じゃあする!」

「って」

「行ってたと思う」

マネージャーが。

無言で。

頷いた。

「そこ頷かなくていい!」

楽屋に。

少し。

笑い。

「でも」

陽向は。

続ける。

「美月って」

「俺より」

「いろんなもの」

「背負ってるから」

「……」

「仕事も」

「大事な家族も」

「過去も」

「……」

「それを」

「俺と結婚するために」

「捨ててほしくない」

メンバーたちが。

黙って。

聞いている。

「だから」

「結婚してくださいって」

「言ったけど」

「……」

「そこから」

「どういう形なら」

「二人とも」

「大事なもの守れるか」

「一緒に」

「考えようって」

「そういう意味」

一人が。

少し。

目を丸くした。

「……お前」

「何?」

「めちゃくちゃ」

「ちゃんとしてるじゃん」

「普段俺」

「どう思われてんの!?」

「勢い」

「テンション」

「ゲーム」

「アニメ」

「うるさい」

「ひど!」

全員が。

笑う。

◇◇◇

でも。

一番。

静かだったメンバーが。

ようやく。

口を開いた。

「俺」

「うん」

「正直」

少し。

間。

「怖い」

陽向が。

真っ直ぐ。

見る。

「何が?」

「グループ」

「……」

「結婚したら」

「お前のファン」

「離れるかもしれない」

「うん」

「ASTERの」

「売上」

「落ちるかもしれない」

「うん」

「仕事」

「減る可能性も」

「ある」

「……うん」

「俺ら」

「五人で」

「ここまで」

「来たじゃん」

陽向の胸が。

少し。

痛む。

「だから」

そのメンバーが。

言う。

「おめでとうって」

「思う気持ちと」

「簡単に」

「いいじゃん」

「って」

「言えない気持ち」

「両方ある」

静かだった。

でも。

陽向は。

少し。

嬉しかった。

ちゃんと。

言ってくれたから。

「……ありがとう」

「何で礼?」

「本音」

「言ってくれたから」

「……」

陽向が。

少し笑う。

「俺も」

「怖いよ」

メンバーたちが。

陽向を見る。

「ファンが」

「離れたら」

「嫌だし」

「うん」

「ASTERに」

「迷惑かかったら」

「嫌だし」

「……」

「結婚して」

「全部今まで通りです!」

「なんて」

「俺も思ってない」

「うん」

「だから」

陽向が。

少し。

前へ。

身を乗り出す。

「どうしたら」

「できるだけ」

「みんなを」

「大事にできるか」

「……」

「俺も」

「考えたい」

「でも」

少し。

声が。

弱くなる。

「だからって」

「美月と」

「別れるのは」

「違うと思ってる」

誰も。

口を挟まない。

「美月も」

「一回」

「俺のために」

「別れたほうがいいかもって」

「言った」

「……」

「俺」

「それ」

「めちゃくちゃ嫌だった」

「うん」

「俺のためって」

「言って」

「俺が一番嫌なこと」

「決められるの」

「嫌だった」

一人が。

小さく。

頷く。

「だから」

「ASTERのために」

「俺が」

「勝手に」

「結婚諦めましたって」

「決めるのも」

「違うだろ」

「……」

「みんなが」

「どう思うか」

「聞いて」

「俺がどうしたいかも」

「言って」

「それで」

少し。

笑う。

「一緒に」

「考えたい」

長い。

沈黙。

そして。

一人が。

ふっと。

笑った。

「……彼女に」

「影響されすぎ」

「え?」

「一人で決めないって」

「前のお前から」

「一番遠い言葉」

「そんな!?」

「だって」

別のメンバーが。

笑う。

「昔」

「ライブ演出」

「勝手に思いついて」

「朝四時に」

「グループLINE送ってきたじゃん」

「あれは!」

「しかも」

「俺これ絶対やりたい!」

「から始まってた」

「……」

「今」

「一緒に考えたい」

「になってる」

陽向が。

少し。

恥ずかしくなる。

「……悪い?」

「いや」

「いいと思う」

その言葉に。

陽向は。

顔を上げた。

◇◇◇

「俺は」

最初に。

おめでとう。

と言ったメンバーが。

口を開く。

「結婚」

「賛成」

「……」

「ただし」

「うん」

「ちゃんと」

「俺らにも」

「相談して」

「……うん」

「発表の時期とか」

「うん」

「グループへの影響とか」

「全部」

「分かった」

「それなら」

少し。

笑う。

「俺は」

「美月さんと」

「幸せになれって」

「言う」

陽向の。

目が。

熱くなる。

「ありがとう」

別のメンバーも。

手を。

上げる。

「俺も」

「ただ」

「ファンには」

「ちゃんと」

「向き合え」

「うん」

「嘘だけは」

「つくな」

「うん」

そして。

さっき。

怖いと。

言ったメンバー。

陽向は。

その人を見る。

「……」

少し。

間。

「俺は」

「まだ」

「怖い」

「うん」

「でも」

陽向を見る。

「お前が」

「結婚したいくらい」

「大事な人なんだろ?」

「うん」

即答。

「じゃあ」

「一回」

「会ってみたい」

「……え?」

「美月さん」

「……」

「お前が」

「そこまで」

「変わるくらいの人」

「どんな人か」

「知りたい」

陽向の顔が。

ぱっと。

明るくなる。

「会う!?」

「いや」

「何でお前が」

「そんな嬉しそうなん」

「だって!」

陽向が。

身を乗り出す。

「美月」

「ASTERの」

「めちゃくちゃファンだから!」

「……」

しん。

四人。

全員。

止まる。

「……え?」

「あ」

また。

余計なこと。

言った。

「ファン?」

「……はい」

「誰推し?」

「……」

陽向が。

胸を張る。

「俺」

「うわ」

「急に腹立つ」

「なんで!」

「お前」

「推しと付き合って」

「結婚するの?」

「……はい」

「何その人生」

「俺も思う!」

全員が。

一気に。

騒ぎ始める。

「じゃあ」

「俺らに会うとき」

「普通に緊張する?」

「すると思う」

「面白」

「絶対会いたい」

「やめろ!」

陽向が。

慌てる。

「美月いじるなよ!」

「まだ会ってないのに」

「守り入るな」

「だって!」

いつもの。

ASTER。

陽向は。

笑った。

胸の。

奥にあった。

重いものが。

少しだけ。

軽くなった。

◇◇◇

その日の夜。

私は。

撮影から。

帰ったところだった。

主演ドラマ。

クランクイン。

朝から。

長い一日。

玄関を。

開けた瞬間。

「……疲れた」

ちゃんと。

口にする。

以前なら。

大丈夫。

って。

言っていた。

今は。

誰もいなくても。

疲れた。

と言える。

スマートフォン。

陽向から。

『電話できる?』

私は。

ソファへ。

座る。

『できるよ』

すぐ。

着信。

「もしもし」

『美月!』

元気。

「声大きい」

『ごめん』

「どうしたの?」

『今日』

少し。

間。

『ASTERに』

「……」

私は。

身体を。

起こした。

「話した?」

『うん』

「結婚のこと?」

『うん』

心臓が。

少し。

速くなる。

「……どうだった?」

陽向は。

すぐには。

答えない。

「陽向?」

『おめでとうって』

「……」

『言ってくれた』

胸が。

ふっと。

軽くなった。

「そっか」

『でも』

「うん」

『心配も』

『ちゃんと』

『言われた』

「……うん」

『ファンのこと』

『グループのこと』

『仕事のこと』

「うん」

『簡単に』

『全部いいじゃん』

『って』

『感じじゃなかった』

私は。

少し。

安心した。

「それでいいと思う」

『え?』

「だって」

私は。

ソファへ。

身体を預ける。

「みんなにとっても」

「人生に関わることだもん」

『……うん』

「陽向だけの」

「問題じゃない」

『うん』

「だから」

「ちゃんと」

「心配って」

「言ってくれる人がいるの」

「いいと思う」

電話の向こう。

少し。

静か。

『美月』

「何?」

『やっぱ』

「?」

『そういうとこ』

「何?」

『好き』

「急に?」

『いや』

少し。

笑う声。

『俺』

『最初』

『反対されたらどうしようって』

『思ってた』

「うん」

『でも』

『反対とか賛成とか』

『そういう二択じゃないんだよな』

「……うん」

『心配だけど』

『応援したいって』

『両方』

『あっていいんだなって』

私は。

少し。

笑った。

「そうだね」

◇◇◇

「それと」

陽向が。

急に。

少し。

楽しそうな声になる。

「何?」

『みんな』

『美月に』

『会いたいって』

「……」

私は。

固まった。

「誰が?」

『ASTER』

「……」

「え?」

『だから』

『メンバー四人』

「……」

数秒。

理解に。

時間がかかった。

「待って」

『うん』

「ASTER?」

『うん』

「全員?」

『うん』

「私が?」

『そう』

私は。

立ち上がった。

「無理!」

『ええ!?』

「無理無理無理!」

『なんで!?』

「だって!」

私は。

部屋を。

うろうろ。

歩く。

「陽向!」

『うん』

「私!」

『うん』

「ASTERの」

『うん』

「ファンなんだけど!」

『知ってる!』

「陽向だけじゃなくて!」

『知ってる!』

「全員」

「テレビで」

「何年も見てた人!」

『うん』

「その四人に!」

「陽向の!」

顔が。

一気に。

熱くなる。

「婚約者として!?」

『そう』

「無理!」

電話の向こう。

大爆笑。

『あはははっ!』

「笑わないで!」

『いや』

『美月が』

『五人の子どもに』

『俺紹介したとき』

『俺のこと』

『笑ってたじゃん!』

「今」

「気持ち分かった!」

『だろ!?』

「無理!」

『大丈夫』

「簡単に言わないで!」

『ごめん!』

もう。

心臓。

速い。

ASTER。

ずっと。

応援してきた。

陽向だけじゃない。

五人で。

笑って。

歌って。

ふざけて。

支え合って。

その姿を。

テレビ越しに。

何度も。

見てきた。

その人たちの前で。

私は。

一ノ瀬紗良としてではなく。

陽向が。

結婚したいと思った。

高瀬美月として。

会う。

「……陽向」

『何?』

「私」

「絶対」

「変なこと言う」

『大丈夫』

「だから」

「大丈夫って」

『じゃあ』

陽向が。

笑う。

『変なこと言っても』

『俺が一緒にいる』

「……」

胸が。

少し。

落ち着いた。

「それ」

「先に言って」

『ごめん』

「いつ?」

『来週』

「早い!」

『みんな楽しみにしてる』

「私はしてない!」

『嘘』

「……」

『ちょっと』

『楽しみでしょ?』

「……」

私は。

言葉に。

詰まる。

だって。

会いたい。

ファンとして。

ものすごく。

会いたい。

でも。

怖い。

「……少し」

『ほら』

「でも」

「すごく緊張する」

『うん』

「陽向」

『何?』

「絶対」

「隣にいてね」

陽向が。

一瞬。

黙った。

そして。

すごく。

優しい声。

『いるよ』

「……」

『婚約者なんで』

「それ」

「まだ慣れない」

『俺は慣れた』

「早い」

『むしろ』

少し。

嬉しそう。

『言いたい』

「外では言わないで」

『はい』

私は。

笑った。

◇◇◇

電話を。

切ったあと。

私は。

ソファに。

座り直す。

そして。

ふと。

思った。

不思議。

一度目の人生。

私は。

テレビの前で。

ASTERを。

見ていた。

陽向を。

見て。

笑って。

元気を。

もらっていた。

その。

画面の向こうにいた。

五人。

今度は。

その五人の中へ。

私は。

陽向の。

人生の。

大切な人として。

会いに行く。

「……人生」

「どうなってるの」

思わず。

笑った。

でも。

少し。

嬉しい。

子どもたちに。

陽向を。

紹介した。

今度は。

陽向が。

自分の大切な人たちへ。

私を。

紹介してくれる。

私だけが。

陽向の世界へ。

入れるんじゃない。

陽向も。

私の世界へ。

来てくれた。

お互いの。

大切なものを。

少しずつ。

知っていく。

それって。

きっと。

家族になる。

準備なのかもしれない。

そして。

一週間後。

私は。

人生で初めて。

『最推しの婚約者』として。

ASTERの。

四人と。

向き合うことになる。

――ただし。

その日。

緊張しすぎた私は。

会って三十秒で。

とんでもないことを。

口走ることになるのだった。