目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

夫から。

『一人、会ってみたいって言い出した』

そう連絡が来た。

その翌日。

私は。

朝から。

落ち着かなかった。

前に会った子は。

自分から。

確かめたいと。

来てくれた。

でも。

今度の子は。

少し違うらしい。

『ママかもしれないなら会いたい』

そう言ったあと。

すぐに。

『でも怖い』

とも。

言ったという。

その気持ち。

当たり前だと思う。

私だって。

鏡の中に。

知らない顔が映ったとき。

怖かった。

その知らない顔の人が。

突然。

『ママだよ』

なんて。

現れる。

子どもからすれば。

もっと。

怖いかもしれない。

「……無理させたくないな」

スマートフォンを。

握りながら呟く。

すると。

陽向から。

メッセージが届いた。

『今日だよな?』

『うん』

『緊張してる?』

私は。

少し考えて。

『してる』

と送る。

すぐ。

『そっか』

それだけ。

以前なら。

『大丈夫』

とか。

『絶対うまくいく』

とか。

言ってほしかったかもしれない。

でも。

今は。

分かる。

陽向が。

簡単に。

大丈夫と言わない理由。

まだ。

分からないから。

代わりに。

少しして。

もう一通。

『終わったら話聞く』

胸が。

温かくなった。

『うん』

私は。

そう返した。

◇◇◇

待ち合わせは。

前と同じように。

人目の少ない場所。

夫から。

『着いた』

と連絡が来る。

私は。

大きく。

息を吸った。

そして。

扉を開けた。

「……」

夫の隣。

小さな身体が。

ぴったりと。

夫にくっついている。

私を見るなり。

一歩。

後ろへ。

下がった。

胸が。

痛む。

でも。

私は。

近づかなかった。

「こんにちは」

なるべく。

優しく。

声をかける。

返事は。

ない。

夫が。

小さく。

「大丈夫」

と。

声をかける。

その子は。

私を。

じっと見たまま。

「……ママじゃない」

小さく。

言った。

「うん」

私は。

頷いた。

夫が。

私を見る。

でも。

私は。

続けた。

「顔はね」

「ママじゃないよね」

その子の目が。

少し。

揺れる。

「ママの顔」

「違うもん」

「うん」

「声も」

「違う」

「うん」

「だから」

私は。

しゃがんだ。

少しでも。

目線を。

近くする。

でも。

距離は。

縮めない。

「怖かったら」

「近くに来なくていいよ」

「……」

「今日は」

「見るだけでもいい」

「……」

「帰りたくなったら」

「帰っていいよ」

夫が。

少し。

驚いた顔をした。

きっと。

以前の私なら。

ここまで来たんだから。

少しは。

話してほしい。

そんなふうに。

焦ったかもしれない。

でも。

今は。

この子の気持ちを。

先にしたい。

その子は。

しばらく。

私を見ていた。

そして。

「……ほんまに?」

「うん」

「帰っても?」

「うん」

私は。

笑った。

「ママは」

一瞬。

その言葉を。

使っていいのか。

迷う。

でも。

続けた。

「会いに来てくれただけで」

「嬉しいから」

「……」

その子が。

夫の服を。

ぎゅっと掴んだ。

◇◇◇

三人で。

少し離れて。

座った。

私は。

何も。

聞かなかった。

学校どう?

元気だった?

ご飯食べた?

聞きたいことは。

いっぱいある。

でも。

今は。

質問される側でいい。

しばらくして。

その子が。

小さく。

口を開いた。

「……ほんまに」

「うん?」

「ママなら」

「うん」

「僕の」

少し。

考える。

「好きな食べ物」

「知っとる?」

胸が。

きゅっとする。

「知ってるよ」

答えると。

すぐ。

警戒するような顔。

「何?」

私は。

少しだけ。

笑った。

「一番って」

「そのときによって」

「変わるでしょ」

「……」

「前は」

私は。

思い出す。

「これが一番って言ってたのに」

「次の週には」

「違うのが一番になってた」

夫が。

吹き出す。

「それはそう」

「パパ笑わんといて!」

少しだけ。

空気が。

柔らかくなる。

私は。

続ける。

「でも」

「ママが最後に覚えてるのは」

その子の。

好きだったものを。

答える。

目が。

少し。

大きくなった。

「……当たり」

「うん」

「でも」

すぐに。

首を振る。

「それくらい」

「パパでも知っとる」

「そうだね」

私は。

頷いた。

「じゃあ」

「もっと」

「難しいの聞いていいよ」

その子が。

眉を寄せる。

本気で。

考えている。

そして。

「僕が」

「うん」

「夜」

「怖くて寝れんかったとき」

胸が。

大きく鳴った。

「ママ」

「何してくれた?」

「……」

覚えてる。

あの日。

怖い夢を見たと。

泣きながら。

私のところへ来た。

抱っこできるくらいの。

まだ。

小さかった頃。

「最初」

私は。

ゆっくり。

話す。

「ママの布団に」

「入ってきた」

その子が。

少し。

息を止める。

「それで」

「ぎゅーって」

私は。

両腕を。

自分の身体に。

回す。

「抱っこみたいにして」

「……」

「背中」

「ずっと」

「さすってた」

「……」

「でも」

私は。

少し笑う。

「寝たと思って」

「手止めたら」

「まだやってって」

「言った」

その子の目が。

大きくなる。

「……」

「だから」

私は。

もう一度。

自分の腕を。

ぎゅっとする。

「寝るまで」

「ずっと」

「よしよししてた」

沈黙。

その子は。

夫を見る。

夫は。

首を振った。

「俺」

「それ知らん」

「……」

その子が。

また。

私を見る。

今度は。

さっきより。

少しだけ。

近い目。

「……何で知っとるん」

「ママだから」

私は。

それだけ。

言った。

◇◇◇

「……でも」

しばらくして。

その子が。

唇を尖らせる。

「ママなら」

「うん」

「なんで」

声が。

震える。

「こんな顔なん」

胸が。

痛い。

「分からない」

私は。

正直に答えた。

「ママも」

「分からない」

「……」

「事故にあって」

「目が覚めたら」

「この顔だった」

「怖くなかったん?」

「怖かったよ」

「……」

「鏡見て」

私は。

小さく笑う。

「誰これって」

「思った」

その子が。

少しだけ。

こちらを見る。

「ママも?」

「うん」

「ママも」

胸に。

手を置く。

「ずっと」

「元の顔に」

「戻りたいって」

「思ってた」

「……」

「だって」

涙が。

少し。

滲む。

「この顔じゃ」

「みんなに」

「ママって」

「分かってもらえないと思ったから」

その子の。

目も。

少し赤くなる。

「でも」

私は。

涙を拭う。

「星も」

「前に会った子も」

「ちゃんと」

「見つけてくれた」

「……」

「だから」

「あなたも」

無理には。

言わない。

「今日」

「ママって思えなくても」

「大丈夫」

その子の顔が。

くしゃっと。

歪んだ。

「……ずるい」

「え?」

「そんなこと」

「……」

「ママも」

「言っとった」

「……」

胸が。

止まりそうになる。

「何て?」

「できんくても」

「今日はできんかっただけって」

「……」

「次できたらいいって」

涙が。

溢れた。

ああ。

言ってた。

子どもが。

何かできなくて。

落ち込んだとき。

何度も。

「できなかったんじゃなくて」

「今日はできなかっただけ」

そう。

言っていた。

「……覚えてたんだ」

「うん」

「そっか」

もう。

泣きそう。

でも。

その子は。

もっと。

泣きそうな顔をしていた。

◇◇◇

「……一個」

その子が。

小さく言う。

「お願いしていい?」

「うん」

何でも。

と言いそうになって。

止める。

「できることなら」

そう。

言い直す。

その子は。

しばらく。

迷った。

そして。

両腕を。

ほんの少し。

広げた。

「……抱っこ」

息が。

止まった。

「え?」

「ママなら」

声が。

震える。

「抱っこ」

「してほしい」

涙が。

一気に。

溢れた。

私は。

すぐに。

駆け寄りたかった。

でも。

聞く。

「今?」

その子が。

頷く。

「うん」

「本当に?」

もう一度。

頷く。

「……うん」

私は。

ゆっくり。

近づいた。

そして。

両腕を。

広げる。

一瞬。

迷ったように。

立ち止まる。

でも。

次の瞬間。

小さな身体が。

私の胸に。

飛び込んできた。

「……っ」

抱きしめる。

懐かしい。

身体の。

大きさは。

変わった。

前より。

重い。

前より。

背が高い。

でも。

抱きしめたときの。

感覚。

「……」

腕の中に。

すっぽり。

入ってくる感じ。

頭を。

胸に。

押しつける感じ。

全部。

覚えている。

私は。

背中を。

ゆっくり。

撫でた。

一回。

二回。

何度も。

「……これ」

腕の中から。

声がする。

「うん?」

「ママの抱っこ」

「……」

涙で。

視界が。

ぼやける。

「分かる?」

「うん」

服を。

ぎゅっと。

掴まれる。

「顔」

「違うのに」

「うん」

「声も」

「違うのに」

「うん」

「抱っこ」

声が。

泣き声に。

変わる。

「ママや」

もう。

我慢できなかった。

「うん」

私は。

強く。

抱きしめた。

「ママだよ」

「……」

「ずっと」

「会いたかったよ」

「……ママ」

「うん」

「ほんまに」

「ママなん?」

「うん」

「ほんまに?」

「うん」

何回でも。

答える。

「ママ」

「うん」

「ママ!」

「うん」

そのたび。

腕に。

力が入る。

夫が。

少し離れたところで。

顔を。

手で覆っていた。

◇◇◇

しばらくして。

その子は。

私の腕の中から。

顔を上げた。

涙で。

ぐしゃぐしゃ。

「ママ」

「何?」

「なんで」

「うん」

「もっと早く」

「来てくれんかったん」

胸が。

痛む。

「怖かった」

私は。

正直に答える。

「信じてもらえないのが」

「……」

「みんなを」

「怖がらせるのも」

「嫌だった」

「……」

「でも」

私は。

頬の涙を。

親指で。

そっと拭う。

「会いたかった」

「毎日」

「……」

「みんなのこと」

「考えてた」

「ほんま?」

「ほんと」

「僕も?」

「当たり前でしょ」

私は。

少し笑う。

「一人も」

「忘れたことないよ」

その子が。

また。

泣く。

「……僕」

「うん」

「ママのこと」

「忘れそうで」

胸が。

ぎゅっと。

締めつけられた。

「顔とか」

「うん」

「声とか」

「少しずつ」

「……」

「思い出せんくなったら」

「どうしようって」

私は。

その子を。

もう一度。

抱きしめた。

「忘れてもいいよ」

身体が。

ぴくっと。

動く。

「え?」

「顔」

「忘れてもいい」

「声も」

「……」

「だって」

私は。

背中を。

撫でる。

「今」

「こうして」

「また会えたから」

「……」

「昔のママを」

「全部覚えてなくても」

「ママが」

「あなたのこと」

「覚えてる」

「……」

「それで」

「いいよ」

その子が。

私の胸に。

顔を埋めた。

「……やっぱり」

「何?」

「ママや」

私は。

泣きながら。

笑った。

「うん」

◇◇◇

少し。

落ち着いてから。

三人で。

ジュースを飲んだ。

その子は。

さっきまでの。

警戒が。

嘘みたいに。

私の隣に。

ぴったり。

座っている。

「近いね」

私が笑うと。

「ダメ?」

「ダメじゃない」

「じゃあいいやん」

「ふふっ」

夫が。

向かいから。

その様子を見る。

「……ほんま」

「何?」

「すごいな」

「何が?」

「顔」

「全然違うのに」

「うん」

「子どもら」

「分かるんやな」

私も。

不思議だった。

でも。

星が言っていた。

――ここが、ママだって言ってる。

きっと。

記憶って。

顔だけじゃない。

抱きしめ方。

手の温度。

言葉をかける順番。

心配するときの顔。

間の取り方。

そういう。

何でもないものを。

子どもは。

思っている以上に。

覚えているのかもしれない。

「パパ」

隣から。

声。

「何?」

「他の子にも」

「うん」

「ママやったって」

「言っていい?」

私は。

すぐに。

口を挟まなかった。

夫も。

少し考える。

「お前が」

「言いたいなら」

「ええよ」

「でも」

私は。

優しく言う。

「信じろって」

「言わなくていいよ」

「……」

「怖いって思う子も」

「いるから」

「うん」

「自分が会って」

「どう思ったかだけ」

「話してあげて」

その子が。

考える。

「じゃあ」

「うん」

「抱っこしたら」

「ママやったって言う」

私は。

思わず笑った。

「それでいいの?」

「うん」

そして。

少し。

得意そうな顔。

「ママの抱っこ」

「分かるもん」

また。

泣きそうになった。

◇◇◇

帰り際。

「ママ」

「うん」

その子が。

私の袖を。

掴む。

「次」

「いつ会える?」

胸が。

大きく鳴る。

「会いたいとき」

「え?」

「言って」

私は。

笑った。

「ママ」

「予定合わせるから」

「仕事あっても?」

「仕事ある日は」

「別の日にする」

「……」

「ちゃんと」

「会える日」

「作るよ」

その子が。

嬉しそうに。

頷いた。

そして。

もう一度。

ぎゅっと。

抱きついてくる。

私も。

抱きしめる。

「じゃあね」

「うん」

「ママ」

「またね」

その言葉。

またね。

今度が。

ある。

それだけで。

こんなにも。

嬉しい。

◇◇◇

夜。

陽向が。

私の部屋へ来た。

「どうだった?」

「……」

私は。

何も言わず。

陽向へ。

両腕を広げた。

「え?」

「抱っこ」

「……」

陽向が。

一瞬。

固まる。

「今?」

「うん」

「いいの?」

「うん」

次の瞬間。

優しく。

抱きしめられる。

私は。

その胸に。

顔を埋めた。

「今日ね」

「うん」

「抱っこしてって」

「言われた」

陽向の腕が。

少し。

強くなる。

「そっか」

「それで」

涙が。

出る。

「抱っこしたら」

「……」

「ママの抱っこだって」

「言ってくれた」

陽向が。

大きく。

息を吐いた。

「よかったな」

「うん」

「顔違うのに」

「うん」

「声も違うのに」

「うん」

私は。

陽向の服を。

握る。

「分かってくれた」

「そっか」

「私ね」

「うん」

「ずっと」

少し。

泣きながら笑う。

「ママって」

「顔とか」

「名前とか」

「そういうものだと」

「思ってたのかも」

「うん」

「でも」

「今日」

「違うんだって」

「思った」

陽向が。

背中を。

ゆっくり撫でてくれる。

「何が?」

「抱きしめ方も」

「声のかけ方も」

「その子を」

「ずっと見てきた時間も」

「……」

「全部」

胸に。

手を置く。

「ママなんだね」

陽向が。

少し笑った。

「うん」

「美月」

「何?」

「俺」

「星ちゃんに会ったときから」

「思ってたけど」

「うん」

「子どもたちの前の美月」

少し。

間。

「すげえ好き」

私は。

顔を上げる。

「急に何?」

「だって」

陽向が。

笑う。

「ちゃんと」

「ママなんだよ」

「……」

「俺が知らなかった」

「美月の三十四年が」

「見える感じする」

胸が。

温かくなる。

「そっか」

「うん」

「じゃあ」

「?」

私は。

少し。

意地悪く笑う。

「もっと」

「子どもたちの話」

「聞く?」

陽向の顔が。

ぱっと。

明るくなる。

「聞く!」

「食いつきすごい」

「だって」

「俺」

少し。

照れながら。

「美月のこと」

「全部知りたいし」

また。

胸が。

鳴った。

◇◇◇

その夜。

夫から。

新しいメッセージ。

『今日会った子が、帰ってからずっとママの話しとる』

私は。

思わず。

笑った。

続けて。

『それ聞いて、もう一人が会ってみたいって言っとる』

「……」

また。

一人。

私を。

見つけようとしてくれている。

でも。

その下に。

もう一文。

『ただ、一番小さい子はまだ難しいかもしれん』

指が。

止まった。

一番小さい子。

私がいなくなったとき。

まだ。

あまりにも。

幼かった。

私の顔を。

どれくらい。

覚えているんだろう。

声を。

抱っこを。

覚えているんだろうか。

もしかしたら。

私を。

母親だと。

分からないかもしれない。

胸が。

少し。

痛む。

でも。

今は。

先に。

結論を出さない。

私は。

夫へ。

返信した。

『うん。無理に会わせなくていいよ』

そして。

少し考えて。

もう一文。

『会いたいって思ってくれたときまで待つ』

送信。

陽向が。

隣から。

画面を見る。

「待てる?」

「……うん」

私は。

少し笑った。

「会いたいけど」

「うん」

「すごく」

「うん」

「でも」

スマートフォンを。

胸に抱く。

「ママだから」

今度は。

その言葉に。

迷いはなかった。

「待つよ」

顔が違っても。

声が違っても。

抱きしめれば。

分かってくれる子がいる。

でも。

分からない子がいても。

それでいい。

私は。

何度でも。

待つ。

何度でも。

会いに行く。

この子たちが。

自分の気持ちで。

もう一度。

私を。

『ママ』と呼べる日まで。