目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

「無理」

陽向が。

真顔で言った。

「さっきも聞いた」

「いや」

私の家のソファで。

両手を組んだまま。

陽向は。

珍しく。

落ち着きがない。

「やっぱ無理」

「何万人の前でライブする人が?」

「それとこれとは別!」

「テレビの生放送は?」

「いける」

「大きなステージは?」

「いける」

「五人の子どもに会うのは?」

「無理」

即答。

私は。

思わず。

吹き出した。

「あははっ!」

「笑い事じゃないから!」

「だって」

「陽向がこんなに緊張してるの」

「珍しいんだもん」

「するだろ!」

陽向が。

私を見る。

「美月の子どもだぞ?」

「うん」

「しかも五人!」

「うん」

「一人には」

指を一本立てる。

「すでに推されてる」

「星ね」

「で」

二本目。

「俺が美月の彼氏だって知ってるのも」

「星だけ」

「うん」

「残り四人には」

陽向が。

自分を指差す。

「今日突然」

「どうも」

「君たちのお母さんと付き合ってます」

「天城陽向ですって」

「言うんだぞ?」

私は。

想像した。

そして。

「……確かにすごい」

「だろ!?」

陽向が。

身を乗り出す。

「俺」

「アイドル人生で」

「今日が一番緊張するかもしれない」

「そこまで?」

「だって」

急に。

真剣な顔。

「嫌だって言われたらどうしよう」

私は。

笑うのをやめた。

「陽向……」

「美月のこと」

「もう取らないでって」

「言われたら」

「……」

「俺」

「何て言えばいいんだろ」

その一言で。

分かった。

陽向が。

怖がっている理由。

自分が。

受け入れてもらえるか。

それだけじゃない。

子どもたちを。

傷つけないか。

それが。

怖いんだ。

私は。

陽向の隣へ座った。

「ねえ」

「ん?」

「取らないよね?」

「当たり前だろ」

「じゃあ」

私は。

少し笑った。

「そのまま言えばいいよ」

「……そのまま?」

「うん」

「私は」

「子どもたちのママ」

「うん」

「陽向の彼女」

「……うん」

「どっちかになるんじゃない」

陽向を見る。

「両方」

「……」

「だから」

私は。

陽向の手を。

握った。

「陽向も」

「無理に」

「お父さんになろうとしなくていい」

「……」

「ただ」

「私の好きな人として」

「会ってくれたら」

「それでいい」

陽向は。

しばらく。

私を見ていた。

そして。

大きく。

息を吐く。

「……分かった」

「うん」

「でも緊張する」

「それはもう諦めて」

「ひど!」

私は。

笑った。

◇◇◇

待ち合わせは。

前回と同じ。

貸し切りの。

レンタルスペース。

先に。

私と陽向が。

到着した。

「……」

陽向。

立っている。

「座ったら?」

「無理」

「何で?」

「落ち着かない」

さっきから。

水を飲む。

時計を見る。

立つ。

歩く。

また。

時計を見る。

「陽向」

「何」

「学校の家庭訪問を待ってる親みたい」

「俺今」

「それより緊張してるから」

「知らないよ」

そのとき。

スマートフォンが。

震えた。

星。

『着いたよ』

「……来た」

私が言うと。

陽向が。

ぴたりと。

止まった。

「マジ?」

「帰らないでね」

「帰らない!」

コンコン。

ノック。

私が。

ドアへ向かう。

「はい」

開ける。

「ママ!」

星。

その後ろ。

湊。

そして。

他の子どもたち。

一番小さい子は。

私を見るなり。

「ママ!」

と。

駆け寄ってきた。

「うん」

私は。

しゃがんで。

受け止める。

ついこの前まで。

美月。

だったのに。

今は。

自然に。

ママ。

「今日ゲームする!」

「今日はね」

「ゲームだけじゃないよ」

「なんで?」

「会ってほしい人がいるの」

「だれ?」

その瞬間。

夫が。

部屋の奥を見る。

「……」

そして。

固まった。

当然。

そこに。

天城陽向が。

いる。

「どうも」

陽向が。

頭を下げる。

「……」

夫。

無言。

湊。

無言。

他の子どもたち。

無言。

一番小さい子だけ。

「だれ?」

星が。

思い切り。

噴き出した。

「ちょっと!」

陽向が。

地味に傷ついた顔。

私は。

笑いを堪える。

「この人は」

言いかける。

そのとき。

別の子が。

「あ!」

声を上げた。

「テレビの人!」

「そう!」

陽向が。

少し嬉しそう。

「テレビ出てる人!」

「名前なんやったっけ」

「そこ!?」

陽向の。

いつもの。

大きなリアクション。

子どもたちが。

笑う。

星も。

完全に。

笑っている。

「陽向くん」

星が。

教える。

「ASTERの」

「あー!」

「ママが好きやった人!」

「……」

一瞬で。

空気が。

止まった。

陽向。

私。

夫。

星。

全員。

固まる。

言った本人だけ。

何が問題なのか。

分かっていない。

「そうやろ?」

「……まあ」

私は。

苦笑する。

「好きだった」

陽向が。

小声で。

「過去形?」

「今は意味が違うの!」

「何が?」

湊が。

眉を寄せる。

「意味が違う?」

「……」

来た。

とうとう。

私は。

陽向を見る。

陽向も。

私を見る。

大丈夫。

私は。

一度。

息を吸った。

「今日」

「みんなに」

「会ってほしかったのは」

子どもたちを見る。

「陽向が」

「ママにとって」

「大切な人だから」

湊が。

少し。

表情を変える。

「大切?」

「うん」

星が。

もう。

ニヤニヤしている。

知ってるから。

「ママ」

「何?」

「ちゃんと言いなよ」

「星」

「自分で言うんでしょ?」

「……」

逃げ道を。

塞がれた。

私は。

陽向の隣に立つ。

そして。

子どもたちを。

まっすぐ見る。

「ママね」

「うん」

「陽向と」

一瞬。

言葉が。

詰まる。

でも。

ちゃんと言う。

「お付き合いしてる」

「……」

沈黙。

一秒。

二秒。

そして。

「えええええええ!?」

誰かの。

大声。

続けて。

「マジ!?」

「ママが!?」

「この人と!?」

「そうです!」

なぜか。

私も。

大声。

陽向は。

もう。

耳まで。

真っ赤だった。

一番小さい子だけ。

首を傾げる。

「おつきあいってなに?」

「……」

説明。

難しい。

「ママが」

少し考える。

「すごく好きな人」

「ふーん」

軽い。

「じゃあ」

その子が。

陽向を見る。

「ママのおともだち?」

「まあ」

私が答える前に。

陽向が。

しゃがんだ。

「今は」

優しく。

笑う。

「そんな感じでいいよ」

その言い方に。

私は。

少し。

胸が温かくなった。

◇◇◇

「ちょっと待って」

湊が。

まだ。

混乱している。

「ママ」

「うん」

「昔から」

陽向を指差す。

「この人好きやったやん」

「うん」

「テレビ見て」

「きゃーきゃー言っとった」

「……そんなに?」

「言っとった」

星が。

即答する。

「やめて」

陽向は。

嬉しそう。

「もっと聞きたい」

「陽向は黙って」

「でも」

湊が。

混乱したまま。

続ける。

「ほんまに」

「付き合っとるん?」

「うん」

「なんで?」

「なんでって……」

私は。

陽向を見る。

最初。

病院で。

目を覚ました。

この人の。

腕の中だった。

紗良と。

思われていた。

美月だと。

信じてもらえなくて。

ぶつかって。

泣いて。

一度。

いなくなって。

それでも。

また。

見つけてもらった。

一緒に。

ご飯を食べた。

歌った。

笑った。

弱いところを。

見せてもらった。

私も。

弱いところを。

見せられるようになった。

そして。

いつの間にか。

最推しではなく。

一人の男性として。

好きになっていた。

「……いっぱい」

私は。

少し笑った。

「いろんなことがあったから」

「それ説明になってない」

湊の。

冷静なツッコミ。

陽向が。

吹き出す。

「あははっ!」

「笑うとこじゃないよ!」

「ごめん!」

◇◇◇

すると。

今まで。

黙っていた子が。

陽向へ。

聞いた。

「ママのこと」

「うん?」

「ほんまに好きなん?」

部屋が。

静かになる。

陽向の顔から。

笑いが消えた。

「うん」

迷いなく。

答える。

「好き」

「どれくらい?」

「……」

陽向が。

少し考える。

「すげえ好き」

「それだけ?」

「え」

私は。

思わず。

笑いそうになる。

審査。

始まった。

陽向は。

私を見る。

助けを。

求める目。

私は。

首を振った。

自分で。

頑張って。

「えっと」

陽向が。

座り直す。

「美月って」

「……」

「自分のこと」

「すぐ後回しにするんだよ」

子どもたちが。

黙って聞く。

「みんなのためなら」

「我慢しようとするし」

「自分が辛くても」

「大丈夫って言うし」

「……」

「前は」

陽向が。

少し。

苦しそうな顔になる。

「一人で」

「いなくなろうとしたこともあった」

夫が。

私を見る。

子どもたちも。

少し。

表情を変える。

「でも」

陽向は。

続ける。

「最近は」

「ちゃんと」

「疲れたとか」

「怖いとか」

「会いたいとか」

「言えるようになった」

「……」

「俺」

「そういう美月が」

「好き」

胸が。

熱くなる。

「笑ってると」

「嬉しいし」

「泣いてたら」

「話聞きたいし」

「……」

「美月が」

子どもたちを見る。

「みんなの話してるときの顔も」

「すごい好き」

誰も。

何も言わない。

「俺」

陽向が。

少し。

緊張したように。

息を吸った。

「みんなのお父さんに」

「なろうと思って」

「今日来たわけじゃない」

夫の目が。

少し。

揺れる。

「みんなには」

「ちゃんと」

「お父さんがいるから」

「……」

「そこに」

「俺が入ろうとは」

「思ってない」

夫が。

ゆっくり。

陽向を見る。

「でも」

陽向が。

続ける。

「美月が」

「みんなを」

「世界で一番大事にしてることは」

「分かってる」

胸が。

きゅっとなる。

「だから」

「美月が大事にしてる人を」

「俺も」

「大事にしたい」

静かだった。

私は。

泣きそうになっていた。

星は。

もう。

目を潤ませている。

そして。

しばらくして。

一番小さい子が。

陽向に聞いた。

「ゲームする?」

「……え?」

「ゲーム」

「する?」

「する!」

陽向。

即答。

「じゃあいいよ」

「何が!?」

全員が。

笑った。

◇◇◇

「何がいいの?」

陽向が聞く。

「ママのすきなひと」

「……」

一番小さい子が。

あっさり。

言った。

「ゲームする人なら」

「いい」

「基準そこ!?」

私は。

笑った。

星も。

涙を拭いながら。

笑っている。

「陽向くん」

「ん?」

「合格だって」

「軽っ!」

でも。

陽向は。

本当に。

嬉しそうだった。

◇◇◇

それから。

ゲーム大会が。

始まった。

陽向。

子ども五人。

そして。

私。

夫は。

少し離れたところで。

その様子を見ている。

「陽向!」

「何!?」

「そこ!」

「分かってる!」

「負けてる!」

「まだいける!」

陽向。

本気。

子ども相手でも。

全力。

「よっしゃああああ!」

「うるさい!」

私が。

反射的に。

止める。

「えー!」

「室内!」

「はい」

一瞬で。

素直。

子どもたちが。

笑う。

「陽向くん」

湊が。

言う。

「ママに弱い?」

「弱くない」

「今」

「一発で黙ったやん」

「それは」

陽向が。

言葉に詰まる。

「彼女の言うこと」

「聞く男だから」

「何それ!」

私は。

顔が。

熱くなる。

「ママ」

星が。

ニヤニヤ。

「嬉しそう」

「嬉しくない」

「顔」

「見ないで!」

みんなが。

笑う。

その笑い声の中。

私は。

ふと。

夫を見た。

目が。

合う。

一瞬。

気まずい。

でも。

夫は。

ほんの少し。

笑った。

私は。

ゲームの休憩中。

夫のところへ。

近づいた。

「……大丈夫?」

聞く。

夫は。

子どもたちと。

ゲームをしている。

陽向を見る。

「まあ」

「……」

「変な感じはする」

「うん」

「昔」

少し。

苦笑する。

「お前がテレビ見ながら」

「あんなに好きやったやつが」

「今」

顎で。

陽向を示す。

「子どもらとゲームしとる」

「……私も」

「意味分からない」

夫が。

少し。

笑った。

「でも」

「うん」

「さっきの」

「……」

「お父さんになるつもりないって」

胸が。

少し。

緊張する。

「うん」

「正直」

夫が。

ゆっくり言う。

「ちょっと安心した」

「……そっか」

「俺」

「お前の恋愛に」

「口出す立場ちゃうけど」

「うん」

「子どもらの父親では」

「おるから」

「うん」

「そこ」

「ちゃんと」

「分かっとる人なら」

少し。

間。

「ええんちゃう」

胸の奥。

じんわり。

温かくなる。

「ありがとう」

「俺に」

「許可取らんでええ」

「許可じゃないよ」

私は。

少し笑った。

「子どもたちの父親として」

「どう思うか」

「知りたかった」

夫は。

少し。

目を細めた。

「……変わったな」

「またそれ?」

「前やったら」

「俺が嫌って言ったら」

「自分がやめようとしとった」

「……」

否定。

できない。

「今は?」

聞かれる。

私は。

子どもたちと。

笑っている。

陽向を見る。

そして。

答えた。

「嫌って言われたら」

「ちゃんと理由聞く」

「……」

「でも」

少し笑う。

「私が陽向を好きなのは」

「やめない」

夫が。

少し。

驚いたあと。

笑った。

「そっか」

「うん」

「それでええんちゃう」

◇◇◇

ゲームが。

一段落すると。

星が。

急に。

言った。

「ねえ」

「何?」

「せっかくだから」

スマートフォンを。

取り出す。

「みんなで写真撮らない?」

私は。

一瞬。

固まった。

「みんなで?」

「うん」

星が。

楽しそうに。

言う。

「前」

「ママと陽向くんと私で」

「撮ったでしょ?」

「うん」

「今度は」

周りを見る。

「みんなで」

胸が。

大きく鳴る。

子ども五人。

私。

陽向。

そして。

夫。

星が。

夫を見る。

「パパも」

「俺も?」

「当たり前やん」

「……」

夫が。

少し。

気まずそうに。

陽向を見る。

陽向も。

完全に。

固まっている。

「え」

陽向が。

小声。

「俺」

「入っていいの?」

その一言。

私は。

陽向を見る。

星が。

先に答えた。

「いいでしょ」

「……」

「ママの」

少し。

照れながら。

「大事な人なんでしょ?」

陽向の目が。

少し。

揺れる。

「……うん」

「じゃあ」

星が。

笑う。

「入って」

◇◇◇

スタッフも。

いない。

セルフタイマー。

スマートフォンを。

立てる。

「早く!」

「あと十秒!」

みんな。

慌てて。

並ぶ。

夫。

子どもたち。

私。

陽向。

どこに。

立てばいい?

一瞬。

迷った。

すると。

一番小さい子が。

私の手を。

掴む。

「ママここ!」

「うん」

私は。

子どもたちの。

真ん中へ。

陽向は。

少し。

端へ行こうとする。

でも。

星が。

腕を掴む。

「陽向くんこっち!」

「え!?」

「早く!」

「ちょ!」

陽向が。

私の隣へ。

一瞬。

手が。

触れる。

でも。

今日は。

恋人繋ぎはしない。

子どもたちの前。

夫もいる。

それでいい。

ただ。

肩が。

少し。

触れる。

「三!」

星が叫ぶ。

「二!」

「一!」

カシャ。

シャッター音。

「撮れた!」

全員。

スマートフォンのところへ。

集まる。

「見せて!」

「俺目閉じてない?」

「ママ泣きそう」

「泣いてない!」

「陽向くん顔でか」

「おい!」

「パパ笑ってない!」

「笑っとるわ!」

騒がしい。

うるさい。

懐かしい。

でも。

新しい。

私は。

画面を見る。

そこに。

今の私がいる。

昔の顔ではない。

一ノ瀬紗良の顔。

でも。

子どもたちの真ん中に。

ちゃんと。

私がいる。

その隣に。

陽向。

少し離れて。

夫。

不思議な。

写真。

普通の。

家族写真とは。

呼べないかもしれない。

でも。

「……好き」

私は。

小さく。

呟いた。

「何が?」

陽向が。

聞く。

私は。

写真を見る。

「この写真」

「……」

「すごく」

笑う。

「好き」

◇◇◇

帰る時間。

子どもたちが。

陽向の周りに。

集まる。

「またゲームしよ!」

「次は負けん!」

「今日負けてたやん」

「次は勝つ!」

「陽向くん」

星が。

少し。

意地悪そうに。

「ママのこと」

「ちゃんと大事にしてね」

「星!」

また。

その話!?

でも。

陽向は。

笑わなかった。

真っ直ぐ。

星を見る。

「うん」

そして。

他の子どもたちも。

見る。

「大事にする」

胸が。

熱くなる。

そのとき。

湊が。

言った。

「でも」

「うん?」

「ママ泣かしたら」

陽向。

固まる。

「……はい」

「僕ら五人おるから」

「……はい」

「覚えといて」

陽向が。

私を見る。

「美月」

「何?」

「圧がすごい」

私は。

吹き出した。

「頑張って」

「助けてよ!」

みんなが。

笑った。

夫まで。

少し。

笑っていた。

◇◇◇

最後。

一番小さい子が。

陽向の服を。

引っ張った。

「ひなた」

「え?」

陽向が。

しゃがむ。

「今」

「名前呼んだ?」

「うん」

「なに?」

「ママのこと」

「うん」

「すき?」

陽向が。

一瞬。

私を見る。

それから。

子どもの目を。

まっすぐ見る。

「好きだよ」

「いっぱい?」

「いっぱい」

「ぼくも」

「え?」

「ママ」

少し。

考えて。

「いっぱいすき」

涙が。

出そうになった。

陽向が。

優しく。

笑う。

「そっか」

「じゃあ」

小さな手を。

差し出す。

「一緒だな」

一番小さい子が。

その手を。

握る。

「いっしょ」

その光景を。

私は。

何も言えず。

見ていた。

陽向は。

私から。

子どもたちを。

奪う人じゃない。

子どもたちも。

陽向から。

私を。

奪う存在じゃない。

愛情は。

席取りゲームじゃない。

誰かを。

大切にしたら。

別の誰かへの。

愛が減るわけじゃない。

私は。

五人の子どもたちを。

愛している。

陽向を。

愛している。

そして。

それぞれ。

全然違う。

でも。

全部。

本物。

◇◇◇

帰宅後。

陽向は。

私の部屋へ。

寄った。

ドアを閉めた瞬間。

壁に。

背中を預ける。

「……終わった」

「何その言い方」

「緊張したぁぁぁ……」

ずるずる。

しゃがみ込む。

「そんなに?」

「そんなに!」

私は。

笑いながら。

陽向の前へ。

しゃがんだ。

「でも」

「何?」

「人気だったじゃん」

「ゲーム要員としてね!」

「一番小さい子」

「陽向って呼んでたよ」

「……」

陽向が。

少し。

嬉しそうに。

笑った。

「うん」

「湊にも」

「ママ泣かすなって」

「脅されてたし」

「それ嬉しい話?」

「私は嬉しい」

「俺はプレッシャー!」

笑う。

でも。

少しして。

陽向が。

真面目な顔になる。

「美月」

「何?」

「今日」

「俺」

「行ってよかった?」

私は。

迷わなかった。

「うん」

「本当に?」

「うん」

私は。

陽向の手を取る。

「私の」

「二つの大事な場所が」

「今日」

「初めて」

胸に。

手を当てる。

「一緒になった気がした」

「……」

「母親の私と」

「陽向を好きな私」

「……うん」

「今まで」

「別々にしなきゃって」

「どこかで思ってた」

「うん」

「でも」

私は。

笑った。

「どっちも私だった」

陽向の目が。

優しくなる。

「うん」

「知ってる」

「……」

「ずっと言ってるじゃん」

陽向が。

私の手を。

握る。

「全部」

「美月だって」

涙が。

少し。

滲んだ。

「うん」

◇◇◇

その夜。

星から。

今日撮った写真が。

送られてきた。

『今日の写真!』

続けて。

『なんか不思議なメンバーだけど(笑)』

私は。

笑う。

さらに。

『でも私、この写真好き』

私も。

同じ。

『ママも好き』

送る。

すると。

すぐに。

『あと』

『みんな陽向くんのこと嫌じゃなかったみたい』

「……」

胸が。

少し。

軽くなる。

『一番下なんて、またゲームしたいって』

私は。

隣で。

スマートフォンを見ている。

陽向へ。

そのまま見せた。

「ほら」

「……マジ?」

「うん」

陽向が。

ものすごく。

嬉しそうに笑う。

「よっしゃ!」

「声」

「あ」

慌てて。

小さくなる。

私は。

そんな陽向を。

見ながら。

思った。

一度目の人生と。

二度目の人生。

ずっと。

別の世界だと。

思っていた。

でも。

今日。

初めて。

同じ写真の中に。

収まった。

五人の子どもたち。

前の夫。

今の私。

そして。

陽向。

過去を。

消さなくていい。

新しい幸せのために。

古い大切なものを。

捨てなくていい。

全部を。

抱えたまま。

前へ。

進んでいい。

私は。

画面の中の。

自分を見る。

そして。

そっと。

笑った。

これが。

今の。

高瀬美月の。

家族の形。

まだ。

名前なんて。

つけられない。

でも。

それでいい。

大切な人たちが。

少しずつ。

お互いを知って。

少しずつ。

同じ場所で。

笑えるようになれば。

それで。

十分だから。

そして。

私は。

まだ知らなかった。

この一枚の写真が。

後に。

私と陽向の未来を。

大きく動かす。

きっかけに。

なることを。