プロポーズされた。
翌朝。
目を覚まして。
最初にしたことは。
左手を。
見ることだった。
「……ある」
薬指。
昨日と同じ。
小さく。
指輪が光っている。
夢じゃない。
私は。
天城陽向に。
プロポーズされて。
はい。
って。
答えた。
「……婚約者」
口にすると。
まだ。
ものすごく。
恥ずかしい。
でも。
嬉しい。
私は。
布団の中で。
一人。
にやけた。
その瞬間。
スマートフォンが。
震えた。
陽向。
『おはよう、婚約者さん』
「……絶対これ」
「しばらく言うな」
私は。
笑いながら。
返す。
『おはよう』
すぐに。
『指輪ある?』
『あるよ』
『よかった』
『なくなると思ったの?』
少しして。
『昨日が幸せすぎて、俺も夢だった気してる』
胸が。
きゅっと。
鳴る。
『夢じゃないよ』
送ると。
今度は。
少し。
返事が遅かった。
『うん』
そして。
『今日も好き』
「朝から重い」
そう。
呟きながら。
私の顔は。
完全に。
笑っていた。
◇◇◇
でも。
幸せだけに。
浸っているわけにも。
いかない。
結婚する。
そう。
決めたなら。
話さなければならない人がいる。
子どもたち。
そして。
前の夫。
陽向は。
「急がなくていい」
と。
言ってくれた。
でも。
私は。
隠したくなかった。
特に。
子どもたちには。
私の人生が。
また。
勝手に変わっていくように。
感じてほしくない。
私は。
スマートフォンを握った。
最初に。
星へ。
電話をする。
『もしもし?』
「星」
『何?』
声が。
すでに。
楽しそう。
絶対。
昨日から。
ニヤニヤしてる。
「今度」
『うん』
「みんなに」
少し。
緊張する。
「ちゃんと」
「結婚のこと」
「話したい」
電話の向こう。
星が。
少し。
静かになった。
『……うん』
「いいかな」
『何で私に聞くの?』
「え?」
『ママが』
星が。
優しく言う。
『話したいんでしょ?』
「……うん」
『じゃあ』
『話したらいいじゃん』
胸が。
温かくなる。
「でも」
『また始まった』
「何が?」
『みんなが嫌だったらどうしよう』
『とか』
『思ってるでしょ』
「……」
図星。
『ママ』
「何?」
『結婚するの』
『やめたい?』
私は。
すぐに。
答えた。
「やめたくない」
『じゃあ』
少し。
笑う声。
『それを』
『ちゃんと言えばいいよ』
「……うん」
『私もいるから』
「ありがとう」
『ただし』
「何?」
星が。
急に。
声を弾ませる。
『指輪』
『みんなに見せるとき』
『私が選んだって』
『ちゃんと言ってね』
「そこ!?」
『大事!』
私は。
声を上げて。
笑った。
◇◇◇
数日後。
また。
子どもたちと。
会う日。
今回は。
陽向はいない。
私と。
五人の子どもたち。
そして。
前の夫。
レンタルスペースへ。
着いた瞬間。
一番小さい子が。
飛んでくる。
「ママ!」
「はい」
ぎゅっ。
と。
抱きつかれる。
もう。
美月。
ではなく。
自然に。
ママ。
それだけで。
今でも。
胸が。
いっぱいになる。
「今日ゲームする?」
「するけど」
「今日は」
「その前に」
「みんなに」
「話がある」
その瞬間。
少し上の子が。
眉を寄せる。
「怒られる?」
「違う」
「じゃあ何?」
「大事な話」
一番小さい子が。
私の顔を見て。
「ゲームより?」
「ゲームより」
「えー」
そこは。
納得して。
◇◇◇
みんなが。
座る。
私は。
その前。
少し。
緊張した。
星だけが。
内容を。
知っている。
前の夫も。
まだ。
知らない。
「……」
夫が。
私を見る。
「何?」
「いや」
「そんな改まって」
「どうしたんかと思って」
「うん」
私は。
膝の上で。
左手を。
握った。
仕事では。
指輪を。
外している。
今日も。
ここへ来るまでは。
外していた。
でも。
今。
ポケットの。
小さなケースに。
入っている。
「ママね」
子どもたちを見る。
「みんなに」
「聞いてほしいことがある」
静かになる。
「前に」
「陽向と」
「お付き合いしてるって」
「話したでしょ?」
何人かが。
頷く。
一番小さい子が。
「あ!」
と。
声を上げる。
「ゲームうまいひと!」
「そう」
基準。
そこなんだ。
「陽向が」
私は。
少し。
息を吸う。
「ママに」
「結婚してくださいって」
「言ってくれた」
「……」
しん。
と。
静まった。
そして。
「え?」
「結婚?」
「ママが?」
「陽向くんと?」
一気に。
声が。
重なる。
「うん」
私は。
頷く。
「それで」
胸に。
手を当てる。
「ママも」
「結婚したいって」
「答えた」
夫の顔が。
少しだけ。
変わった。
でも。
何も。
言わない。
子どもたちも。
それぞれ。
違う顔。
驚いている子。
星みたいに。
嬉しそうな子。
そして。
少し。
複雑そうな子。
私は。
急がない。
返事を。
待った。
◇◇◇
最初に。
口を開いたのは。
以前。
私に。
「嫌い」と。
言った子だった。
「……ママ」
「うん」
「結婚したら」
少し。
眉を寄せる。
「もう」
胸が。
きゅっとなる。
「僕らのママじゃ」
「なくなる?」
「……」
私は。
すぐに。
首を振った。
「ならない」
「ほんま?」
「うん」
その子の。
目を見る。
「結婚しても」
「ママは」
「みんなのママ」
「……」
「そこは」
「何も変わらない」
「でも」
別の子が。
聞く。
「陽向くんと」
「一緒に住むんやろ?」
「たぶん」
「じゃあ」
「僕らと」
「もっと会えんくなる?」
胸が。
痛い。
でも。
大丈夫と。
決めつけない。
「それは」
私は。
正直に答える。
「まだ」
「ちゃんと決めてない」
「……」
「どこに住むかも」
「いつ結婚するかも」
「仕事をどうするかも」
「まだ」
「陽向と」
「話してる途中」
「……」
「でも」
私は。
みんなを見る。
「みんなと」
「会える時間を」
「なくす結婚には」
「したくない」
「……」
「ママが」
「陽向と家族になるために」
「みんなとの家族を」
「やめることは」
「絶対ないよ」
その言葉。
自分で。
言いながら。
胸の中に。
すっと。
入ってきた。
そう。
私は。
何かを。
捨てるために。
結婚するんじゃない。
◇◇◇
すると。
一番小さい子が。
突然。
聞いた。
「けっこんしたら」
「うん?」
「ひなたが」
少し。
考える。
「パパになる?」
部屋の空気が。
止まった。
夫も。
私も。
星も。
一瞬。
固まる。
難しい。
でも。
答えは。
はっきりしている。
「ならないよ」
一番小さい子が。
首を傾げる。
「なんで?」
「だって」
私は。
夫を見る。
それから。
子どもを見る。
「あなたたちのパパは」
「パパだから」
夫の目が。
少し。
揺れた。
「陽向は」
私は。
少し考える。
「ママの」
「大切な人」
「……」
「結婚したら」
「ママの家族にはなる」
「うん」
「でも」
「パパの代わりには」
「ならない」
一番小さい子は。
少し。
考える。
「じゃあ」
「ひなたは」
「ひなた?」
思わず。
笑ってしまう。
「うん」
「陽向は陽向」
「そっか」
それだけで。
納得したらしい。
「じゃあいい」
軽い。
でも。
その単純さが。
ありがたかった。
◇◇◇
一方。
少し大きい子は。
まだ。
難しい顔をしていた。
「……嫌?」
私は。
聞いた。
その子は。
一瞬。
驚いた顔。
「嫌って」
「言ってもいい?」
「うん」
「ママが」
「結婚するの」
「嫌だったら」
「言っていい」
「……」
「でも」
私は。
続ける。
「嫌って言われたから」
「絶対やめるって」
「約束は」
「できない」
子どもの目が。
少し。
大きくなる。
昔の私なら。
きっと。
言えなかった。
でも。
大事なのは。
何でも。
子どもの希望通りに。
することじゃない。
気持ちを。
聞くこと。
そして。
私の気持ちも。
伝えること。
「ママは」
「陽向が好き」
「……」
「結婚したいって」
「思ってる」
「……」
「でも」
「あなたが」
「寂しいとか」
「嫌だとか」
「思うなら」
胸へ。
手を当てる。
「それも」
「ちゃんと知りたい」
その子は。
しばらく。
黙っていた。
そして。
「……嫌っていうか」
「うん」
「変」
「変?」
「ママが」
少し。
言いにくそうに。
夫を見る。
「パパじゃない人と」
「結婚するの」
「……」
私は。
頷いた。
「そうだよね」
「うん」
「だって」
「前は」
「パパとママやったやん」
「うん」
「なのに」
「今」
「ママだけ」
「違う顔で」
「陽向くんと」
「結婚するって」
「……」
「意味分からん」
「うん」
私は。
少し笑った。
「ママも」
「たまに」
「意味分からない」
一瞬。
その子が。
笑いそうになる。
「でも」
私は。
続ける。
「パパと」
「家族だったことは」
「なくならない」
「……」
「ママ」
「パパのこと」
「嫌いになったから」
「全部捨てて」
「陽向と結婚するわけじゃない」
夫が。
静かに。
私を見る。
「パパは」
「今でも」
「みんなの大切なパパ」
「うん」
「ママにとっても」
一度。
言葉を。
選ぶ。
「大切な」
「一度目の人生の」
「家族だった人」
「……」
「でも」
私は。
笑った。
「これから」
「恋人として」
「一緒に生きたいのは」
「陽向」
その子は。
黙って。
聞いていた。
そして。
小さく。
「そっか」
と。
言った。
それだけ。
でも。
十分だった。
◇◇◇
「で!」
突然。
星が。
声を上げた。
「ママ」
「何?」
「指輪」
「……」
来た。
「見せないの?」
みんなの。
視線。
一気に。
私の左手へ。
「今」
「してないやん」
「仕事あるから」
「持ってきてる?」
星。
絶対。
楽しんでる。
「……持ってきてる」
「見たい!」
一人が。
言う。
すると。
「ぼくも!」
「私も!」
だんだん。
声が増える。
私は。
少し。
恥ずかしくなりながら。
小さなケースを。
取り出した。
「これ」
開く。
リング。
一瞬。
子どもたちが。
静かになる。
「きれい」
誰かが。
呟く。
「これ」
星が。
自慢げに。
胸を張る。
「私も選んだ」
「やっぱり言うんだ」
「大事だから」
一番小さい子が。
指輪を。
じっと見る。
「ママ」
「何?」
「つけて」
「今?」
「うん」
私は。
少し迷って。
でも。
左手を。
差し出した。
自分で。
指輪を。
薬指へ。
通す。
すると。
一番小さい子が。
ぱっと。
笑った。
「おひめさまみたい!」
「……」
私。
三十四歳。
五児の母。
でも。
その言葉。
ちょっと。
嬉しい。
「ありがとう」
星が。
笑う。
「ママ」
「顔赤いよ」
「うるさい」
◇◇◇
しばらくして。
子どもたちは。
ゲームへ。
移った。
私は。
少し。
離れたところにいた。
夫の隣へ。
座る。
「……ごめん」
言いそうになって。
止める。
違う。
「聞いてくれて」
「ありがとう」
夫が。
少し。
笑う。
「また」
「謝るかと思った」
「私も」
「危なかった」
二人で。
小さく。
笑う。
でも。
そのあと。
少し。
沈黙。
「……どう思った?」
私は。
聞いた。
夫は。
ゲームをする。
子どもたちを見る。
「正直?」
「うん」
「ちょっと」
「……」
「寂しかった」
私は。
何も言わない。
「お前」
「死んだと思っとったし」
「うん」
「戻ってきたと思ったら」
「別の人好きで」
「うん」
「今度は」
「結婚するって」
「……」
「頭」
「追いつかん」
「うん」
夫が。
少し。
苦笑する。
「でも」
「前にも」
「言ったけど」
私を見る。
「俺が」
「止めることでも」
「ないんやろ」
「……うん」
「それに」
陽向が。
いない部屋。
でも。
前に。
会ったときのことを。
思い出しているのか。
夫が。
続ける。
「あの人」
「子どもらの父親に」
「なろうとしてなかった」
「うん」
「そこは」
「ありがたかった」
胸が。
少し。
温かくなる。
「陽向も」
「そこ」
「すごく気にしてた」
「そっか」
「うん」
夫は。
少し。
考えて。
言った。
「じゃあ」
「一個だけ」
「何?」
「結婚しても」
真面目な目。
「子どもらのことで」
「必要なことは」
「ちゃんと」
「話せるようにしといて」
「……うん」
「陽向に」
「遠慮して」
「こっちと」
「連絡取れんとか」
「それは」
「困る」
私は。
迷わず。
頷いた。
「それは」
「私も」
「絶対」
「嫌」
「うん」
「子どもたちのことは」
「これからも」
「一緒に考えたい」
夫が。
少し。
安心したように。
頷いた。
「なら」
少し。
間。
「おめでとう」
胸が。
止まった。
「……え?」
「何」
「いや」
「言ってくれると」
「思わなかった」
「失礼やな」
夫が。
苦笑する。
「俺も」
「複雑ではある」
「……うん」
「でも」
子どもたちを見る。
「お前」
「前より」
「笑っとるし」
胸が。
揺れる。
「……そっか」
「うん」
「なら」
夫が。
小さく笑う。
「ええんちゃう」
涙が。
少し。
滲んだ。
「ありがとう」
今度は。
ちゃんと。
言えた。
◇◇◇
帰宅後。
私は。
陽向へ。
電話をした。
『どうだった!?』
出た瞬間。
いきなり。
大声。
「早い」
『いや』
『今日だろ!?』
「うん」
『みんなに言った?』
「言った」
『反応は!?』
「尋問?」
『気になる!』
私は。
ソファに。
座る。
「驚いてた」
『うん』
「ちょっと」
「複雑そうな子も」
「いた」
電話の向こう。
陽向が。
少し。
静かになる。
『そっか』
「でも」
「ちゃんと」
「話せたよ」
『うん』
「結婚しても」
「ママは」
「ママのままって」
『うん』
「陽向は」
「パパの代わりには」
「ならないって」
『……うん』
陽向の声が。
優しくなる。
『それでいい』
「あと」
私は。
少し。
笑う。
「一番下」
『何?』
「陽向のこと」
「陽向は陽向でいいって」
『……』
「ゲームする人だし」
『またそこ!?』
思わず。
笑う。
「でも」
「認めてもらってるじゃん」
『ゲーム友達としてね!』
「十分」
◇◇◇
「それと」
私は。
少し。
緊張した。
『何?』
「前の夫にも」
『……うん』
「ちゃんと」
「話した」
電話の向こう。
少し。
間。
『どうだった?』
「複雑って」
『うん』
「でも」
私は。
小さく笑う。
「おめでとうって」
「言ってくれた」
陽向が。
黙った。
「陽向?」
『……そっか』
「うん」
『よかった』
本当に。
そう思っている声。
「嫉妬しない?」
『する』
即答。
「するんだ」
『するよ』
少し。
拗ねた声。
『でも』
「うん」
『俺』
『旦那さんに勝ちたいから』
『美月と結婚するわけじゃないし』
胸が。
きゅっと。
鳴った。
『美月と』
『これから生きたいから』
『結婚したい』
「……うん」
『だから』
少し。
笑う。
『おめでとうって』
『言ってもらえたなら』
『俺も嬉しい』
涙が。
少し。
滲む。
「陽向」
『何?』
「やっぱり」
「陽向でよかった」
電話の向こう。
完全に。
静かになる。
「……陽向?」
『今』
「何?」
『録音したかった』
「やめて」
『もう一回』
「言わない」
『美月!』
笑った。
◇◇◇
その夜。
私は。
左手の指輪を。
外して。
ケースへ。
戻す。
明日は。
撮影。
まだ。
外では。
つけられない。
でも。
不思議と。
寂しくはなかった。
指輪を。
外したら。
婚約が。
消えるわけじゃない。
陽向を。
好きじゃなくなるわけでも。
ない。
子どもたちと。
話せた。
夫だった人とも。
話せた。
誰にも。
何かを。
奪われず。
私も。
何かを。
捨てず。
未来へ。
進める。
「……よし」
私は。
ベッドへ。
入る。
でも。
その頃。
陽向の事務所では。
また。
一つ。
新しい問題が。
持ち上がっていた。
「結婚……?」
陽向の。
マネージャーが。
資料を置く。
「本気で」
「考えてるのか?」
陽向は。
一瞬。
黙った。
そして。
「考えてるんじゃなくて」
真っ直ぐ。
答えた。
「もう」
「プロポーズしました」
「……は?」
「受けてもらいました」
「……」
マネージャーが。
完全に。
固まる。
「ちょっと待て」
「はい」
「この前」
「熱愛報道が出たばっかりだぞ?」
「分かってます」
「お前」
「今」
「トップアイドルだぞ?」
「知ってます」
「じゃあ」
「分かるよな?」
陽向は。
黙って。
相手を見る。
「結婚すれば」
「祝福だけじゃ済まない」
「人気」
「グループ」
「スポンサー」
「ファン」
「全部」
「影響が出る」
「……はい」
「それでも」
「するのか?」
長い。
沈黙。
でも。
陽向の答えは。
変わらなかった。
「します」
「……」
「ただ」
陽向は。
続けた。
「勝手には」
「しません」
「……」
「美月の仕事も」
「俺の仕事も」
「ファンも」
「グループも」
「ちゃんと」
「向き合います」
「……」
「だから」
真っ直ぐ。
言う。
「どうしたら」
「結婚しても」
「全部を」
「できるだけ」
「大事にできるか」
「一緒に」
「考えてください」
マネージャーは。
しばらく。
何も言わなかった。
そして。
深く。
ため息をつく。
「……お前」
「変わったな」
「え?」
「前なら」
「結婚します!」
「以上!」
「みたいに」
「突っ走ってた」
「俺そんなに?」
「そんなに」
陽向は。
少し。
苦笑した。
「美月に」
「教えてもらったんで」
「何を?」
「一人で」
「決めないこと」
マネージャーが。
ゆっくり。
椅子へ。
座る。
「……分かった」
「え?」
「まず」
資料を。
引き寄せる。
「何が問題になるか」
「全部洗い出すぞ」
陽向の。
顔が。
ぱっと。
明るくなる。
「はい!」
「ただし」
「?」
「明日」
「ASTER全員に」
「お前から話せ」
陽向の。
笑顔が。
止まった。
「……全員?」
「当たり前だ」
「結婚は」
「お前一人の仕事じゃない」
「……」
陽向が。
ごくりと。
唾を飲む。
五人の子どもたちに。
会ったとき。
それ以上の。
緊張。
「……マジか」
そして。
私は。
まだ知らなかった。
次に。
陽向が。
結婚を認めてもらわなければならない相手が。
家族でも。
事務所でもなく。
ずっと。
一緒に。
夢を追ってきた。
ASTERの。
四人になることを。
翌朝。
目を覚まして。
最初にしたことは。
左手を。
見ることだった。
「……ある」
薬指。
昨日と同じ。
小さく。
指輪が光っている。
夢じゃない。
私は。
天城陽向に。
プロポーズされて。
はい。
って。
答えた。
「……婚約者」
口にすると。
まだ。
ものすごく。
恥ずかしい。
でも。
嬉しい。
私は。
布団の中で。
一人。
にやけた。
その瞬間。
スマートフォンが。
震えた。
陽向。
『おはよう、婚約者さん』
「……絶対これ」
「しばらく言うな」
私は。
笑いながら。
返す。
『おはよう』
すぐに。
『指輪ある?』
『あるよ』
『よかった』
『なくなると思ったの?』
少しして。
『昨日が幸せすぎて、俺も夢だった気してる』
胸が。
きゅっと。
鳴る。
『夢じゃないよ』
送ると。
今度は。
少し。
返事が遅かった。
『うん』
そして。
『今日も好き』
「朝から重い」
そう。
呟きながら。
私の顔は。
完全に。
笑っていた。
◇◇◇
でも。
幸せだけに。
浸っているわけにも。
いかない。
結婚する。
そう。
決めたなら。
話さなければならない人がいる。
子どもたち。
そして。
前の夫。
陽向は。
「急がなくていい」
と。
言ってくれた。
でも。
私は。
隠したくなかった。
特に。
子どもたちには。
私の人生が。
また。
勝手に変わっていくように。
感じてほしくない。
私は。
スマートフォンを握った。
最初に。
星へ。
電話をする。
『もしもし?』
「星」
『何?』
声が。
すでに。
楽しそう。
絶対。
昨日から。
ニヤニヤしてる。
「今度」
『うん』
「みんなに」
少し。
緊張する。
「ちゃんと」
「結婚のこと」
「話したい」
電話の向こう。
星が。
少し。
静かになった。
『……うん』
「いいかな」
『何で私に聞くの?』
「え?」
『ママが』
星が。
優しく言う。
『話したいんでしょ?』
「……うん」
『じゃあ』
『話したらいいじゃん』
胸が。
温かくなる。
「でも」
『また始まった』
「何が?」
『みんなが嫌だったらどうしよう』
『とか』
『思ってるでしょ』
「……」
図星。
『ママ』
「何?」
『結婚するの』
『やめたい?』
私は。
すぐに。
答えた。
「やめたくない」
『じゃあ』
少し。
笑う声。
『それを』
『ちゃんと言えばいいよ』
「……うん」
『私もいるから』
「ありがとう」
『ただし』
「何?」
星が。
急に。
声を弾ませる。
『指輪』
『みんなに見せるとき』
『私が選んだって』
『ちゃんと言ってね』
「そこ!?」
『大事!』
私は。
声を上げて。
笑った。
◇◇◇
数日後。
また。
子どもたちと。
会う日。
今回は。
陽向はいない。
私と。
五人の子どもたち。
そして。
前の夫。
レンタルスペースへ。
着いた瞬間。
一番小さい子が。
飛んでくる。
「ママ!」
「はい」
ぎゅっ。
と。
抱きつかれる。
もう。
美月。
ではなく。
自然に。
ママ。
それだけで。
今でも。
胸が。
いっぱいになる。
「今日ゲームする?」
「するけど」
「今日は」
「その前に」
「みんなに」
「話がある」
その瞬間。
少し上の子が。
眉を寄せる。
「怒られる?」
「違う」
「じゃあ何?」
「大事な話」
一番小さい子が。
私の顔を見て。
「ゲームより?」
「ゲームより」
「えー」
そこは。
納得して。
◇◇◇
みんなが。
座る。
私は。
その前。
少し。
緊張した。
星だけが。
内容を。
知っている。
前の夫も。
まだ。
知らない。
「……」
夫が。
私を見る。
「何?」
「いや」
「そんな改まって」
「どうしたんかと思って」
「うん」
私は。
膝の上で。
左手を。
握った。
仕事では。
指輪を。
外している。
今日も。
ここへ来るまでは。
外していた。
でも。
今。
ポケットの。
小さなケースに。
入っている。
「ママね」
子どもたちを見る。
「みんなに」
「聞いてほしいことがある」
静かになる。
「前に」
「陽向と」
「お付き合いしてるって」
「話したでしょ?」
何人かが。
頷く。
一番小さい子が。
「あ!」
と。
声を上げる。
「ゲームうまいひと!」
「そう」
基準。
そこなんだ。
「陽向が」
私は。
少し。
息を吸う。
「ママに」
「結婚してくださいって」
「言ってくれた」
「……」
しん。
と。
静まった。
そして。
「え?」
「結婚?」
「ママが?」
「陽向くんと?」
一気に。
声が。
重なる。
「うん」
私は。
頷く。
「それで」
胸に。
手を当てる。
「ママも」
「結婚したいって」
「答えた」
夫の顔が。
少しだけ。
変わった。
でも。
何も。
言わない。
子どもたちも。
それぞれ。
違う顔。
驚いている子。
星みたいに。
嬉しそうな子。
そして。
少し。
複雑そうな子。
私は。
急がない。
返事を。
待った。
◇◇◇
最初に。
口を開いたのは。
以前。
私に。
「嫌い」と。
言った子だった。
「……ママ」
「うん」
「結婚したら」
少し。
眉を寄せる。
「もう」
胸が。
きゅっとなる。
「僕らのママじゃ」
「なくなる?」
「……」
私は。
すぐに。
首を振った。
「ならない」
「ほんま?」
「うん」
その子の。
目を見る。
「結婚しても」
「ママは」
「みんなのママ」
「……」
「そこは」
「何も変わらない」
「でも」
別の子が。
聞く。
「陽向くんと」
「一緒に住むんやろ?」
「たぶん」
「じゃあ」
「僕らと」
「もっと会えんくなる?」
胸が。
痛い。
でも。
大丈夫と。
決めつけない。
「それは」
私は。
正直に答える。
「まだ」
「ちゃんと決めてない」
「……」
「どこに住むかも」
「いつ結婚するかも」
「仕事をどうするかも」
「まだ」
「陽向と」
「話してる途中」
「……」
「でも」
私は。
みんなを見る。
「みんなと」
「会える時間を」
「なくす結婚には」
「したくない」
「……」
「ママが」
「陽向と家族になるために」
「みんなとの家族を」
「やめることは」
「絶対ないよ」
その言葉。
自分で。
言いながら。
胸の中に。
すっと。
入ってきた。
そう。
私は。
何かを。
捨てるために。
結婚するんじゃない。
◇◇◇
すると。
一番小さい子が。
突然。
聞いた。
「けっこんしたら」
「うん?」
「ひなたが」
少し。
考える。
「パパになる?」
部屋の空気が。
止まった。
夫も。
私も。
星も。
一瞬。
固まる。
難しい。
でも。
答えは。
はっきりしている。
「ならないよ」
一番小さい子が。
首を傾げる。
「なんで?」
「だって」
私は。
夫を見る。
それから。
子どもを見る。
「あなたたちのパパは」
「パパだから」
夫の目が。
少し。
揺れた。
「陽向は」
私は。
少し考える。
「ママの」
「大切な人」
「……」
「結婚したら」
「ママの家族にはなる」
「うん」
「でも」
「パパの代わりには」
「ならない」
一番小さい子は。
少し。
考える。
「じゃあ」
「ひなたは」
「ひなた?」
思わず。
笑ってしまう。
「うん」
「陽向は陽向」
「そっか」
それだけで。
納得したらしい。
「じゃあいい」
軽い。
でも。
その単純さが。
ありがたかった。
◇◇◇
一方。
少し大きい子は。
まだ。
難しい顔をしていた。
「……嫌?」
私は。
聞いた。
その子は。
一瞬。
驚いた顔。
「嫌って」
「言ってもいい?」
「うん」
「ママが」
「結婚するの」
「嫌だったら」
「言っていい」
「……」
「でも」
私は。
続ける。
「嫌って言われたから」
「絶対やめるって」
「約束は」
「できない」
子どもの目が。
少し。
大きくなる。
昔の私なら。
きっと。
言えなかった。
でも。
大事なのは。
何でも。
子どもの希望通りに。
することじゃない。
気持ちを。
聞くこと。
そして。
私の気持ちも。
伝えること。
「ママは」
「陽向が好き」
「……」
「結婚したいって」
「思ってる」
「……」
「でも」
「あなたが」
「寂しいとか」
「嫌だとか」
「思うなら」
胸へ。
手を当てる。
「それも」
「ちゃんと知りたい」
その子は。
しばらく。
黙っていた。
そして。
「……嫌っていうか」
「うん」
「変」
「変?」
「ママが」
少し。
言いにくそうに。
夫を見る。
「パパじゃない人と」
「結婚するの」
「……」
私は。
頷いた。
「そうだよね」
「うん」
「だって」
「前は」
「パパとママやったやん」
「うん」
「なのに」
「今」
「ママだけ」
「違う顔で」
「陽向くんと」
「結婚するって」
「……」
「意味分からん」
「うん」
私は。
少し笑った。
「ママも」
「たまに」
「意味分からない」
一瞬。
その子が。
笑いそうになる。
「でも」
私は。
続ける。
「パパと」
「家族だったことは」
「なくならない」
「……」
「ママ」
「パパのこと」
「嫌いになったから」
「全部捨てて」
「陽向と結婚するわけじゃない」
夫が。
静かに。
私を見る。
「パパは」
「今でも」
「みんなの大切なパパ」
「うん」
「ママにとっても」
一度。
言葉を。
選ぶ。
「大切な」
「一度目の人生の」
「家族だった人」
「……」
「でも」
私は。
笑った。
「これから」
「恋人として」
「一緒に生きたいのは」
「陽向」
その子は。
黙って。
聞いていた。
そして。
小さく。
「そっか」
と。
言った。
それだけ。
でも。
十分だった。
◇◇◇
「で!」
突然。
星が。
声を上げた。
「ママ」
「何?」
「指輪」
「……」
来た。
「見せないの?」
みんなの。
視線。
一気に。
私の左手へ。
「今」
「してないやん」
「仕事あるから」
「持ってきてる?」
星。
絶対。
楽しんでる。
「……持ってきてる」
「見たい!」
一人が。
言う。
すると。
「ぼくも!」
「私も!」
だんだん。
声が増える。
私は。
少し。
恥ずかしくなりながら。
小さなケースを。
取り出した。
「これ」
開く。
リング。
一瞬。
子どもたちが。
静かになる。
「きれい」
誰かが。
呟く。
「これ」
星が。
自慢げに。
胸を張る。
「私も選んだ」
「やっぱり言うんだ」
「大事だから」
一番小さい子が。
指輪を。
じっと見る。
「ママ」
「何?」
「つけて」
「今?」
「うん」
私は。
少し迷って。
でも。
左手を。
差し出した。
自分で。
指輪を。
薬指へ。
通す。
すると。
一番小さい子が。
ぱっと。
笑った。
「おひめさまみたい!」
「……」
私。
三十四歳。
五児の母。
でも。
その言葉。
ちょっと。
嬉しい。
「ありがとう」
星が。
笑う。
「ママ」
「顔赤いよ」
「うるさい」
◇◇◇
しばらくして。
子どもたちは。
ゲームへ。
移った。
私は。
少し。
離れたところにいた。
夫の隣へ。
座る。
「……ごめん」
言いそうになって。
止める。
違う。
「聞いてくれて」
「ありがとう」
夫が。
少し。
笑う。
「また」
「謝るかと思った」
「私も」
「危なかった」
二人で。
小さく。
笑う。
でも。
そのあと。
少し。
沈黙。
「……どう思った?」
私は。
聞いた。
夫は。
ゲームをする。
子どもたちを見る。
「正直?」
「うん」
「ちょっと」
「……」
「寂しかった」
私は。
何も言わない。
「お前」
「死んだと思っとったし」
「うん」
「戻ってきたと思ったら」
「別の人好きで」
「うん」
「今度は」
「結婚するって」
「……」
「頭」
「追いつかん」
「うん」
夫が。
少し。
苦笑する。
「でも」
「前にも」
「言ったけど」
私を見る。
「俺が」
「止めることでも」
「ないんやろ」
「……うん」
「それに」
陽向が。
いない部屋。
でも。
前に。
会ったときのことを。
思い出しているのか。
夫が。
続ける。
「あの人」
「子どもらの父親に」
「なろうとしてなかった」
「うん」
「そこは」
「ありがたかった」
胸が。
少し。
温かくなる。
「陽向も」
「そこ」
「すごく気にしてた」
「そっか」
「うん」
夫は。
少し。
考えて。
言った。
「じゃあ」
「一個だけ」
「何?」
「結婚しても」
真面目な目。
「子どもらのことで」
「必要なことは」
「ちゃんと」
「話せるようにしといて」
「……うん」
「陽向に」
「遠慮して」
「こっちと」
「連絡取れんとか」
「それは」
「困る」
私は。
迷わず。
頷いた。
「それは」
「私も」
「絶対」
「嫌」
「うん」
「子どもたちのことは」
「これからも」
「一緒に考えたい」
夫が。
少し。
安心したように。
頷いた。
「なら」
少し。
間。
「おめでとう」
胸が。
止まった。
「……え?」
「何」
「いや」
「言ってくれると」
「思わなかった」
「失礼やな」
夫が。
苦笑する。
「俺も」
「複雑ではある」
「……うん」
「でも」
子どもたちを見る。
「お前」
「前より」
「笑っとるし」
胸が。
揺れる。
「……そっか」
「うん」
「なら」
夫が。
小さく笑う。
「ええんちゃう」
涙が。
少し。
滲んだ。
「ありがとう」
今度は。
ちゃんと。
言えた。
◇◇◇
帰宅後。
私は。
陽向へ。
電話をした。
『どうだった!?』
出た瞬間。
いきなり。
大声。
「早い」
『いや』
『今日だろ!?』
「うん」
『みんなに言った?』
「言った」
『反応は!?』
「尋問?」
『気になる!』
私は。
ソファに。
座る。
「驚いてた」
『うん』
「ちょっと」
「複雑そうな子も」
「いた」
電話の向こう。
陽向が。
少し。
静かになる。
『そっか』
「でも」
「ちゃんと」
「話せたよ」
『うん』
「結婚しても」
「ママは」
「ママのままって」
『うん』
「陽向は」
「パパの代わりには」
「ならないって」
『……うん』
陽向の声が。
優しくなる。
『それでいい』
「あと」
私は。
少し。
笑う。
「一番下」
『何?』
「陽向のこと」
「陽向は陽向でいいって」
『……』
「ゲームする人だし」
『またそこ!?』
思わず。
笑う。
「でも」
「認めてもらってるじゃん」
『ゲーム友達としてね!』
「十分」
◇◇◇
「それと」
私は。
少し。
緊張した。
『何?』
「前の夫にも」
『……うん』
「ちゃんと」
「話した」
電話の向こう。
少し。
間。
『どうだった?』
「複雑って」
『うん』
「でも」
私は。
小さく笑う。
「おめでとうって」
「言ってくれた」
陽向が。
黙った。
「陽向?」
『……そっか』
「うん」
『よかった』
本当に。
そう思っている声。
「嫉妬しない?」
『する』
即答。
「するんだ」
『するよ』
少し。
拗ねた声。
『でも』
「うん」
『俺』
『旦那さんに勝ちたいから』
『美月と結婚するわけじゃないし』
胸が。
きゅっと。
鳴った。
『美月と』
『これから生きたいから』
『結婚したい』
「……うん」
『だから』
少し。
笑う。
『おめでとうって』
『言ってもらえたなら』
『俺も嬉しい』
涙が。
少し。
滲む。
「陽向」
『何?』
「やっぱり」
「陽向でよかった」
電話の向こう。
完全に。
静かになる。
「……陽向?」
『今』
「何?」
『録音したかった』
「やめて」
『もう一回』
「言わない」
『美月!』
笑った。
◇◇◇
その夜。
私は。
左手の指輪を。
外して。
ケースへ。
戻す。
明日は。
撮影。
まだ。
外では。
つけられない。
でも。
不思議と。
寂しくはなかった。
指輪を。
外したら。
婚約が。
消えるわけじゃない。
陽向を。
好きじゃなくなるわけでも。
ない。
子どもたちと。
話せた。
夫だった人とも。
話せた。
誰にも。
何かを。
奪われず。
私も。
何かを。
捨てず。
未来へ。
進める。
「……よし」
私は。
ベッドへ。
入る。
でも。
その頃。
陽向の事務所では。
また。
一つ。
新しい問題が。
持ち上がっていた。
「結婚……?」
陽向の。
マネージャーが。
資料を置く。
「本気で」
「考えてるのか?」
陽向は。
一瞬。
黙った。
そして。
「考えてるんじゃなくて」
真っ直ぐ。
答えた。
「もう」
「プロポーズしました」
「……は?」
「受けてもらいました」
「……」
マネージャーが。
完全に。
固まる。
「ちょっと待て」
「はい」
「この前」
「熱愛報道が出たばっかりだぞ?」
「分かってます」
「お前」
「今」
「トップアイドルだぞ?」
「知ってます」
「じゃあ」
「分かるよな?」
陽向は。
黙って。
相手を見る。
「結婚すれば」
「祝福だけじゃ済まない」
「人気」
「グループ」
「スポンサー」
「ファン」
「全部」
「影響が出る」
「……はい」
「それでも」
「するのか?」
長い。
沈黙。
でも。
陽向の答えは。
変わらなかった。
「します」
「……」
「ただ」
陽向は。
続けた。
「勝手には」
「しません」
「……」
「美月の仕事も」
「俺の仕事も」
「ファンも」
「グループも」
「ちゃんと」
「向き合います」
「……」
「だから」
真っ直ぐ。
言う。
「どうしたら」
「結婚しても」
「全部を」
「できるだけ」
「大事にできるか」
「一緒に」
「考えてください」
マネージャーは。
しばらく。
何も言わなかった。
そして。
深く。
ため息をつく。
「……お前」
「変わったな」
「え?」
「前なら」
「結婚します!」
「以上!」
「みたいに」
「突っ走ってた」
「俺そんなに?」
「そんなに」
陽向は。
少し。
苦笑した。
「美月に」
「教えてもらったんで」
「何を?」
「一人で」
「決めないこと」
マネージャーが。
ゆっくり。
椅子へ。
座る。
「……分かった」
「え?」
「まず」
資料を。
引き寄せる。
「何が問題になるか」
「全部洗い出すぞ」
陽向の。
顔が。
ぱっと。
明るくなる。
「はい!」
「ただし」
「?」
「明日」
「ASTER全員に」
「お前から話せ」
陽向の。
笑顔が。
止まった。
「……全員?」
「当たり前だ」
「結婚は」
「お前一人の仕事じゃない」
「……」
陽向が。
ごくりと。
唾を飲む。
五人の子どもたちに。
会ったとき。
それ以上の。
緊張。
「……マジか」
そして。
私は。
まだ知らなかった。
次に。
陽向が。
結婚を認めてもらわなければならない相手が。
家族でも。
事務所でもなく。
ずっと。
一緒に。
夢を追ってきた。
ASTERの。
四人になることを。



