あの日。
五人の子どもたち。
前の夫。
陽向。
そして。
今の私。
全員で撮った。
一枚の写真。
私は。
何度も。
見返していた。
普通なら。
ありえない。
家族写真。
亡くなったはずの母親は。
人気女優の姿をしていて。
その隣には。
トップアイドルの彼氏。
少し離れて。
前の夫。
そして。
五人の子どもたち。
「……改めて見ると」
私は。
スマートフォンを眺めながら。
呟く。
「すごい写真だな」
「でしょ?」
隣にいた。
陽向が。
笑った。
「俺も」
「何回見ても」
「情報量多いと思う」
「陽向が入ったせいでね」
「俺!?」
「だって」
私は。
写真を拡大する。
「ここだけ」
陽向を指差す。
「急に芸能界」
「美月も芸能界だから!」
「あ」
「忘れんな!」
二人で。
笑う。
陽向が。
私のスマートフォンを。
覗き込む。
「でも」
「うん?」
「俺」
「この写真」
「好き」
「……私も」
「なんかさ」
陽向が。
写真を見つめる。
「美月の全部が」
「一枚に入ってる感じ」
「……」
その言葉に。
胸が。
温かくなった。
「子どもたち」
「うん」
「旦那さん」
「元ね」
「今はね」
「紗良の顔の美月」
「うん」
「で」
陽向が。
自分を指差す。
「俺」
「……うん」
「なんか」
少し。
照れたように。
笑う。
「そこに俺がいるの」
「めっちゃ嬉しい」
胸が。
きゅっと。
鳴った。
「陽向」
「何?」
「そういうこと」
「さらっと言うの」
「ずるい」
「何で?」
「知らない」
私は。
スマートフォンを。
伏せた。
顔が。
熱い。
そのとき。
陽向のスマートフォンが。
鳴った。
「ん?」
画面を見る。
一瞬。
陽向の表情が。
変わった。
「どうしたの?」
「……マネージャー」
「出れば?」
「うん」
陽向が。
電話に出る。
「もしもし?」
いつもの。
軽い声。
でも。
数秒後。
その笑顔が。
完全に消えた。
「……え?」
私は。
思わず。
陽向を見る。
「いつ?」
『……』
「写真?」
胸が。
ざわついた。
「誰と誰が?」
『……』
陽向が。
私を見る。
その顔で。
分かった。
嫌な話。
「分かった」
低い声。
「すぐ行く」
電話が。
切れる。
「陽向」
「……美月」
「何?」
一度。
息を吸う。
「撮られた」
血の気が。
引いた。
「……何を?」
「この前」
「みんなで会った日」
「……」
「俺と」
「美月」
一瞬。
止まる。
「レンタルスペースに」
「入るところと」
「出るところ」
心臓が。
大きく。
鳴った。
◇◇◇
「子どもたちは?」
真っ先に。
出た。
「写真に写ってる?」
「そこは」
陽向が。
すぐに答える。
「今のところ」
「顔が分かる形では」
「撮られてないらしい」
力が。
少し抜ける。
でも。
まだ。
怖い。
「夫は?」
「別の時間に」
「出入りしてるところが」
「あるかもしれないって」
「……」
頭が。
一気に。
回り始める。
一ノ瀬紗良。
天城陽向。
同じ場所へ。
時間をずらして。
入っている。
それだけなら。
仕事?
友人?
そう。
言えるかもしれない。
でも。
もし。
星まで。
写っていたら。
モデルとして。
少しずつ。
顔が知られ始めている。
そこから。
繋がったら?
高瀬美月の。
家族まで。
辿られたら?
「……どうしよう」
声が。
震えた。
陽向が。
すぐに。
私の前へ来る。
「美月」
「子どもたち」
「うん」
「巻き込みたくない」
「うん」
「絶対」
「うん」
「私のせいで」
そこまで。
言ったところで。
陽向が。
私の肩を掴んだ。
「違う」
「……」
「俺たちの問題」
「でも」
「俺も行った」
「……」
「美月だけのせいにすんな」
その言葉。
何度。
救われただろう。
でも。
今度は。
簡単に。
安心できない。
だって。
陽向は。
トップアイドル。
ASTER。
恋愛報道なんて。
私より。
ずっと。
影響が大きい。
「陽向」
「ん?」
「もし」
嫌な考えが。
浮かぶ。
「私と」
喉が。
詰まる。
「別れたことにしたほうが」
陽向の顔が。
一瞬で。
変わった。
「それ」
低い声。
「本気?」
「……」
「美月」
「だって!」
私は。
思わず。
声を上げた。
「陽向の仕事に」
「迷惑かけたくない!」
「……」
「ASTERにも」
「ファンにも」
「事務所にも」
「……」
「私と付き合ってるせいで」
「何かあったら」
「またそれ?」
「え?」
陽向が。
眉を寄せる。
「美月」
「前にも」
「言ったよな」
「……」
「迷惑かどうか」
「一人で決めんなって」
胸が。
刺される。
「でも」
「守るために別れる?」
「……」
「誰が」
陽向が。
まっすぐ。
私を見る。
「それ望んでる?」
何も。
言えない。
「俺?」
「……違う」
「美月?」
「……」
「別れたい?」
すぐに。
首を振った。
「嫌」
「じゃあ」
「……」
「何で」
陽向の声も。
少し。
震えていた。
「俺のためって言って」
「俺が一番嫌なこと」
「選ぼうとすんの」
「……」
その言葉に。
涙が。
溢れそうになる。
そうだった。
私は。
また。
やろうとしていた。
相手のため。
子どものため。
陽向のため。
そう言って。
自分だけで。
答えを。
決めようとしていた。
「……ごめん」
陽向が。
少し。
息を吐く。
「謝ってほしいんじゃない」
「うん」
「美月」
「うん」
「どうしたい?」
私は。
泣きそうな顔で。
陽向を見る。
怖い。
仕事も。
子どもたちも。
陽向も。
傷つけたくない。
でも。
本当の気持ちは。
「……別れたくない」
「うん」
「陽向と」
「一緒にいたい」
「うん」
「でも」
「子どもたちは」
「絶対守りたい」
「俺も」
迷いなく。
返ってきた。
「じゃあ」
陽向が。
私の手を握る。
「その二つを」
「両方守る方法」
「一緒に考えよう」
涙が。
一滴。
落ちた。
「……うん」
「正解」
少し。
笑う。
「一人で決めなくていいから」
私は。
その手を。
強く。
握り返した。
◇◇◇
その日の夜。
陽向の事務所。
会議室。
私の事務所の担当者も。
オンラインで。
繋がった。
出された写真は。
数枚。
帽子。
マスク。
それでも。
陽向だと。
分かる。
別の時間帯。
同じ建物へ。
入る私。
さらに。
数時間後。
先に出る陽向。
少し遅れて。
私。
「……」
週刊誌側は。
『天城陽向 一ノ瀬紗良と極秘交際か』
そういう。
記事を。
準備しているらしい。
「まだ」
陽向のマネージャーが。
言う。
「決定的なツーショットはない」
「はい」
「手を繋いだ写真も」
「抱き合った写真も」
「ない」
少し。
安心する。
「ただ」
資料が。
一枚。
変わる。
「問題は」
「同じ日」
「何人かの一般人も」
「この建物に出入りしていることです」
息が。
止まった。
子どもたち。
そして。
前の夫。
顔には。
ぼかしが入っている。
でも。
私は。
一瞬で。
分かった。
「……」
手が。
冷たくなる。
陽向が。
隣で。
私の手に。
触れた。
「現時点では」
担当者が。
続ける。
「一般人との関係までは」
「掴まれていないと思います」
「でも」
私は。
聞く。
「調べられたら?」
「可能性はあります」
胸が。
苦しくなる。
星は。
モデル活動を。
始めている。
そこから。
家族へ。
繋がる可能性。
ゼロではない。
「どうすれば」
私は。
思わず。
言った。
「子どもたちだけは」
「絶対」
「出したくないです」
「そこは」
陽向が。
すぐに。
口を開いた。
「俺も同じです」
マネージャーを見る。
「交際がどうとかより」
「一般人の子たちの」
「身元が出るのは」
「絶対避けたい」
「分かっています」
担当者が。
頷く。
「まず」
「記事には」
「一般人の詳細を載せないよう」
「強く申し入れます」
「お願いします」
「それと」
一度。
間。
「交際について」
部屋の空気が。
変わる。
「否定するか」
「ノーコメントにするか」
「事実を認めるか」
三つ。
選択肢。
私は。
陽向を見る。
陽向も。
私を見る。
認める?
トップアイドルが。
交際を。
公表する?
「現実的には」
マネージャーが。
言う。
「今すぐ」
「交際を認める必要はないと」
「考えています」
陽向が。
少し。
眉を寄せる。
「嘘は?」
「明確な否定は」
「後々」
「状況によっては」
「リスクになります」
私は。
静かに。
聞いた。
「じゃあ」
「ノーコメント?」
「それが」
「現状では」
「一番自然でしょう」
陽向は。
しばらく。
黙っていた。
そして。
「美月は?」
また。
私に。
聞いた。
「え?」
「どうしたい?」
こんな場で。
私に。
聞くんだ。
事務所もいる。
仕事もある。
ファンもいる。
それでも。
陽向は。
私を。
決定から。
外さない。
私は。
ゆっくり。
考えた。
「……嘘は」
「つきたくない」
「うん」
「でも」
「子どもたちを」
「守れる準備ができるまでは」
「自分から」
「公表したくない」
陽向が。
頷いた。
「俺も」
「……」
「じゃあ」
マネージャーを見る。
「今回は」
「プライベートについては」
「本人に任せています」
「それ以上は」
「答えない」
「という形で」
担当者が。
頷いた。
「それが良いと思います」
私は。
大きく。
息を吐いた。
◇◇◇
帰りの車。
二人とも。
しばらく。
黙っていた。
「……陽向」
「ん?」
「ファンの人」
「うん」
「傷つくかな」
陽向は。
すぐには。
答えなかった。
「傷つく人は」
「いると思う」
胸が。
少し。
痛む。
「そっか」
「うん」
「俺のこと」
「恋愛対象みたいに」
「応援してくれてる人も」
「いるし」
「……」
「そうじゃなくても」
「急に現実見せられた感じで」
「ショックな人」
「いると思う」
私は。
窓の外を見る。
「やっぱり」
「美月」
すぐに。
止められる。
「それで」
「俺が」
「恋愛しちゃいけないかって話とは」
「別」
「……」
「ファンが大事なのも」
「本当」
「美月が大事なのも」
「本当」
「……」
「どっちか」
「嘘にしなくていいだろ」
胸の奥。
じわっと。
温かくなる。
「それに」
陽向が。
少し笑う。
「俺」
「美月と付き合うとき」
「人気落ちる可能性」
「ゼロだと思ってたわけじゃないよ」
「え?」
私は。
思わず。
陽向を見る。
「考えてたの?」
「そりゃ」
「……」
「トップアイドルなんだから」
少し。
肩をすくめる。
「一応」
「それくらい」
「考える」
「……」
「それでも」
信号が。
赤になる。
陽向が。
私を見る。
「付き合いたいって」
「決めた」
胸が。
鳴った。
「だから」
「今さら」
「撮られたから」
「やっぱなし」
「にはならない」
「……うん」
「美月は?」
聞かれる。
私は。
少し。
笑った。
「ならない」
「よし」
信号が。
青になる。
車が。
進み出す。
◇◇◇
翌朝。
記事が。
出た。
スマートフォン。
テレビ。
SNS。
『ASTER天城陽向&人気女優・一ノ瀬紗良 極秘交際か』
画面いっぱい。
見出し。
私は。
怖くて。
SNSを。
開けなかった。
でも。
仕事へ。
行かないわけには。
いかない。
楽屋。
スマートフォンが。
何度も。
震える。
星。
夫。
陽向。
事務所。
「……」
まず。
星。
『ママ、大丈夫?』
私は。
少し笑った。
『怖いけど大丈夫じゃないって言っとく』
すぐ。
『成長したね(笑)』
「もう」
でも。
少し。
気が楽になる。
夫からは。
『子どもらのことはこっちで気をつける』
そして。
『そっちは仕事ちゃんとせえ』
思わず。
笑った。
昔なら。
その言い方に。
少し。
腹が立ったかもしれない。
今は。
分かる。
この人なりの。
心配。
『ありがとう』
返す。
そして。
陽向。
『SNS見てる?』
『見てない』
『見なくていい』
続けて。
『俺も仕事行ってくる』
『うん』
少しして。
もう一通。
『好きだから』
「……」
急に?
思わず。
画面を見る。
『何で今?』
『こういう時こそ言っとこうと思って』
私は。
笑った。
涙が。
少し。
出た。
『私も好き』
送信。
すると。
すぐ。
『よし!今日も頑張れる!』
「単純」
でも。
私も。
同じだった。
◇◇◇
撮影は。
普通に。
進んだ。
でも。
休憩になると。
スタッフの。
視線が。
少し。
気になる。
誰も。
直接は。
聞かない。
それが。
逆に。
苦しい。
すると。
共演していた。
神崎悠人が。
私の隣へ。
缶コーヒーを。
置いた。
「はい」
「え?」
「ブラック」
「……ありがとう」
「今日」
少し。
笑う。
「甘いのじゃないほうが」
「いい顔してるから」
「……」
私も。
少し笑った。
以前の。
紗良なら。
甘いコーヒー。
今の私は。
ブラック。
「ニュース」
神崎が。
言う。
身体が。
少し。
固まる。
でも。
彼は。
続けた。
「何も聞かない」
「……え?」
「聞かれたくないでしょ」
「……うん」
「じゃあ」
缶を。
指差す。
「それだけ」
胸が。
少し。
軽くなる。
「ありがとう」
「ただ」
少し。
意地悪そうに。
笑う。
「天城さん」
「今日」
「めちゃくちゃ機嫌悪そうだろうな」
「何で?」
「俺が紗良さんに」
「コーヒー渡したから」
「……」
思わず。
吹き出した。
「そこ?」
「絶対そこ」
「そんなに」
「嫉妬深くないよ」
スマートフォンが。
震える。
陽向。
『神崎と今日一緒?』
「……」
私は。
画面を見た。
神崎も。
ちらっと。
見る。
「ほら」
「……」
悔しい。
「何で分かるの」
「顔」
私は。
思わず。
笑ってしまった。
◇◇◇
夜。
陽向が。
来た。
玄関を。
開けるなり。
「美月!」
「声大きい」
「今日!」
「何?」
「一日!」
靴を。
脱ぎながら。
「長かった!」
「お疲れ」
リビングへ。
入った瞬間。
陽向が。
私を。
ぎゅっと。
抱きしめる。
「……」
「会いたかった」
胸が。
温かくなる。
私も。
背中に。
腕を回す。
「私も」
少し。
そのまま。
抱きしめ合う。
やがて。
陽向が。
言った。
「大丈夫だった?」
私は。
少し。
考える。
「怖かった」
「うん」
「仕事中も」
「見られてる気がした」
「うん」
「ファンの人のことも」
「ちょっと」
「考えた」
「うん」
「でも」
私は。
陽向から。
少し離れる。
「別れたいとは」
「一回も」
「思わなかった」
陽向の。
表情が。
ふっと。
緩む。
「よかった」
「朝は」
「別れたほうがいいかもって」
「言いかけたけど」
「そこは」
「忘れないから」
「ごめん」
「だから」
「謝るなって」
二人で。
少し。
笑った。
◇◇◇
そのとき。
陽向が。
スマートフォンを。
取り出した。
「美月」
「何?」
「これ」
画面。
あの日の。
写真。
五人の子ども。
前の夫。
私。
陽向。
「……」
「今日」
陽向が。
少し。
照れたように。
言う。
「ずっと」
「見てた」
「どうして?」
「仕事の合間」
「しんどくなったとき」
「……」
「これ見たら」
「何のために」
「ちゃんと向き合いたいのか」
「分かった」
胸が。
大きく鳴る。
「何のため?」
「美月と」
陽向が。
写真を見る。
「これからも」
「一緒にいたいから」
「……」
「美月が」
「大事にしてる人たちとも」
「ちゃんと」
「関係作って」
「……」
「いつか」
言葉が。
止まる。
「陽向?」
「いや」
「何?」
「今は」
笑って。
「まだ言わない」
「何それ」
「まだ」
「俺の中で」
「ちゃんと」
「形にしてから言う」
「……」
気になる。
でも。
陽向の顔が。
少しだけ。
いつもと違う。
ふざけていない。
未来を。
考えている顔。
「美月」
「うん」
「今日」
「撮られて」
「正直」
「めちゃくちゃムカついたし」
「怖かったけど」
「うん」
「一個だけ」
「はっきりした」
「何?」
陽向が。
私の手を取る。
「隠れて付き合ってるからって」
「俺たちの関係が」
「後ろめたいものに」
「なるわけじゃない」
「……」
「今は」
「仕事とか」
「子どもたちの安全とか」
「守るために」
「言わないことはある」
「うん」
「でも」
「美月を好きなことまで」
「隠す必要は」
「俺の中にはない」
涙が。
少し。
滲んだ。
「……うん」
「だから」
少し。
笑う。
「いつか」
「うん」
「ちゃんと」
「美月とのこと」
「堂々と」
「大事にできるようにしたい」
私は。
陽向の手を。
握り返した。
「私も」
◇◇◇
数日後。
熱愛報道は。
まだ。
完全には。
収まっていなかった。
でも。
決定的な写真がないこともあり。
事務所は。
それ以上。
コメントしなかった。
そんな中。
ASTERの仕事終わり。
メンバーの一人が。
陽向のスマートフォンを。
ちらっと見て。
言ったらしい。
「その写真」
陽向が。
慌てて。
画面を伏せる。
「見るな!」
「何?」
「彼女?」
「違っ」
「いや彼女だろ」
「……」
結局。
写真そのものは。
見せなかった。
子どもたちが。
写っているから。
でも。
陽向は。
少しだけ。
話した。
彼女には。
大切な家族がいること。
その人たちごと。
大切にしたいと。
思っていること。
すると。
メンバーは。
少し笑って。
こう言ったらしい。
「お前」
「それもう」
「付き合ってるっていうより」
「家族になりたい顔してるぞ」
その夜。
陽向は。
一人。
あの写真を。
見つめた。
家族。
その言葉が。
頭から。
離れなかった。
美月の。
過去を。
奪いたいわけじゃない。
子どもたちの。
父親になりたいわけでもない。
それでも。
これから先。
美月が。
笑う未来に。
自分も。
ずっと。
いたい。
クリスマス。
来年。
五年後。
十年後。
美月の隣で。
同じように。
笑っていたい。
陽向は。
スマートフォンの。
写真を。
そっと。
指でなぞった。
そして。
小さく。
呟いた。
「……結婚」
誰にも。
聞こえない声で。
初めて。
その言葉を。
口にした。
五人の子どもたち。
前の夫。
陽向。
そして。
今の私。
全員で撮った。
一枚の写真。
私は。
何度も。
見返していた。
普通なら。
ありえない。
家族写真。
亡くなったはずの母親は。
人気女優の姿をしていて。
その隣には。
トップアイドルの彼氏。
少し離れて。
前の夫。
そして。
五人の子どもたち。
「……改めて見ると」
私は。
スマートフォンを眺めながら。
呟く。
「すごい写真だな」
「でしょ?」
隣にいた。
陽向が。
笑った。
「俺も」
「何回見ても」
「情報量多いと思う」
「陽向が入ったせいでね」
「俺!?」
「だって」
私は。
写真を拡大する。
「ここだけ」
陽向を指差す。
「急に芸能界」
「美月も芸能界だから!」
「あ」
「忘れんな!」
二人で。
笑う。
陽向が。
私のスマートフォンを。
覗き込む。
「でも」
「うん?」
「俺」
「この写真」
「好き」
「……私も」
「なんかさ」
陽向が。
写真を見つめる。
「美月の全部が」
「一枚に入ってる感じ」
「……」
その言葉に。
胸が。
温かくなった。
「子どもたち」
「うん」
「旦那さん」
「元ね」
「今はね」
「紗良の顔の美月」
「うん」
「で」
陽向が。
自分を指差す。
「俺」
「……うん」
「なんか」
少し。
照れたように。
笑う。
「そこに俺がいるの」
「めっちゃ嬉しい」
胸が。
きゅっと。
鳴った。
「陽向」
「何?」
「そういうこと」
「さらっと言うの」
「ずるい」
「何で?」
「知らない」
私は。
スマートフォンを。
伏せた。
顔が。
熱い。
そのとき。
陽向のスマートフォンが。
鳴った。
「ん?」
画面を見る。
一瞬。
陽向の表情が。
変わった。
「どうしたの?」
「……マネージャー」
「出れば?」
「うん」
陽向が。
電話に出る。
「もしもし?」
いつもの。
軽い声。
でも。
数秒後。
その笑顔が。
完全に消えた。
「……え?」
私は。
思わず。
陽向を見る。
「いつ?」
『……』
「写真?」
胸が。
ざわついた。
「誰と誰が?」
『……』
陽向が。
私を見る。
その顔で。
分かった。
嫌な話。
「分かった」
低い声。
「すぐ行く」
電話が。
切れる。
「陽向」
「……美月」
「何?」
一度。
息を吸う。
「撮られた」
血の気が。
引いた。
「……何を?」
「この前」
「みんなで会った日」
「……」
「俺と」
「美月」
一瞬。
止まる。
「レンタルスペースに」
「入るところと」
「出るところ」
心臓が。
大きく。
鳴った。
◇◇◇
「子どもたちは?」
真っ先に。
出た。
「写真に写ってる?」
「そこは」
陽向が。
すぐに答える。
「今のところ」
「顔が分かる形では」
「撮られてないらしい」
力が。
少し抜ける。
でも。
まだ。
怖い。
「夫は?」
「別の時間に」
「出入りしてるところが」
「あるかもしれないって」
「……」
頭が。
一気に。
回り始める。
一ノ瀬紗良。
天城陽向。
同じ場所へ。
時間をずらして。
入っている。
それだけなら。
仕事?
友人?
そう。
言えるかもしれない。
でも。
もし。
星まで。
写っていたら。
モデルとして。
少しずつ。
顔が知られ始めている。
そこから。
繋がったら?
高瀬美月の。
家族まで。
辿られたら?
「……どうしよう」
声が。
震えた。
陽向が。
すぐに。
私の前へ来る。
「美月」
「子どもたち」
「うん」
「巻き込みたくない」
「うん」
「絶対」
「うん」
「私のせいで」
そこまで。
言ったところで。
陽向が。
私の肩を掴んだ。
「違う」
「……」
「俺たちの問題」
「でも」
「俺も行った」
「……」
「美月だけのせいにすんな」
その言葉。
何度。
救われただろう。
でも。
今度は。
簡単に。
安心できない。
だって。
陽向は。
トップアイドル。
ASTER。
恋愛報道なんて。
私より。
ずっと。
影響が大きい。
「陽向」
「ん?」
「もし」
嫌な考えが。
浮かぶ。
「私と」
喉が。
詰まる。
「別れたことにしたほうが」
陽向の顔が。
一瞬で。
変わった。
「それ」
低い声。
「本気?」
「……」
「美月」
「だって!」
私は。
思わず。
声を上げた。
「陽向の仕事に」
「迷惑かけたくない!」
「……」
「ASTERにも」
「ファンにも」
「事務所にも」
「……」
「私と付き合ってるせいで」
「何かあったら」
「またそれ?」
「え?」
陽向が。
眉を寄せる。
「美月」
「前にも」
「言ったよな」
「……」
「迷惑かどうか」
「一人で決めんなって」
胸が。
刺される。
「でも」
「守るために別れる?」
「……」
「誰が」
陽向が。
まっすぐ。
私を見る。
「それ望んでる?」
何も。
言えない。
「俺?」
「……違う」
「美月?」
「……」
「別れたい?」
すぐに。
首を振った。
「嫌」
「じゃあ」
「……」
「何で」
陽向の声も。
少し。
震えていた。
「俺のためって言って」
「俺が一番嫌なこと」
「選ぼうとすんの」
「……」
その言葉に。
涙が。
溢れそうになる。
そうだった。
私は。
また。
やろうとしていた。
相手のため。
子どものため。
陽向のため。
そう言って。
自分だけで。
答えを。
決めようとしていた。
「……ごめん」
陽向が。
少し。
息を吐く。
「謝ってほしいんじゃない」
「うん」
「美月」
「うん」
「どうしたい?」
私は。
泣きそうな顔で。
陽向を見る。
怖い。
仕事も。
子どもたちも。
陽向も。
傷つけたくない。
でも。
本当の気持ちは。
「……別れたくない」
「うん」
「陽向と」
「一緒にいたい」
「うん」
「でも」
「子どもたちは」
「絶対守りたい」
「俺も」
迷いなく。
返ってきた。
「じゃあ」
陽向が。
私の手を握る。
「その二つを」
「両方守る方法」
「一緒に考えよう」
涙が。
一滴。
落ちた。
「……うん」
「正解」
少し。
笑う。
「一人で決めなくていいから」
私は。
その手を。
強く。
握り返した。
◇◇◇
その日の夜。
陽向の事務所。
会議室。
私の事務所の担当者も。
オンラインで。
繋がった。
出された写真は。
数枚。
帽子。
マスク。
それでも。
陽向だと。
分かる。
別の時間帯。
同じ建物へ。
入る私。
さらに。
数時間後。
先に出る陽向。
少し遅れて。
私。
「……」
週刊誌側は。
『天城陽向 一ノ瀬紗良と極秘交際か』
そういう。
記事を。
準備しているらしい。
「まだ」
陽向のマネージャーが。
言う。
「決定的なツーショットはない」
「はい」
「手を繋いだ写真も」
「抱き合った写真も」
「ない」
少し。
安心する。
「ただ」
資料が。
一枚。
変わる。
「問題は」
「同じ日」
「何人かの一般人も」
「この建物に出入りしていることです」
息が。
止まった。
子どもたち。
そして。
前の夫。
顔には。
ぼかしが入っている。
でも。
私は。
一瞬で。
分かった。
「……」
手が。
冷たくなる。
陽向が。
隣で。
私の手に。
触れた。
「現時点では」
担当者が。
続ける。
「一般人との関係までは」
「掴まれていないと思います」
「でも」
私は。
聞く。
「調べられたら?」
「可能性はあります」
胸が。
苦しくなる。
星は。
モデル活動を。
始めている。
そこから。
家族へ。
繋がる可能性。
ゼロではない。
「どうすれば」
私は。
思わず。
言った。
「子どもたちだけは」
「絶対」
「出したくないです」
「そこは」
陽向が。
すぐに。
口を開いた。
「俺も同じです」
マネージャーを見る。
「交際がどうとかより」
「一般人の子たちの」
「身元が出るのは」
「絶対避けたい」
「分かっています」
担当者が。
頷く。
「まず」
「記事には」
「一般人の詳細を載せないよう」
「強く申し入れます」
「お願いします」
「それと」
一度。
間。
「交際について」
部屋の空気が。
変わる。
「否定するか」
「ノーコメントにするか」
「事実を認めるか」
三つ。
選択肢。
私は。
陽向を見る。
陽向も。
私を見る。
認める?
トップアイドルが。
交際を。
公表する?
「現実的には」
マネージャーが。
言う。
「今すぐ」
「交際を認める必要はないと」
「考えています」
陽向が。
少し。
眉を寄せる。
「嘘は?」
「明確な否定は」
「後々」
「状況によっては」
「リスクになります」
私は。
静かに。
聞いた。
「じゃあ」
「ノーコメント?」
「それが」
「現状では」
「一番自然でしょう」
陽向は。
しばらく。
黙っていた。
そして。
「美月は?」
また。
私に。
聞いた。
「え?」
「どうしたい?」
こんな場で。
私に。
聞くんだ。
事務所もいる。
仕事もある。
ファンもいる。
それでも。
陽向は。
私を。
決定から。
外さない。
私は。
ゆっくり。
考えた。
「……嘘は」
「つきたくない」
「うん」
「でも」
「子どもたちを」
「守れる準備ができるまでは」
「自分から」
「公表したくない」
陽向が。
頷いた。
「俺も」
「……」
「じゃあ」
マネージャーを見る。
「今回は」
「プライベートについては」
「本人に任せています」
「それ以上は」
「答えない」
「という形で」
担当者が。
頷いた。
「それが良いと思います」
私は。
大きく。
息を吐いた。
◇◇◇
帰りの車。
二人とも。
しばらく。
黙っていた。
「……陽向」
「ん?」
「ファンの人」
「うん」
「傷つくかな」
陽向は。
すぐには。
答えなかった。
「傷つく人は」
「いると思う」
胸が。
少し。
痛む。
「そっか」
「うん」
「俺のこと」
「恋愛対象みたいに」
「応援してくれてる人も」
「いるし」
「……」
「そうじゃなくても」
「急に現実見せられた感じで」
「ショックな人」
「いると思う」
私は。
窓の外を見る。
「やっぱり」
「美月」
すぐに。
止められる。
「それで」
「俺が」
「恋愛しちゃいけないかって話とは」
「別」
「……」
「ファンが大事なのも」
「本当」
「美月が大事なのも」
「本当」
「……」
「どっちか」
「嘘にしなくていいだろ」
胸の奥。
じわっと。
温かくなる。
「それに」
陽向が。
少し笑う。
「俺」
「美月と付き合うとき」
「人気落ちる可能性」
「ゼロだと思ってたわけじゃないよ」
「え?」
私は。
思わず。
陽向を見る。
「考えてたの?」
「そりゃ」
「……」
「トップアイドルなんだから」
少し。
肩をすくめる。
「一応」
「それくらい」
「考える」
「……」
「それでも」
信号が。
赤になる。
陽向が。
私を見る。
「付き合いたいって」
「決めた」
胸が。
鳴った。
「だから」
「今さら」
「撮られたから」
「やっぱなし」
「にはならない」
「……うん」
「美月は?」
聞かれる。
私は。
少し。
笑った。
「ならない」
「よし」
信号が。
青になる。
車が。
進み出す。
◇◇◇
翌朝。
記事が。
出た。
スマートフォン。
テレビ。
SNS。
『ASTER天城陽向&人気女優・一ノ瀬紗良 極秘交際か』
画面いっぱい。
見出し。
私は。
怖くて。
SNSを。
開けなかった。
でも。
仕事へ。
行かないわけには。
いかない。
楽屋。
スマートフォンが。
何度も。
震える。
星。
夫。
陽向。
事務所。
「……」
まず。
星。
『ママ、大丈夫?』
私は。
少し笑った。
『怖いけど大丈夫じゃないって言っとく』
すぐ。
『成長したね(笑)』
「もう」
でも。
少し。
気が楽になる。
夫からは。
『子どもらのことはこっちで気をつける』
そして。
『そっちは仕事ちゃんとせえ』
思わず。
笑った。
昔なら。
その言い方に。
少し。
腹が立ったかもしれない。
今は。
分かる。
この人なりの。
心配。
『ありがとう』
返す。
そして。
陽向。
『SNS見てる?』
『見てない』
『見なくていい』
続けて。
『俺も仕事行ってくる』
『うん』
少しして。
もう一通。
『好きだから』
「……」
急に?
思わず。
画面を見る。
『何で今?』
『こういう時こそ言っとこうと思って』
私は。
笑った。
涙が。
少し。
出た。
『私も好き』
送信。
すると。
すぐ。
『よし!今日も頑張れる!』
「単純」
でも。
私も。
同じだった。
◇◇◇
撮影は。
普通に。
進んだ。
でも。
休憩になると。
スタッフの。
視線が。
少し。
気になる。
誰も。
直接は。
聞かない。
それが。
逆に。
苦しい。
すると。
共演していた。
神崎悠人が。
私の隣へ。
缶コーヒーを。
置いた。
「はい」
「え?」
「ブラック」
「……ありがとう」
「今日」
少し。
笑う。
「甘いのじゃないほうが」
「いい顔してるから」
「……」
私も。
少し笑った。
以前の。
紗良なら。
甘いコーヒー。
今の私は。
ブラック。
「ニュース」
神崎が。
言う。
身体が。
少し。
固まる。
でも。
彼は。
続けた。
「何も聞かない」
「……え?」
「聞かれたくないでしょ」
「……うん」
「じゃあ」
缶を。
指差す。
「それだけ」
胸が。
少し。
軽くなる。
「ありがとう」
「ただ」
少し。
意地悪そうに。
笑う。
「天城さん」
「今日」
「めちゃくちゃ機嫌悪そうだろうな」
「何で?」
「俺が紗良さんに」
「コーヒー渡したから」
「……」
思わず。
吹き出した。
「そこ?」
「絶対そこ」
「そんなに」
「嫉妬深くないよ」
スマートフォンが。
震える。
陽向。
『神崎と今日一緒?』
「……」
私は。
画面を見た。
神崎も。
ちらっと。
見る。
「ほら」
「……」
悔しい。
「何で分かるの」
「顔」
私は。
思わず。
笑ってしまった。
◇◇◇
夜。
陽向が。
来た。
玄関を。
開けるなり。
「美月!」
「声大きい」
「今日!」
「何?」
「一日!」
靴を。
脱ぎながら。
「長かった!」
「お疲れ」
リビングへ。
入った瞬間。
陽向が。
私を。
ぎゅっと。
抱きしめる。
「……」
「会いたかった」
胸が。
温かくなる。
私も。
背中に。
腕を回す。
「私も」
少し。
そのまま。
抱きしめ合う。
やがて。
陽向が。
言った。
「大丈夫だった?」
私は。
少し。
考える。
「怖かった」
「うん」
「仕事中も」
「見られてる気がした」
「うん」
「ファンの人のことも」
「ちょっと」
「考えた」
「うん」
「でも」
私は。
陽向から。
少し離れる。
「別れたいとは」
「一回も」
「思わなかった」
陽向の。
表情が。
ふっと。
緩む。
「よかった」
「朝は」
「別れたほうがいいかもって」
「言いかけたけど」
「そこは」
「忘れないから」
「ごめん」
「だから」
「謝るなって」
二人で。
少し。
笑った。
◇◇◇
そのとき。
陽向が。
スマートフォンを。
取り出した。
「美月」
「何?」
「これ」
画面。
あの日の。
写真。
五人の子ども。
前の夫。
私。
陽向。
「……」
「今日」
陽向が。
少し。
照れたように。
言う。
「ずっと」
「見てた」
「どうして?」
「仕事の合間」
「しんどくなったとき」
「……」
「これ見たら」
「何のために」
「ちゃんと向き合いたいのか」
「分かった」
胸が。
大きく鳴る。
「何のため?」
「美月と」
陽向が。
写真を見る。
「これからも」
「一緒にいたいから」
「……」
「美月が」
「大事にしてる人たちとも」
「ちゃんと」
「関係作って」
「……」
「いつか」
言葉が。
止まる。
「陽向?」
「いや」
「何?」
「今は」
笑って。
「まだ言わない」
「何それ」
「まだ」
「俺の中で」
「ちゃんと」
「形にしてから言う」
「……」
気になる。
でも。
陽向の顔が。
少しだけ。
いつもと違う。
ふざけていない。
未来を。
考えている顔。
「美月」
「うん」
「今日」
「撮られて」
「正直」
「めちゃくちゃムカついたし」
「怖かったけど」
「うん」
「一個だけ」
「はっきりした」
「何?」
陽向が。
私の手を取る。
「隠れて付き合ってるからって」
「俺たちの関係が」
「後ろめたいものに」
「なるわけじゃない」
「……」
「今は」
「仕事とか」
「子どもたちの安全とか」
「守るために」
「言わないことはある」
「うん」
「でも」
「美月を好きなことまで」
「隠す必要は」
「俺の中にはない」
涙が。
少し。
滲んだ。
「……うん」
「だから」
少し。
笑う。
「いつか」
「うん」
「ちゃんと」
「美月とのこと」
「堂々と」
「大事にできるようにしたい」
私は。
陽向の手を。
握り返した。
「私も」
◇◇◇
数日後。
熱愛報道は。
まだ。
完全には。
収まっていなかった。
でも。
決定的な写真がないこともあり。
事務所は。
それ以上。
コメントしなかった。
そんな中。
ASTERの仕事終わり。
メンバーの一人が。
陽向のスマートフォンを。
ちらっと見て。
言ったらしい。
「その写真」
陽向が。
慌てて。
画面を伏せる。
「見るな!」
「何?」
「彼女?」
「違っ」
「いや彼女だろ」
「……」
結局。
写真そのものは。
見せなかった。
子どもたちが。
写っているから。
でも。
陽向は。
少しだけ。
話した。
彼女には。
大切な家族がいること。
その人たちごと。
大切にしたいと。
思っていること。
すると。
メンバーは。
少し笑って。
こう言ったらしい。
「お前」
「それもう」
「付き合ってるっていうより」
「家族になりたい顔してるぞ」
その夜。
陽向は。
一人。
あの写真を。
見つめた。
家族。
その言葉が。
頭から。
離れなかった。
美月の。
過去を。
奪いたいわけじゃない。
子どもたちの。
父親になりたいわけでもない。
それでも。
これから先。
美月が。
笑う未来に。
自分も。
ずっと。
いたい。
クリスマス。
来年。
五年後。
十年後。
美月の隣で。
同じように。
笑っていたい。
陽向は。
スマートフォンの。
写真を。
そっと。
指でなぞった。
そして。
小さく。
呟いた。
「……結婚」
誰にも。
聞こえない声で。
初めて。
その言葉を。
口にした。



