目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

陽向が。

ひそかに。

プロポーズについて。

考え始めていることなんて。

私は。

もちろん。

知らなかった。

だから。

その日。

事務所に呼ばれて。

告げられた言葉に。

頭が。

いっぱいになっていた。

「主演……ですか?」

「はい」

担当者が。

笑う。

「連続ドラマの」

「主演オファーです」

「……」

私は。

手元の資料を見る。

一ノ瀬紗良。

主演。

その文字。

事故のあと。

仕事に戻って。

少しずつ。

現場にも。

慣れてきた。

以前より。

演技が。

変わったと。

言われることも。

増えた。

でも。

主演。

作品の。

真ん中に立つ。

その責任。

「私に……」

言いかけて。

止まる。

――私にできるかな。

以前なら。

きっと。

そう言った。

でも。

今は。

少しだけ。

違う。

「やりたいです」

担当者が。

一瞬。

目を丸くした。

私自身も。

少し驚いた。

でも。

もう一度。

言う。

「やりたいです」

「……即答ですね」

「はい」

私は。

資料を見る。

今回の役は。

家庭を持ちながら。

ずっと。

自分の夢を。

諦めてきた女性。

ある出来事をきっかけに。

もう一度。

自分の人生を。

選び直していく。

そんな。

物語。

あまりにも。

今の私に。

近い。

「この役」

「うん?」

「演じたいです」

胸が。

熱くなる。

「すごく」

◇◇◇

夜。

陽向に。

伝えると。

予想通り。

「主演!?」

声が。

大きい。

「そう」

「マジ!?」

「うん」

「すごいじゃん!」

勢いよく。

両肩を。

掴まれる。

「美月!」

「近い近い」

「おめでとう!」

「ありがとう」

「やったな!」

自分のことみたいに。

喜ぶ。

その顔を見て。

胸が。

温かくなる。

「まだ」

「正式に」

「全部決まったわけじゃないけど」

「でも」

「やりたいんだろ?」

「うん」

「じゃあ」

陽向が。

笑う。

「やろ」

「簡単に言うね」

「だって」

「美月がやりたいって」

「言ったんでしょ?」

「……」

その言い方。

嬉しい。

私が。

やりたい。

それを。

理由にしていい。

「ねえ」

「ん?」

「前の私だったら」

「うん」

「主演なんて」

少し笑う。

「子どもたちに」

「迷惑かかるかなとか」

「忙しくなったら」

「会えなくなるかなとか」

「考えて」

「断ってたかもしれない」

陽向が。

少し。

真面目な顔になる。

「今は?」

「考えたよ」

「うん」

「でも」

私は。

胸に手を置く。

「それでも」

「やりたいって」

「思った」

陽向が。

ゆっくり。

笑った。

「それでいいじゃん」

「うん」

「子どもたちに会う方法は」

「あとで考えればいい」

「うん」

「仕事も」

「母親も」

「恋愛も」

指を。

三本立てる。

「全部やろ」

私は。

吹き出した。

「欲張りじゃない?」

「いいじゃん」

陽向が。

笑う。

「二回目の人生なんだから」

一瞬。

胸が。

止まる。

でも。

嫌じゃない。

「そっか」

私は。

笑った。

「欲張っていいのか」

「むしろ」

「今まで」

「我慢しすぎ」

そう言われて。

少し。

泣きそうになった。

◇◇◇

その週末。

子どもたちと。

会う日。

今度は。

全員ではなく。

来られる子だけ。

星と。

何人か。

そして。

一番小さい子。

私の顔を見るなり。

「ママ!」

と。

走ってくる。

「はいはい」

私は。

しゃがんで。

受け止める。

「ゲーム持ってきた!」

「今日は」

「ずっとゲームしないよ」

「なんで!」

「外も行くから」

「やだ!」

「やだじゃない」

星が。

横で。

笑う。

「ママ」

「何?」

「もう完全に」

「普通のママに戻ってる」

「戻ったんじゃないよ」

私は。

少し。

笑う。

「今のママ」

「……そっか」

星も。

笑った。

◇◇◇

みんなで。

お昼を食べていると。

星が。

聞いた。

「ママ」

「何?」

「仕事」

「忙しくなるの?」

「え?」

「この前」

「事務所で」

「大きい話あるって」

「言ってたじゃん」

「ああ」

私は。

少し。

迷った。

まだ。

正式発表前。

でも。

家族には。

言ってもいい。

「ドラマの」

「主演の話が来てる」

「え!?」

星の声が。

ひっくり返る。

「主演!?」

「まだ」

「最終決定前だけどね」

「すご!」

他の子も。

「テレビ出るん?」

「毎週?」

「ママが?」

一気に。

質問。

私は。

笑う。

「そうなるかも」

すると。

一人が。

少し。

不安そうに。

聞いた。

「忙しくなったら」

「会えん?」

胸が。

きゅっと。

なる。

前なら。

この一言で。

仕事を。

やめようとしたかもしれない。

でも。

今は。

違う。

私は。

その子を見る。

「会う回数が」

「少なくなる週は」

「あるかもしれない」

「……」

「でも」

「会えなくなるわけじゃない」

「ほんま?」

「うん」

「ママ」

私は。

笑った。

「仕事もしたい」

「……」

「でも」

「みんなにも」

「会いたい」

「……」

「だから」

「どうしたら」

「両方できるか」

「一緒に考える」

星が。

少し。

嬉しそうに。

私を見る。

「ママ」

「何?」

「前なら」

「仕事やめるって」

「言いそう」

「……」

図星。

「言うかも」

「でしょ」

星が。

笑う。

「でも」

「今のママ」

「いいと思う」

「……」

「仕事してるママも」

「かっこいいし」

胸が。

じんわり。

熱くなる。

「ありがとう」

すると。

一番小さい子が。

口いっぱいに。

ご飯を入れながら。

「ママ」

「飲み込んでから喋る」

ごくん。

「テレビでたら」

「ぼく見る」

「ほんと?」

「ゲームしながら」

「ちゃんと見て!」

「えー」

みんなが。

笑った。

◇◇◇

帰り。

星が。

少しだけ。

私を。

呼び止めた。

「ママ」

「何?」

「一個」

「聞いていい?」

「うん」

「陽向くんと」

その名前が。

出た瞬間。

少し。

顔が熱くなる。

「どうしたの?」

「結婚とか」

「……」

固まった。

「何で!?」

星が。

目を丸くする。

「そんな驚く?」

「驚くよ!」

「だって」

星が。

少し。

にやっとする。

「付き合ってるんでしょ?」

「うん」

「ずっと一緒にいたいんでしょ?」

「……」

「じゃあ」

「考えないの?」

私は。

言葉に詰まった。

数日前。

陽向と。

話した。

もし。

結婚するとしたら。

戸籍では。

一ノ瀬紗良。

でも。

プロポーズされるなら。

高瀬美月として。

してほしい。

あれは。

ただの。

仮定。

そのはず。

「……まだ」

私は。

少し。

笑う。

「分かんない」

「ふーん」

星が。

私を見る。

「したい?」

「え?」

「ママは」

「陽向くんと」

「結婚したい?」

真っ直ぐ。

聞かれる。

私は。

少し。

考える。

結婚。

一度目の人生で。

経験した。

嬉しかったことも。

苦しかったことも。

あった。

家族になれば。

全部。

うまくいくわけじゃない。

結婚したから。

安心できるわけでも。

幸せになれるわけでも。

ない。

それを。

私は。

知っている。

でも。

陽向とは。

「……したいかも」

言ってから。

自分で。

驚いた。

星が。

ぱっと笑う。

「そっか」

「でも!」

「うん」

「今すぐじゃないよ!」

「分かってるって」

「仕事もあるし」

「うん」

「子どもたちのことも」

「うん」

「まだ」

「いろいろ」

星が。

少し。

呆れた顔。

「ママ」

「何?」

「また」

「条件いっぱい並べてる」

「……」

「結婚したいか」

「聞いただけ」

言葉が。

止まる。

「……したい」

今度は。

もう少し。

はっきり。

言えた。

星が。

嬉しそうに笑う。

「じゃあ」

「それでいいじゃん」

胸が。

温かくなった。

◇◇◇

その夜。

陽向から。

電話。

『今日どうだった?』

「楽しかったよ」

『子どもたち?』

「うん」

「主演の話も」

「した」

『え』

少し。

緊張した声。

『どうだった?』

「応援してくれた」

『マジ?』

「うん」

「忙しくなったら」

「会えなくなるのって」

「心配してた子もいたけど」

『うん』

「ちゃんと」

「両方やりたいって」

「言った」

電話の向こう。

少し。

沈黙。

『美月』

「何?」

『かっこいい』

「……」

急に。

「何それ」

『いや』

『マジで』

「やめて」

『照れてる?』

「照れてない」

『絶対照れてる』

「切るよ」

『ごめん!』

笑う。

そして。

少しして。

陽向が。

聞いた。

『ほかに』

『何か話した?』

心臓が。

跳ねた。

星との。

会話。

結婚。

したいかも。

言う?

いや。

無理。

「……別に」

『怪しい』

「何が?」

『今の間』

「何でもない」

『美月』

「何」

『俺に』

『隠し事?』

「隠し事じゃない!」

『じゃあ何?』

「言わない!」

『気になる!』

私は。

顔を。

手で覆った。

絶対。

言えない。

今。

『陽向と結婚したいかも』

なんて。

言ったら。

この人。

どうなるか。

想像できる。

「また今度」

『えー!』

「おやすみ」

『待って!』

「おやすみ、陽向」

『美月!』

私は。

笑いながら。

電話を切った。

◇◇◇

同じころ。

陽向は。

スマートフォンを。

見つめていた。

「……絶対」

「何かある」

でも。

それ以上に。

気になっていることが。

あった。

プロポーズ。

どうするか。

指輪。

場所。

タイミング。

でも。

考えれば。

考えるほど。

一つ。

引っかかる。

美月には。

五人の子どもがいる。

自分だけで。

決めて。

自分だけで。

連れていくような。

プロポーズには。

したくない。

結婚しても。

美月は。

子どもたちの母親。

それは。

絶対。

変わらない。

だったら。

「……」

陽向は。

考えた。

そして。

スマートフォンを。

開く。

連絡先。

星。

以前。

美月を通して。

交換していた。

一度。

指が。

止まる。

「……いや」

「緊張する」

トップアイドルが。

娘に。

母親への。

プロポーズ相談。

どう考えても。

おかしい。

でも。

美月が。

ずっと。

言ってきた。

一人で。

決めない。

正解より。

一緒に。

考える。

陽向は。

大きく。

息を吸った。

そして。

星へ。

メッセージを。

送った。

『星ちゃん、ちょっと相談していい?』

数分後。

返信。

『いいですよ』

さらに。

『ママのこと?』

「……鋭」

陽向は。

苦笑した。

そして。

ゆっくり。

打つ。

『うん』

一度。

消す。

また。

打つ。

『俺、美月に』

そこで。

手が。

止まる。

心臓。

速い。

そして。

意を決して。

続きを。

送った。

『いつか、プロポーズしたいと思ってる』

送信。

「……送った」

陽向は。

両手で。

顔を覆った。

数秒。

返信。

『やっぱり』

「……」

陽向。

固まる。

『やっぱりって何!?』

すぐ。

打つ。

返事。

『だって分かりやすいです(笑)』

「美月の娘!」

陽向は。

頭を抱えた。

でも。

次に届いた。

メッセージで。

表情が。

変わった。

『私、応援します』

そして。

もう一通。

『でも一個だけ、お願いがあります』

陽向の指が。

止まる。

『何?』

少しして。

届く。

『ママに』

『「家族か、陽向くんか」を選ばせるような結婚にはしないでください』

陽向は。

じっと。

その文字を。

見た。

星は。

続ける。

『ママ、昔から』

『誰かを幸せにするために』

『自分が我慢する癖があるから』

『結婚したら、また自分のこと後回しにするのだけは嫌です』

胸に。

強く。

響いた。

陽向は。

ゆっくり。

返信した。

『しない』

迷いは。

なかった。

『美月に何か捨ててもらって』

『俺を選んでもらいたいわけじゃない』

さらに。

『俺と一緒にいることで』

『美月が今より幸せになれるようにしたい』

しばらく。

返信は。

来なかった。

そして。

『じゃあ』

『陽向くんでいいと思います』

陽向が。

目を丸くする。

「……何その」

「娘の許可みたいな」

でも。

口元は。

笑っていた。

次の一文。

『ママのこと、お願いします』

陽向は。

以前。

星から。

同じ言葉を。

言われたことを。

思い出す。

今度は。

もっと。

重い。

もっと。

未来に。

繋がる言葉。

『うん』

陽向は。

送った。

『大事にする』

そして。

少し考える。

『でも』

『星ちゃんたちと』

『美月の関係も』

『今のまま大事にしたい』

すぐ。

返信。

『それなら合格です』

「また審査!」

陽向は。

笑った。

◇◇◇

私は。

そんなやり取りが。

行われていることも。

知らず。

翌朝。

主演ドラマの。

正式決定の。

連絡を受けていた。

『一ノ瀬紗良さん主演で正式決定しました』

その名前。

一ノ瀬紗良。

私は。

一瞬だけ。

目を閉じる。

そして。

鏡を見る。

「……美月」

小さく。

自分の名前を。

呼ぶ。

一ノ瀬紗良として。

仕事をする。

高瀬美月として。

生きる。

どちらも。

今の私。

「よし」

私は。

笑った。

仕事も。

子どもたちも。

陽向も。

何かを。

選んだから。

何かを。

捨てる人生じゃない。

私は。

全部。

大切にしたい。

全部。

抱えて。

進みたい。

それを。

欲張りだと。

言われてもいい。

だって。

一度目の人生で。

私は。

自分の幸せを。

後回しにしすぎた。

だから。

二度目くらい。

いいでしょう?

母親として。

女優として。

一人の女性として。

そして。

大好きな人の。

恋人として。

私は。

幸せになる。

その準備を。

ようやく。

始められた気がした。

そして。

そのころ。

私の知らないところでは。

陽向と。

私の娘が。

ひそかに。

人生最大の。

計画を。

始めようとしていた。