目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

夫から。

『もう一人が会ってみたいって言っとる』

そう連絡が来たのは。

前の子と会った。

その日の夜だった。

一人ずつ。

少しずつ。

子どもたちが。

私のところへ。

戻ってきてくれている。

星。

そして。

長男の湊。

三男。

でも。

今度の再会は。

今までとは。

少し違った。

◇◇◇

「会いたいって」

「自分から言ったんだよね?」

陽向に聞くと。

「うん」

私は。

スマートフォンを見ながら。

頷いた。

「でも」

「?」

「夫から」

届いたメッセージ。

もう一度。

読む。

『会ってみたいとは言っとるけど、かなり怒っとる』

「……怒ってる?」

陽向が。

隣から。

画面を見る。

「うん」

「美月に?」

「たぶん」

胸が。

きゅっと。

縮む。

『本当にママなら、何で今まで来なかったのか聞きたいらしい』

「……そっか」

陽向が。

静かに言った。

私は。

自分の指を。

握る。

「当然だよね」

「うん」

「私」

「子どもたちからしたら」

「突然いなくなったんだもん」

「……」

「死んだから」

「仕方ないって」

「頭では分かってても」

「うん」

「寂しかったとか」

「腹立ったとか」

「そういう気持ち」

「あるよね」

陽向は。

すぐには。

何も言わなかった。

それから。

私の手を。

そっと握る。

「あると思う」

「……うん」

「だから」

「?」

「ちゃんと」

陽向が。

私を見る。

「怒られてきな」

「……」

思わず。

顔を上げた。

「そこ?」

「だって」

「会いたいんでしょ?」

「うん」

「なら」

「ママって呼んでもらうことだけが」

「再会じゃないと思う」

胸が。

少し。

揺れた。

「怒りたいなら」

「怒ってもらえばいい」

「……」

「美月も」

「言いたいこと」

「ちゃんと言えばいい」

「うん」

「謝るだけじゃなくて」

「……」

さすが。

分かってる。

私は。

苦笑した。

「また全部」

「私が悪かったみたいに」

「なりそうだった」

「でしょ?」

「うん」

陽向が。

少し笑う。

「美月」

「何?」

「ママって」

「子どもに好かれるだけの役じゃないだろ」

「……」

「怒られるのも」

「嫌いって言われるのも」

「それでも」

「その子のママなんじゃない?」

胸の奥。

じわっと。

熱くなる。

「……うん」

私は。

頷いた。

「行ってくる」

◇◇◇

待ち合わせの日。

夫の隣にいたその子は。

私を見るなり。

顔を。

逸らした。

「……」

こんにちは。

と。

言おうとして。

やめた。

今日は。

無理に。

取り繕わなくてもいい気がした。

私は。

少し離れた場所に座る。

その子も。

夫の隣。

私の正面には。

座らなかった。

「……」

沈黙。

長い。

夫も。

今日は。

ほとんど。

口を挟まない。

その子自身が。

話すのを。

待っている。

やがて。

小さな声。

「……ママじゃない」

胸が。

痛んだ。

でも。

私は。

頷いた。

「そう思うよね」

「顔違うし」

「うん」

「知らん人やし」

「うん」

「テレビ出とる人やし」

「うん」

「なのに」

その子が。

初めて。

私を見る。

目。

怒っている。

でも。

その奥が。

泣いている。

「なんで」

「ママって言うん?」

「……」

私は。

一度。

息を吸った。

「私が」

胸に。

手を当てる。

「高瀬美月だから」

「知らん」

「うん」

「そんなの」

「信じれん」

「うん」

「じゃあ」

声が。

少し。

大きくなる。

「ママなら!」

夫が。

少し。

身体を動かす。

でも。

止めない。

「ママなら!」

涙が。

その子の目に。

一気に溜まった。

「なんで」

「……」

「なんで死んだん!」

息が。

止まった。

「なんで」

拳を。

ぎゅっと。

握る。

「勝手に」

「おらんくなったん!」

胸を。

強く。

叩かれたようだった。

「なんで!」

「……」

「ずっと」

「待っとったのに!」

涙が。

ぼろぼろ。

落ちる。

「帰ってくるって」

「思っとったのに!」

「……うん」

「みんな」

「もう帰ってこんって」

「言うし!」

「うん」

「写真しか」

声が。

崩れる。

「なくなったし!」

「……」

「ママに」

唇を。

噛む。

「言いたいこと」

「いっぱいあったのに!」

私は。

何も。

言わなかった。

ただ。

聞いた。

「学校で」

「嫌なことあった日も!」

「うん」

「できるようになったことも!」

「うん」

「見てほしかったのに!」

「……うん」

「なのに!」

その子は。

泣きながら。

私を睨んだ。

「今さら」

「別の顔で」

「ママって言われても!」

「分からん!」

「……うん」

「分からんよ!」

静かな部屋に。

泣き声だけが。

響いた。

私は。

自分の涙を。

拭わなかった。

だって。

今。

泣きたいのは。

この子。

私は。

ゆっくり。

言った。

「寂しかったね」

その子の顔が。

さらに。

歪む。

「……っ」

「腹立ったよね」

「……」

「何でママだけ」

「いなくなるんって」

「思ったよね」

「……うん」

小さな。

返事。

「ごめんって」

私は。

言いかけて。

止まった。

事故で。

死んだことを。

謝るのは。

違う。

この子が。

欲しいのは。

きっと。

謝罪じゃない。

「ママも」

私は。

胸に手を置く。

「帰りたかった」

「……」

「本当に」

「ずっと」

「帰りたかった」

その子が。

私を見る。

「だったら」

「うん」

「帰ってきたら」

「よかったやん」

「……」

「うん」

涙が。

頬を伝う。

「できるなら」

「そうしたかった」

私は。

自分の顔に。

触れる。

「でも」

「目が覚めたら」

「この顔だった」

「……」

「自分の身体は」

「もう」

言葉にするのが。

今でも。

少し苦しい。

「死んでた」

その子が。

黙る。

「ママも」

「最初」

「分からなかった」

「何で」

「自分が生きてるのに」

「死んだって言われてるのか」

「分からなかった」

「……」

「家に」

「行きたかった」

「うん」

「みんなのところに」

「帰りたかった」

涙が。

止まらない。

「でも」

「この顔で」

「ママだよって言って」

「怖がられたらどうしようって」

「……」

「信じてもらえなかったら」

声が。

震える。

「本当に」

「もう二度と」

「みんなのママでいられなくなる気がして」

「……」

「怖かった」

その子が。

私を。

じっと見ている。

「でも」

私は。

続けた。

「それは」

「ママが」

「怖かったっていう話」

「……」

「あなたが」

「寂しかったこととは」

「別」

「……」

「だから」

私は。

正面から。

その子を見る。

「怒っていいよ」

目が。

大きくなる。

「何で来なかったんって」

「怒っていい」

「……」

「寂しかったって」

「言っていい」

「……」

「ママなんか嫌いって」

喉が。

詰まりそうになる。

それでも。

言った。

「思ったなら」

「それも」

「言っていいよ」

「……」

しばらく。

何も。

言わない。

そして。

小さく。

「……嫌い」

胸が。

痛んだ。

でも。

逃げない。

「うん」

「ママなんか」

涙を。

ぼろぼろ。

流しながら。

「嫌い」

「うん」

「勝手に」

「おらんくなったから」

「うん」

「嫌いや」

「……うん」

私は。

頷いた。

「それでも」

一度。

息を吸う。

「ママは」

「あなたが大好き」

「……っ」

「嫌いって言われても」

「大好き」

その子の。

顔が。

崩れた。

「……ずるい」

「うん」

「ずるい!」

「うん」

「そんなの」

声を上げて。

泣く。

「嫌いって」

「言えんくなるやん!」

私は。

泣きながら。

少しだけ。

笑った。

「言っていいよ」

「嫌い!」

「うん」

「……大嫌い!」

「うん」

「でも!」

「うん」

息を。

しゃくり上げながら。

その子が。

言った。

「会いたかった!」

その言葉。

胸の奥に。

真っ直ぐ。

刺さった。

「……うん」

「僕も!」

「うん」

「ずっと!」

「うん」

「ママに!」

涙で。

顔が。

ぐしゃぐしゃ。

「会いたかった!」

「ママも」

私は。

もう。

堪えられなかった。

「ずっと」

「会いたかったよ」

◇◇◇

でも。

その子は。

抱きついてこなかった。

私も。

動かなかった。

今は。

それでいい。

ママって。

呼んでもらえなくても。

抱きしめられなくても。

この子が。

本当の気持ちを。

私にぶつけてくれた。

それだけで。

十分。

しばらくして。

その子が。

鼻をすすりながら。

言った。

「……ほんまに」

「うん?」

「ママ?」

「うん」

「証拠」

「聞きたい?」

「……うん」

私は。

少し笑った。

「何聞く?」

その子は。

しばらく。

考えた。

そして。

「僕が」

「うん」

「昔」

少し。

顔を赤くする。

「こっそり」

「冷蔵庫に入っとった」

「プリン食べたとき」

「……」

私は。

思わず。

吹き出しそうになった。

覚えてる。

「夜中?」

その子の目が。

大きくなる。

「……うん」

「ママ」

「次の日」

「誰食べたのって」

「聞いた」

「……」

「みんな」

「知らんって言って」

「……」

「でも」

私は。

少し。

眉を上げる。

「あなた」

「スプーン」

「自分の机の上に」

「置きっぱなしだった」

「……」

夫が。

吹き出した。

「そんなバレ方しとったん」

「パパ知らんかったん?」

その子も。

思わず。

夫を見る。

「知らん」

「ママ」

私は。

笑う。

「怒らなかった」

「……うん」

「でも」

「次から」

「食べたいなら言いなって」

「言った」

「……」

「それから」

私は。

指を立てる。

「名前書いてあるやつは」

「勝手に食べない」

「……」

その子が。

口元を。

押さえた。

「それ」

「うん」

「ほんまに」

目から。

また。

涙。

「ママしか知らん」

「うん」

「だって」

少し。

笑う。

「ママだもん」

今度は。

『知らない』

とは。

言われなかった。

◇◇◇

帰る時間。

その子は。

最後まで。

私を。

ママとは。

呼ばなかった。

でも。

席を立って。

数歩。

歩いたあと。

振り返った。

「……次」

「うん?」

「また」

少し。

目を逸らす。

「会ってもいい」

胸が。

いっぱいになる。

でも。

飛びつかない。

「うん」

私は。

笑った。

「会おう」

「……」

「いつでも」

言いかける。

違う。

私は。

少し笑う。

「会いたくなったら」

「教えて」

「うん」

その子が。

一度。

頷く。

そして。

小さく。

「……じゃあ」

「うん」

「また」

「またね」

ドアの向こうへ。

消えていく。

夫だけが。

少し。

その場に残った。

「……美月」

「何?」

「よかったん?」

「え?」

「ママって」

「呼ばれんかったけど」

私は。

少し考える。

そして。

笑った。

「うん」

「いい」

「……」

「だって」

涙を。

拭う。

「嫌いって」

「ちゃんと言ってくれたから」

「……」

「それって」

「私に」

「本音言ってくれたってことでしょ」

夫が。

少しだけ。

笑った。

「変わったな」

「またそれ?」

「前なら」

「めちゃくちゃ落ち込んどる」

「……うん」

私は。

苦笑した。

「今もちょっと」

「傷ついてるよ」

「そりゃそうか」

「うん」

「でも」

子どもが。

出ていった扉を見る。

「傷ついても」

「聞きたい」

「この子が」

「どう思ってたのか」

「ちゃんと」

「知りたい」

夫は。

しばらく。

何も言わなかった。

「……そういうとこ」

「何?」

「前から」

「変わらんな」

「どこ?」

「子どものことになると」

少し笑う。

「ちゃんと母親」

私は。

思わず。

笑った。

「当たり前でしょ」

◇◇◇

その夜。

陽向は。

私の顔を見るなり。

何も聞かず。

両腕を広げた。

「……」

私は。

少し笑った。

「何?」

「今日」

「抱っこいる顔」

「そんな顔ある?」

「ある」

私は。

素直に。

その胸へ。

入った。

ぎゅっと。

抱きしめられる。

「……ママって」

「うん」

「呼んでもらえなかった」

「そっか」

「嫌いって」

「言われた」

陽向の腕が。

少し。

強くなる。

「そっか」

「大嫌いって」

「うん」

「……ちょっと」

「うん」

「痛かった」

「そりゃ痛いよ」

その一言に。

涙が。

出た。

陽向は。

『本気じゃないよ』

とも。

『子どもなんだから仕方ない』

とも。

言わなかった。

痛かったね。

それだけ。

「でも」

私は。

陽向の胸で。

笑う。

「会いたかったって」

「言ってくれた」

「……」

「また会ってもいいって」

「……そっか」

陽向が。

嬉しそうに。

笑った。

「よかったじゃん」

「うん」

「今日」

「すごく」

「ママだったと思う」

「どうして?」

「ママって」

陽向が。

背中を撫でる。

「好かれるだけじゃないって」

「この前」

「言ってくれたでしょ」

「うん」

「今日」

「分かった」

私は。

少し。

陽向から離れる。

「子どもが」

「怒って」

「嫌いって言える場所でいるのも」

「ママなんだなって」

陽向が。

少し。

目を細める。

「うん」

「ずっと」

「いい子で」

「ママ大好きって」

「言わせることが」

「親子じゃないんだね」

「……」

「腹立ったなら」

「腹立ったって」

「言ってもらって」

「それでも」

胸に。

手を置く。

「大好きって」

「返せる人でいたい」

陽向が。

私を見る。

そして。

ぽつり。

「美月」

「何?」

「俺が」

「嫌いって言ったら?」

「え?」

「試しに」

「嫌」

「即答!?」

「陽向に言われたら普通に傷つく!」

「あはははっ!」

「笑わないで!」

いつもの。

大きな笑い声。

私も。

笑った。

◇◇◇

そのとき。

スマートフォンが。

震えた。

夫。

私は。

陽向の隣で。

メッセージを開いた。

『さっき』

続けて。

『あの子が、寝る前に言っとった』

胸が。

ざわつく。

『顔違うけど、やっぱりママかもしれんって』

「……」

涙が。

一気に。

溢れた。

陽向が。

画面を見る。

「美月」

「うん」

さらに。

もう一通。

『次会ったら、もう少し話したいって』

私は。

口元を。

手で押さえた。

今日。

ママって。

呼んでもらえなくても。

ちゃんと。

届いていた。

「……よかった」

陽向が。

頭を。

撫でてくれる。

「うん」

「よかった」

私は。

何度も。

頷いた。

そして。

その下。

さらに。

夫から。

届く。

『あと』

『一番小さい子が、今日その話を聞いとった』

指が。

止まる。

『ママに会う?って聞いたら』

次の文字。

読むのが。

怖い。

でも。

開く。

『「ママってなに?」って聞かれた』

「……」

胸が。

止まった。

陽向も。

何も言わない。

一番小さい子。

やっぱり。

覚えていない。

私は。

自分が。

思っていた以上に。

その言葉に。

傷ついていた。

「……そっか」

声が。

震える。

「ママって」

「何かも」

「分かんないんだ」

陽向の手が。

私の背中へ。

触れる。

私は。

唇を噛んだ。

泣かない。

そう。

思った。

でも。

無理だった。

涙が。

落ちる。

だって。

あの子を。

抱いた。

生まれた日。

毎日。

抱っこした。

泣いたら。

あやした。

眠った顔を。

何度も。

見た。

私にとっては。

全部。

昨日みたいなのに。

あの子にとって。

私は。

もう。

『ママ』という言葉すら。

記憶の中に。

残っていないのかもしれない。

「……陽向」

「うん」

「これ」

声が。

崩れる。

「一番」

「怖かったやつ」

陽向は。

何も。

否定しなかった。

ただ。

私を。

抱きしめた。

「……うん」

そして。

私は。

まだ知らなかった。

一番小さな子との再会が。

これまでの。

どの再会とも違う。

『ママを思い出してもらう時間』

ではなく。

――もう一度。

――私をママとして知ってもらう時間。

になることを。