星に。
本当のことを話してから。
三日後。
私たちは。
とんでもなく。
気まずい食事会を。
開こうとしていた。
参加者。
私。
娘の星。
そして。
私の彼氏。
天城陽向。
「……」
私は。
個室のテーブルで。
一人。
頭を抱えていた。
情報だけ並べると。
本当に。
意味が分からない。
前の人生で。
娘と一緒に。
テレビで応援していた。
最推しアイドル。
その人が。
今。
私の彼氏。
そして。
今日。
娘に。
『ママの彼氏』として。
紹介する。
「……何この人生」
思わず。
呟く。
すると。
スマートフォンが震えた。
陽向。
『着いた』
続けて。
星。
『私も着いた』
「……二人同時」
嫌な予感しかしない。
私は。
二人へ。
同じメッセージを送った。
『個室だからそのまま来て』
数分後。
コンコン。
「はい」
ドアが。
ゆっくり開く。
最初に。
顔を出したのは。
星。
「……ママ」
「うん」
「緊張する」
「私も」
「帰っていい?」
「ダメ」
「だよね」
星が。
そろそろと。
部屋へ入ってくる。
その直後。
もう一度。
ノック。
「どうぞ」
今度は。
陽向。
帽子。
眼鏡。
マスク。
完全装備。
ドアを閉めてから。
全部外す。
「……お疲れ」
私が言う。
「お疲れ」
そして。
陽向が。
星を見る。
星も。
陽向を見る。
「……」
「……」
沈黙。
長い。
「えっと」
私が。
口を開く。
「二人とも」
「前に会ってるよね?」
「会ってる」
陽向。
「会ってます」
星。
「じゃあ」
私は。
無理やり笑う。
「今日は改めて」
一度。
息を吸う。
「娘の星です」
陽向が。
ものすごく。
真面目な顔になる。
「……はい」
「で」
私は。
今度は。
陽向を見る。
「彼氏の陽向です」
星が。
両手で。
顔を覆った。
「無理!」
「まだ何も始まってないよ!?」
「ママ!」
「何?」
「言葉にしないで!」
「何を?」
「彼氏の陽向ですって!」
陽向まで。
耳が。
真っ赤。
「俺もちょっと恥ずかしい」
「何で陽向まで!」
「だって」
陽向が。
星を指す。
「この子」
「俺のファンなんでしょ?」
星が。
勢いよく。
顔を上げる。
「はい!」
「返事だけ速い」
私が。
思わず言う。
「だって陽向くんに聞かれたから!」
「ママより返事いいじゃん」
「当たり前でしょ!」
「当たり前なんだ……」
すると。
陽向が。
急に。
胸を押さえた。
「待って」
「何?」
「俺」
ものすごく。
複雑そうな顔。
「彼女の娘から」
「陽向くんって呼ばれて」
「ファンですって言われて」
「でもその子の母親と付き合ってるんだよな?」
「そう」
「……情報量」
「多いでしょ?」
「多すぎ」
星も。
真顔で頷いた。
「私もです」
「星も?」
「推しが」
陽向を見る。
「ママの彼氏」
次に。
私を見る。
「しかもママは」
言葉を止める。
「……今、一ノ瀬紗良さんの見た目」
「うん」
「もう」
星が。
両手を広げる。
「意味分かんない!」
「私も!」
陽向が。
吹き出した。
「あはははっ!」
「笑わないでください!」
「ごめんごめん!」
でも。
陽向が笑ったことで。
少しだけ。
空気が。
柔らかくなった。
◇◇◇
「とりあえず」
私は。
メニューを開く。
「ご飯食べよ」
「賛成」
陽向が。
すぐに乗ってくる。
「星、何食べる?」
「……」
返事がない。
「星?」
見ると。
星は。
メニューではなく。
陽向を見ている。
「……本物」
「この前も言ってたよ」
「でも」
星が。
小声になる。
「今日は」
「?」
「ママの彼氏として」
陽向を見る。
「隣にいる……」
「……」
陽向が。
また。
顔を赤くする。
「星ちゃん」
「はい!」
「その」
咳払い。
「彼氏彼氏言うの」
「俺もまだ慣れてない」
「え?」
星が。
目を丸くする。
「陽向くんでも?」
「でもって何」
「だって」
少し。
照れながら。
「何でも余裕ありそうだから」
「ないない」
陽向が。
首を振る。
「美月相手だと」
「結構ない」
「ちょっと!」
私が。
止める。
星の視線が。
ゆっくり。
私に移る。
「……美月」
「あ」
陽向が。
口を押さえる。
遅い。
星は。
じっと。
陽向を見る。
「ママのこと」
「美月って呼んでるんですね」
「……はい」
なぜか。
陽向。
敬語。
「いつから?」
「星」
「何?」
「尋問しないで」
「だって気になる!」
陽向が。
少し笑う。
「最初は紗良って呼んでた」
「……」
星の表情が。
少し。
変わった。
「でも」
陽向は。
私を見る。
「今は」
「美月」
「……」
「俺が話してるのは」
「美月だから」
星が。
黙った。
私は。
少し。
恥ずかしくなる。
でも。
星の顔を見ると。
何か。
嬉しそうだった。
「……そっか」
小さな声。
「星?」
「ううん」
「何?」
「ちゃんと」
私を見る。
「ママのこと」
「ママとして」
「見てくれてるんだなって」
胸が。
温かくなる。
陽向は。
少し。
困ったように笑った。
「俺にとっては」
「高瀬美月だから」
「……」
「一ノ瀬紗良の身体でも」
「そこは」
「変わんない」
星の目に。
少しだけ。
涙が浮かんだ。
「ありがとう……ございます」
「え?」
「ママを」
星が。
少し笑う。
「見つけてくれて」
今度は。
陽向が。
何も言えなくなった。
私は。
胸が。
ぎゅっと。
締めつけられた。
見つけてくれた。
最初は。
信じてもらえなかった。
傷つけられたことも。
あった。
それでも。
最後には。
陽向は。
私を。
私として。
見つけてくれた。
「……俺のほうこそ」
陽向が。
少しだけ。
目を細める。
「美月のこと」
「いっぱい教えてくれて」
「ありがとう」
「私?」
「うん」
「星ちゃんが」
「昔の美月の話してくれるから」
私を見る。
「俺の知らない美月」
「知れる」
星が。
ぱっと。
顔を上げた。
「いっぱいあります!」
「星!」
嫌な予感。
「何?」
「何でも話さないでよ?」
「えー」
「何その反応」
陽向が。
すごく。
楽しそうに身を乗り出す。
「聞きたい」
「陽向!」
「昔の美月」
「聞きたい」
「聞かなくていい!」
「何で?」
「恥ずかしい!」
星が。
ニヤッとする。
「じゃあ」
「何?」
「ママが」
一度。
私を見る。
「陽向くんのライブ映像見ながら」
「ちょっと待って」
「『今日ビジュいい!』って」
「星!」
陽向が。
大笑いする。
「あはははっ!」
「やめて!」
「他にも」
「まだあるの!?」
「『この髪型好き』とか」
「星ー!」
「『今日めっちゃ可愛い』とか」
陽向が。
テーブルに。
突っ伏した。
肩が。
震えている。
「笑いすぎ!」
「いや」
顔を上げる。
ものすごく。
嬉しそう。
「嬉しい」
「……」
「昔から」
私を見る。
「そんな見てたんだ」
「……ファンだったから」
「俺の?」
「そうだよ!」
「今も?」
「……」
言葉に詰まる。
星が。
こちらを見る。
陽向も。
こちらを見る。
「……今は」
私は。
小さく息を吸った。
「ファンでもあるけど」
陽向を見る。
「それより」
顔が。
熱い。
「彼氏として」
「好き」
陽向が。
固まる。
星も。
固まる。
「……」
「……」
「……」
何この沈黙。
最初に。
爆発したのは。
星だった。
「ママぁぁぁ!」
「何!?」
「私の前で言わないで!」
「聞いたのそっちでしょ!」
「推しとママの恋愛!」
「処理できない!」
陽向は。
両手で。
顔を覆っている。
「陽向までどうしたの」
「いや」
手の隙間から。
「俺」
「美月に」
「彼氏として好きって」
「人前で言われたの初めて」
「……」
「めっちゃ嬉しい」
「もうやだ!」
私は。
頭を抱えた。
◇◇◇
食事が。
運ばれてくる。
陽向は。
肉料理。
私は。
パスタ。
星は。
オムライス。
「いただきます」
三人。
揃って。
手を合わせる。
その瞬間。
私は。
少しだけ。
昔を思い出した。
家族で。
食卓を囲んだ日。
星が。
まだ。
小さかった頃。
「いただきます」
と。
大きな声で言って。
食べていた。
今。
隣には。
陽向。
向かいには。
星。
昔とは。
全然違う。
それでも。
また。
娘と。
同じテーブルで。
ご飯を食べている。
涙が。
出そうになった。
「ママ?」
「ん?」
星が。
すぐ気づく。
「泣く?」
「泣かない」
「本当に?」
「……ちょっと泣くかも」
陽向が。
何も言わず。
ティッシュを。
差し出してくる。
「ありがとう」
「うん」
星が。
私を見る。
「何で?」
「だって」
私は。
少し笑う。
「また星と」
「ご飯食べてるなって」
「……」
「それだけで」
胸が。
いっぱいになる。
星も。
少し。
目を潤ませた。
「私も」
「……うん」
「ママと」
お箸を置く。
「またこうして」
「ご飯食べられると思わなかった」
「うん」
「ずっと」
声が。
少し震える。
「もう二度と」
「できないと思ってた」
私は。
テーブルの下。
そっと。
星の手に。
触れた。
星が。
握り返してくれる。
「……ごめ」
言いかけて。
止まる。
星を見る。
「寂しかったね」
星の顔が。
崩れた。
「……うん」
それだけ。
何度も。
頷く。
「すごく」
「うん」
「ママがいなくなってから」
「うん」
「家」
声が。
小さくなる。
「変わった」
胸が。
ざわつく。
私は。
無意識に。
陽向を見る。
陽向も。
黙って。
聞く姿勢になる。
「どう変わったの?」
私は。
優しく。
聞いた。
星は。
少し。
迷った。
「みんな」
「普通にしようとしてた」
「……うん」
「パパも」
「弟たちも」
「……」
「でも」
オムライスを。
見つめる。
「普通じゃないんだよね」
「うん」
「ママの場所」
「ずっと空いてるし」
胸が。
痛い。
「弟たちも」
「たまに」
「ママって言うし」
「……」
「一番小さい子なんて」
星が。
唇を噛む。
「まだ」
「ママのこと」
「ちゃんと覚えてるのかなって」
涙が。
一気に。
溢れそうになる。
「……」
私は。
何も言えない。
他の子どもたち。
ずっと。
考えていた。
会いたい。
星だけじゃない。
全員。
抱きしめたい。
でも。
星に。
真実を話すだけでも。
あれほど怖かった。
他の子たちには?
年齢も。
受け止め方も。
違う。
「ママ」
星が。
私を見る。
「会いたい?」
質問の意味は。
分かっている。
弟たちに。
会いたい?
答えなんて。
最初から。
決まっている。
「……会いたい」
声が。
震える。
「すごく」
「じゃあ」
星が。
言う。
「会おうよ」
「……」
「でも」
反射的に。
言葉が出る。
「混乱するかもしれない」
「うん」
「信じてもらえないかも」
「うん」
「それに」
「パパにも」
胸が。
重くなる。
夫。
前の人生の。
家族。
私は。
今。
陽向を好きになっている。
その事実も。
いつか。
向き合わなければならない。
星が。
真っ直ぐ。
私を見る。
「ママ」
「何?」
「また」
「?」
「みんなのためにって」
「一人で決めようとしてる」
「……」
息が。
止まった。
陽向が。
横で。
小さく。
笑った。
「さすが娘」
「陽向」
「いや」
笑う。
「俺も同じこと言おうとした」
私は。
二人を見る。
「……似てる」
「何が?」
「私に言うこと」
二人が。
顔を見合わせる。
「だって」
星が言う。
「会いたいんでしょ?」
「……うん」
「弟たちだって」
「ママに会いたいと思う」
「……」
「信じるかどうかは」
星が。
続ける。
「会ってから」
「みんなが決めればいいじゃん」
胸の奥。
何かが。
大きく揺れる。
――私が決めるんじゃない。
そうだ。
星のときも。
私は。
混乱させるからと。
勝手に。
黙ろうとしていた。
でも。
星には。
星の気持ちがあった。
他の子どもたちにも。
同じ。
「……怖い」
私は。
正直に言った。
星が。
頷く。
「うん」
陽向も。
頷く。
「怖いよな」
「でも」
私は。
手を握る。
「会いたい」
「うん」
星が。
少し笑う。
「じゃあ」
「一人ずつでも」
「考えよう」
「……うん」
「私も」
胸を張る。
「手伝うから」
涙が。
一滴。
落ちた。
「ありがとう」
今度は。
素直に。
言えた。
◇◇◇
食事が。
終わるころ。
星が。
突然。
陽向を見る。
「あの」
「ん?」
陽向が。
少し。
緊張する。
「陽向くん」
「はい」
また。
敬語。
「一個」
星が。
真剣な顔になる。
「聞いていいですか?」
「……どうぞ」
私は。
嫌な予感。
何を。
聞くの?
星は。
陽向を。
まっすぐ見た。
「ママの」
「うん」
「どこが好きなんですか?」
「星!?」
「聞きたい!」
「聞かなくていい!」
陽向の顔が。
一気に。
赤くなる。
「えっと」
「答えなくていいから!」
「ママ黙って」
「娘に黙ってって言われた!」
星は。
完全に。
真剣。
「だって」
「私」
少し。
唇を尖らせる。
「ママが」
「また傷つくの嫌だから」
「……」
空気が。
変わった。
星。
きっと。
前の人生の私を。
見ていた。
私が。
我慢していたことも。
全部じゃなくても。
何となく。
感じていたのかもしれない。
「ちゃんと」
星が。
陽向を見る。
「大事にしてくれる人なのかなって」
陽向の表情から。
照れが。
消えた。
「……うん」
静かに。
頷く。
「大事にしたい」
星が。
じっと見る。
陽向も。
逃げない。
「美月」
私を見る。
「すぐ」
「自分より」
「他の人優先するし」
「……」
「何かあったら」
「自分が悪いって思うし」
「うん」
「一人で」
「いなくなろうとしたこともある」
星が。
私を見る。
「ママ」
「……はい」
少し。
怒られている気分。
陽向が。
続ける。
「だから」
「俺が」
「全部守るとか」
「そういうことは」
「言いたくない」
「……」
星が。
少し。
目を丸くする。
「美月は」
陽向が。
私のほうを見る。
「自分で立てる人だから」
胸が。
鳴る。
「でも」
「隣にはいたい」
「……」
「美月が」
「大丈夫じゃないって言ったら」
「一緒に考えたい」
「嬉しいって言ったら」
「一緒に喜びたい」
「……」
「美月の子どもたちも」
「大切にしたい」
星の目が。
揺れる。
「俺が」
「父親になるとか」
「そんな勝手なことじゃなくて」
「……」
「美月にとって」
「大切な人だから」
「俺も」
「大切にしたい」
もう。
私は。
泣いていた。
「陽向……」
「あと」
「まだあるの?」
陽向が。
少し。
照れた顔に戻る。
「笑うと」
「めちゃくちゃ可愛い」
「もういい!」
星が。
吹き出した。
「あははっ!」
「星まで!」
「だって急に!」
陽向も。
笑う。
私だけ。
顔が。
真っ赤。
「二人とも嫌い」
「え!」
陽向が。
大げさに。
ショックを受ける。
「今のはダメ!」
「何が?」
「彼氏に嫌いはダメ!」
「冗談!」
「じゃあ好き?」
「星の前で聞かないで!」
「また始まった」
星が。
笑っている。
私は。
恥ずかしくて。
でも。
嬉しくて。
胸が。
いっぱいだった。
◇◇◇
帰り。
店の前。
星とは。
途中で別れる。
「ママ」
「うん」
「今日」
「楽しかった」
「私も」
「また」
少し。
照れながら。
「三人でご飯しようね」
「うん」
「陽向くんも」
陽向を見る。
「はい」
「何で敬語なんですか?」
「いや」
陽向が。
頭を掻く。
「彼女の娘」
「やっぱ緊張する」
「ふふっ」
星が。
笑う。
そして。
少し。
真面目な顔になる。
「陽向くん」
「ん?」
「ママ」
「よろしくお願いします」
「……」
私は。
息を止めた。
陽向も。
驚いた顔。
でも。
すぐに。
優しく笑う。
「うん」
「こちらこそ」
そして。
少し考えて。
「星ちゃんも」
「?」
「美月のこと」
「これからも」
「いっぱい教えて」
星が。
笑った。
「任せてください」
「余計なことは教えないで!」
二人とも。
笑った。
「じゃあね、ママ」
その呼び方。
まだ。
聞くたび。
胸が。
いっぱいになる。
「うん」
私は。
笑う。
「またね、星」
星が。
少し歩いて。
振り返る。
手を振る。
私も。
手を振った。
娘が。
見えなくなるまで。
◇◇◇
帰りの車。
陽向が。
ハンドルを握りながら。
言った。
「よかったな」
「うん」
私は。
窓の外を見る。
「すごく」
「……」
「夢みたい」
「うん」
「でも」
少し。
笑う。
「次は」
「他の子たち」
陽向が。
静かに。
頷いた。
「怖い?」
「……怖い」
「うん」
「でも」
私は。
胸に手を当てる。
「会いたい」
「そっか」
「それに」
「うん」
「星が言ってくれたから」
私は。
少し笑った。
「信じるかどうかは」
「子どもたちが決めればいいって」
「うん」
「私は」
「会いたいっていう気持ちまで」
「勝手に我慢しなくていいのかなって」
陽向が。
嬉しそうに笑う。
「美月」
「何?」
「めちゃくちゃ変わったな」
「そう?」
「うん」
「昔なら」
「会いたいけど迷惑だからやめとく」
「って言ってそう」
「……言うと思う」
「だろ?」
二人で。
笑う。
赤信号。
車が止まる。
陽向が。
私を見る。
「美月」
「何?」
「今日」
「星ちゃんに」
「よろしくお願いしますって」
「言われた」
「うん」
「……めっちゃ緊張した」
「そこ?」
「だって」
少し。
照れた顔。
「なんか」
「ちゃんと」
「美月の彼氏として」
「認めてもらったみたいで」
胸が。
温かくなる。
「嬉しかった?」
「めっちゃ」
「そっか」
「うん」
そして。
陽向が。
小さく。
笑う。
「頑張ろ」
「何を?」
「美月の彼氏」
「……」
「これからも」
私は。
その横顔を見る。
好き。
やっぱり。
何度でも。
そう思う。
「うん」
私は。
笑った。
「よろしくお願いします」
「またそれ?」
「ふふっ」
私の二度目の人生は。
少しずつ。
一度目の人生と。
繋がり始めていた。
失ったと思っていた。
母親としての時間。
新しく見つけた。
恋人としての時間。
どちらかを。
選ばなくてもいい。
両方。
私の人生。
そして。
次に。
私が会いたいと願ったのは。
星だけではない。
あの日。
置いてきてしまった。
私の。
大切な。
子どもたちだった。
本当のことを話してから。
三日後。
私たちは。
とんでもなく。
気まずい食事会を。
開こうとしていた。
参加者。
私。
娘の星。
そして。
私の彼氏。
天城陽向。
「……」
私は。
個室のテーブルで。
一人。
頭を抱えていた。
情報だけ並べると。
本当に。
意味が分からない。
前の人生で。
娘と一緒に。
テレビで応援していた。
最推しアイドル。
その人が。
今。
私の彼氏。
そして。
今日。
娘に。
『ママの彼氏』として。
紹介する。
「……何この人生」
思わず。
呟く。
すると。
スマートフォンが震えた。
陽向。
『着いた』
続けて。
星。
『私も着いた』
「……二人同時」
嫌な予感しかしない。
私は。
二人へ。
同じメッセージを送った。
『個室だからそのまま来て』
数分後。
コンコン。
「はい」
ドアが。
ゆっくり開く。
最初に。
顔を出したのは。
星。
「……ママ」
「うん」
「緊張する」
「私も」
「帰っていい?」
「ダメ」
「だよね」
星が。
そろそろと。
部屋へ入ってくる。
その直後。
もう一度。
ノック。
「どうぞ」
今度は。
陽向。
帽子。
眼鏡。
マスク。
完全装備。
ドアを閉めてから。
全部外す。
「……お疲れ」
私が言う。
「お疲れ」
そして。
陽向が。
星を見る。
星も。
陽向を見る。
「……」
「……」
沈黙。
長い。
「えっと」
私が。
口を開く。
「二人とも」
「前に会ってるよね?」
「会ってる」
陽向。
「会ってます」
星。
「じゃあ」
私は。
無理やり笑う。
「今日は改めて」
一度。
息を吸う。
「娘の星です」
陽向が。
ものすごく。
真面目な顔になる。
「……はい」
「で」
私は。
今度は。
陽向を見る。
「彼氏の陽向です」
星が。
両手で。
顔を覆った。
「無理!」
「まだ何も始まってないよ!?」
「ママ!」
「何?」
「言葉にしないで!」
「何を?」
「彼氏の陽向ですって!」
陽向まで。
耳が。
真っ赤。
「俺もちょっと恥ずかしい」
「何で陽向まで!」
「だって」
陽向が。
星を指す。
「この子」
「俺のファンなんでしょ?」
星が。
勢いよく。
顔を上げる。
「はい!」
「返事だけ速い」
私が。
思わず言う。
「だって陽向くんに聞かれたから!」
「ママより返事いいじゃん」
「当たり前でしょ!」
「当たり前なんだ……」
すると。
陽向が。
急に。
胸を押さえた。
「待って」
「何?」
「俺」
ものすごく。
複雑そうな顔。
「彼女の娘から」
「陽向くんって呼ばれて」
「ファンですって言われて」
「でもその子の母親と付き合ってるんだよな?」
「そう」
「……情報量」
「多いでしょ?」
「多すぎ」
星も。
真顔で頷いた。
「私もです」
「星も?」
「推しが」
陽向を見る。
「ママの彼氏」
次に。
私を見る。
「しかもママは」
言葉を止める。
「……今、一ノ瀬紗良さんの見た目」
「うん」
「もう」
星が。
両手を広げる。
「意味分かんない!」
「私も!」
陽向が。
吹き出した。
「あはははっ!」
「笑わないでください!」
「ごめんごめん!」
でも。
陽向が笑ったことで。
少しだけ。
空気が。
柔らかくなった。
◇◇◇
「とりあえず」
私は。
メニューを開く。
「ご飯食べよ」
「賛成」
陽向が。
すぐに乗ってくる。
「星、何食べる?」
「……」
返事がない。
「星?」
見ると。
星は。
メニューではなく。
陽向を見ている。
「……本物」
「この前も言ってたよ」
「でも」
星が。
小声になる。
「今日は」
「?」
「ママの彼氏として」
陽向を見る。
「隣にいる……」
「……」
陽向が。
また。
顔を赤くする。
「星ちゃん」
「はい!」
「その」
咳払い。
「彼氏彼氏言うの」
「俺もまだ慣れてない」
「え?」
星が。
目を丸くする。
「陽向くんでも?」
「でもって何」
「だって」
少し。
照れながら。
「何でも余裕ありそうだから」
「ないない」
陽向が。
首を振る。
「美月相手だと」
「結構ない」
「ちょっと!」
私が。
止める。
星の視線が。
ゆっくり。
私に移る。
「……美月」
「あ」
陽向が。
口を押さえる。
遅い。
星は。
じっと。
陽向を見る。
「ママのこと」
「美月って呼んでるんですね」
「……はい」
なぜか。
陽向。
敬語。
「いつから?」
「星」
「何?」
「尋問しないで」
「だって気になる!」
陽向が。
少し笑う。
「最初は紗良って呼んでた」
「……」
星の表情が。
少し。
変わった。
「でも」
陽向は。
私を見る。
「今は」
「美月」
「……」
「俺が話してるのは」
「美月だから」
星が。
黙った。
私は。
少し。
恥ずかしくなる。
でも。
星の顔を見ると。
何か。
嬉しそうだった。
「……そっか」
小さな声。
「星?」
「ううん」
「何?」
「ちゃんと」
私を見る。
「ママのこと」
「ママとして」
「見てくれてるんだなって」
胸が。
温かくなる。
陽向は。
少し。
困ったように笑った。
「俺にとっては」
「高瀬美月だから」
「……」
「一ノ瀬紗良の身体でも」
「そこは」
「変わんない」
星の目に。
少しだけ。
涙が浮かんだ。
「ありがとう……ございます」
「え?」
「ママを」
星が。
少し笑う。
「見つけてくれて」
今度は。
陽向が。
何も言えなくなった。
私は。
胸が。
ぎゅっと。
締めつけられた。
見つけてくれた。
最初は。
信じてもらえなかった。
傷つけられたことも。
あった。
それでも。
最後には。
陽向は。
私を。
私として。
見つけてくれた。
「……俺のほうこそ」
陽向が。
少しだけ。
目を細める。
「美月のこと」
「いっぱい教えてくれて」
「ありがとう」
「私?」
「うん」
「星ちゃんが」
「昔の美月の話してくれるから」
私を見る。
「俺の知らない美月」
「知れる」
星が。
ぱっと。
顔を上げた。
「いっぱいあります!」
「星!」
嫌な予感。
「何?」
「何でも話さないでよ?」
「えー」
「何その反応」
陽向が。
すごく。
楽しそうに身を乗り出す。
「聞きたい」
「陽向!」
「昔の美月」
「聞きたい」
「聞かなくていい!」
「何で?」
「恥ずかしい!」
星が。
ニヤッとする。
「じゃあ」
「何?」
「ママが」
一度。
私を見る。
「陽向くんのライブ映像見ながら」
「ちょっと待って」
「『今日ビジュいい!』って」
「星!」
陽向が。
大笑いする。
「あはははっ!」
「やめて!」
「他にも」
「まだあるの!?」
「『この髪型好き』とか」
「星ー!」
「『今日めっちゃ可愛い』とか」
陽向が。
テーブルに。
突っ伏した。
肩が。
震えている。
「笑いすぎ!」
「いや」
顔を上げる。
ものすごく。
嬉しそう。
「嬉しい」
「……」
「昔から」
私を見る。
「そんな見てたんだ」
「……ファンだったから」
「俺の?」
「そうだよ!」
「今も?」
「……」
言葉に詰まる。
星が。
こちらを見る。
陽向も。
こちらを見る。
「……今は」
私は。
小さく息を吸った。
「ファンでもあるけど」
陽向を見る。
「それより」
顔が。
熱い。
「彼氏として」
「好き」
陽向が。
固まる。
星も。
固まる。
「……」
「……」
「……」
何この沈黙。
最初に。
爆発したのは。
星だった。
「ママぁぁぁ!」
「何!?」
「私の前で言わないで!」
「聞いたのそっちでしょ!」
「推しとママの恋愛!」
「処理できない!」
陽向は。
両手で。
顔を覆っている。
「陽向までどうしたの」
「いや」
手の隙間から。
「俺」
「美月に」
「彼氏として好きって」
「人前で言われたの初めて」
「……」
「めっちゃ嬉しい」
「もうやだ!」
私は。
頭を抱えた。
◇◇◇
食事が。
運ばれてくる。
陽向は。
肉料理。
私は。
パスタ。
星は。
オムライス。
「いただきます」
三人。
揃って。
手を合わせる。
その瞬間。
私は。
少しだけ。
昔を思い出した。
家族で。
食卓を囲んだ日。
星が。
まだ。
小さかった頃。
「いただきます」
と。
大きな声で言って。
食べていた。
今。
隣には。
陽向。
向かいには。
星。
昔とは。
全然違う。
それでも。
また。
娘と。
同じテーブルで。
ご飯を食べている。
涙が。
出そうになった。
「ママ?」
「ん?」
星が。
すぐ気づく。
「泣く?」
「泣かない」
「本当に?」
「……ちょっと泣くかも」
陽向が。
何も言わず。
ティッシュを。
差し出してくる。
「ありがとう」
「うん」
星が。
私を見る。
「何で?」
「だって」
私は。
少し笑う。
「また星と」
「ご飯食べてるなって」
「……」
「それだけで」
胸が。
いっぱいになる。
星も。
少し。
目を潤ませた。
「私も」
「……うん」
「ママと」
お箸を置く。
「またこうして」
「ご飯食べられると思わなかった」
「うん」
「ずっと」
声が。
少し震える。
「もう二度と」
「できないと思ってた」
私は。
テーブルの下。
そっと。
星の手に。
触れた。
星が。
握り返してくれる。
「……ごめ」
言いかけて。
止まる。
星を見る。
「寂しかったね」
星の顔が。
崩れた。
「……うん」
それだけ。
何度も。
頷く。
「すごく」
「うん」
「ママがいなくなってから」
「うん」
「家」
声が。
小さくなる。
「変わった」
胸が。
ざわつく。
私は。
無意識に。
陽向を見る。
陽向も。
黙って。
聞く姿勢になる。
「どう変わったの?」
私は。
優しく。
聞いた。
星は。
少し。
迷った。
「みんな」
「普通にしようとしてた」
「……うん」
「パパも」
「弟たちも」
「……」
「でも」
オムライスを。
見つめる。
「普通じゃないんだよね」
「うん」
「ママの場所」
「ずっと空いてるし」
胸が。
痛い。
「弟たちも」
「たまに」
「ママって言うし」
「……」
「一番小さい子なんて」
星が。
唇を噛む。
「まだ」
「ママのこと」
「ちゃんと覚えてるのかなって」
涙が。
一気に。
溢れそうになる。
「……」
私は。
何も言えない。
他の子どもたち。
ずっと。
考えていた。
会いたい。
星だけじゃない。
全員。
抱きしめたい。
でも。
星に。
真実を話すだけでも。
あれほど怖かった。
他の子たちには?
年齢も。
受け止め方も。
違う。
「ママ」
星が。
私を見る。
「会いたい?」
質問の意味は。
分かっている。
弟たちに。
会いたい?
答えなんて。
最初から。
決まっている。
「……会いたい」
声が。
震える。
「すごく」
「じゃあ」
星が。
言う。
「会おうよ」
「……」
「でも」
反射的に。
言葉が出る。
「混乱するかもしれない」
「うん」
「信じてもらえないかも」
「うん」
「それに」
「パパにも」
胸が。
重くなる。
夫。
前の人生の。
家族。
私は。
今。
陽向を好きになっている。
その事実も。
いつか。
向き合わなければならない。
星が。
真っ直ぐ。
私を見る。
「ママ」
「何?」
「また」
「?」
「みんなのためにって」
「一人で決めようとしてる」
「……」
息が。
止まった。
陽向が。
横で。
小さく。
笑った。
「さすが娘」
「陽向」
「いや」
笑う。
「俺も同じこと言おうとした」
私は。
二人を見る。
「……似てる」
「何が?」
「私に言うこと」
二人が。
顔を見合わせる。
「だって」
星が言う。
「会いたいんでしょ?」
「……うん」
「弟たちだって」
「ママに会いたいと思う」
「……」
「信じるかどうかは」
星が。
続ける。
「会ってから」
「みんなが決めればいいじゃん」
胸の奥。
何かが。
大きく揺れる。
――私が決めるんじゃない。
そうだ。
星のときも。
私は。
混乱させるからと。
勝手に。
黙ろうとしていた。
でも。
星には。
星の気持ちがあった。
他の子どもたちにも。
同じ。
「……怖い」
私は。
正直に言った。
星が。
頷く。
「うん」
陽向も。
頷く。
「怖いよな」
「でも」
私は。
手を握る。
「会いたい」
「うん」
星が。
少し笑う。
「じゃあ」
「一人ずつでも」
「考えよう」
「……うん」
「私も」
胸を張る。
「手伝うから」
涙が。
一滴。
落ちた。
「ありがとう」
今度は。
素直に。
言えた。
◇◇◇
食事が。
終わるころ。
星が。
突然。
陽向を見る。
「あの」
「ん?」
陽向が。
少し。
緊張する。
「陽向くん」
「はい」
また。
敬語。
「一個」
星が。
真剣な顔になる。
「聞いていいですか?」
「……どうぞ」
私は。
嫌な予感。
何を。
聞くの?
星は。
陽向を。
まっすぐ見た。
「ママの」
「うん」
「どこが好きなんですか?」
「星!?」
「聞きたい!」
「聞かなくていい!」
陽向の顔が。
一気に。
赤くなる。
「えっと」
「答えなくていいから!」
「ママ黙って」
「娘に黙ってって言われた!」
星は。
完全に。
真剣。
「だって」
「私」
少し。
唇を尖らせる。
「ママが」
「また傷つくの嫌だから」
「……」
空気が。
変わった。
星。
きっと。
前の人生の私を。
見ていた。
私が。
我慢していたことも。
全部じゃなくても。
何となく。
感じていたのかもしれない。
「ちゃんと」
星が。
陽向を見る。
「大事にしてくれる人なのかなって」
陽向の表情から。
照れが。
消えた。
「……うん」
静かに。
頷く。
「大事にしたい」
星が。
じっと見る。
陽向も。
逃げない。
「美月」
私を見る。
「すぐ」
「自分より」
「他の人優先するし」
「……」
「何かあったら」
「自分が悪いって思うし」
「うん」
「一人で」
「いなくなろうとしたこともある」
星が。
私を見る。
「ママ」
「……はい」
少し。
怒られている気分。
陽向が。
続ける。
「だから」
「俺が」
「全部守るとか」
「そういうことは」
「言いたくない」
「……」
星が。
少し。
目を丸くする。
「美月は」
陽向が。
私のほうを見る。
「自分で立てる人だから」
胸が。
鳴る。
「でも」
「隣にはいたい」
「……」
「美月が」
「大丈夫じゃないって言ったら」
「一緒に考えたい」
「嬉しいって言ったら」
「一緒に喜びたい」
「……」
「美月の子どもたちも」
「大切にしたい」
星の目が。
揺れる。
「俺が」
「父親になるとか」
「そんな勝手なことじゃなくて」
「……」
「美月にとって」
「大切な人だから」
「俺も」
「大切にしたい」
もう。
私は。
泣いていた。
「陽向……」
「あと」
「まだあるの?」
陽向が。
少し。
照れた顔に戻る。
「笑うと」
「めちゃくちゃ可愛い」
「もういい!」
星が。
吹き出した。
「あははっ!」
「星まで!」
「だって急に!」
陽向も。
笑う。
私だけ。
顔が。
真っ赤。
「二人とも嫌い」
「え!」
陽向が。
大げさに。
ショックを受ける。
「今のはダメ!」
「何が?」
「彼氏に嫌いはダメ!」
「冗談!」
「じゃあ好き?」
「星の前で聞かないで!」
「また始まった」
星が。
笑っている。
私は。
恥ずかしくて。
でも。
嬉しくて。
胸が。
いっぱいだった。
◇◇◇
帰り。
店の前。
星とは。
途中で別れる。
「ママ」
「うん」
「今日」
「楽しかった」
「私も」
「また」
少し。
照れながら。
「三人でご飯しようね」
「うん」
「陽向くんも」
陽向を見る。
「はい」
「何で敬語なんですか?」
「いや」
陽向が。
頭を掻く。
「彼女の娘」
「やっぱ緊張する」
「ふふっ」
星が。
笑う。
そして。
少し。
真面目な顔になる。
「陽向くん」
「ん?」
「ママ」
「よろしくお願いします」
「……」
私は。
息を止めた。
陽向も。
驚いた顔。
でも。
すぐに。
優しく笑う。
「うん」
「こちらこそ」
そして。
少し考えて。
「星ちゃんも」
「?」
「美月のこと」
「これからも」
「いっぱい教えて」
星が。
笑った。
「任せてください」
「余計なことは教えないで!」
二人とも。
笑った。
「じゃあね、ママ」
その呼び方。
まだ。
聞くたび。
胸が。
いっぱいになる。
「うん」
私は。
笑う。
「またね、星」
星が。
少し歩いて。
振り返る。
手を振る。
私も。
手を振った。
娘が。
見えなくなるまで。
◇◇◇
帰りの車。
陽向が。
ハンドルを握りながら。
言った。
「よかったな」
「うん」
私は。
窓の外を見る。
「すごく」
「……」
「夢みたい」
「うん」
「でも」
少し。
笑う。
「次は」
「他の子たち」
陽向が。
静かに。
頷いた。
「怖い?」
「……怖い」
「うん」
「でも」
私は。
胸に手を当てる。
「会いたい」
「そっか」
「それに」
「うん」
「星が言ってくれたから」
私は。
少し笑った。
「信じるかどうかは」
「子どもたちが決めればいいって」
「うん」
「私は」
「会いたいっていう気持ちまで」
「勝手に我慢しなくていいのかなって」
陽向が。
嬉しそうに笑う。
「美月」
「何?」
「めちゃくちゃ変わったな」
「そう?」
「うん」
「昔なら」
「会いたいけど迷惑だからやめとく」
「って言ってそう」
「……言うと思う」
「だろ?」
二人で。
笑う。
赤信号。
車が止まる。
陽向が。
私を見る。
「美月」
「何?」
「今日」
「星ちゃんに」
「よろしくお願いしますって」
「言われた」
「うん」
「……めっちゃ緊張した」
「そこ?」
「だって」
少し。
照れた顔。
「なんか」
「ちゃんと」
「美月の彼氏として」
「認めてもらったみたいで」
胸が。
温かくなる。
「嬉しかった?」
「めっちゃ」
「そっか」
「うん」
そして。
陽向が。
小さく。
笑う。
「頑張ろ」
「何を?」
「美月の彼氏」
「……」
「これからも」
私は。
その横顔を見る。
好き。
やっぱり。
何度でも。
そう思う。
「うん」
私は。
笑った。
「よろしくお願いします」
「またそれ?」
「ふふっ」
私の二度目の人生は。
少しずつ。
一度目の人生と。
繋がり始めていた。
失ったと思っていた。
母親としての時間。
新しく見つけた。
恋人としての時間。
どちらかを。
選ばなくてもいい。
両方。
私の人生。
そして。
次に。
私が会いたいと願ったのは。
星だけではない。
あの日。
置いてきてしまった。
私の。
大切な。
子どもたちだった。



