「玲央、今日レコーディングなんだって」
「うん」
「悠も?」
「もちろん」
私は二人の顔を見比べた。
「……いいなあ」
「何が?」
兄が首を傾げる。
「二人とも、デビューするんでしょ?」
「まだ決まったわけじゃないよ」
悠がそう言った。
「でも、ほぼ決まりなんでしょ?」
「まあ……」
「すごいじゃん!」
私は嬉しくて、机をバンッと叩いた。
「二人とも絶対売れるよ!」
「美緒、うるさい」
「だって!」
「まだ何も決まってないから」
「でもレコーディングまでしたんでしょ?」
「うん」
悠が頷く。
「この前、玲央と一緒に録った」
「聴きたい!」
「ダメ」
「なんで!」
「まだ秘密」
「ケチ!」
「完成したら聴かせるよ」
「絶対だからね!」
「うん」
悠が笑う。
その隣で、兄も笑っていた。
私はその光景を見ながら思った。
――きっと、この二人は一緒にデビューする。
だって。
二人でレッスンして。
二人でレコーディングして。
事務所の人たちも、二人のことを期待している。
何より。
兄と悠は、ずっと一緒だったから。
「デビューしたら、どんなグループになるんだろうね」
「さあ」
「悠は絶対人気出るよ」
「美緒もそう思う?」
「思う」
「玲央は?」
「お兄ちゃんは……」
私は兄を見る。
「……人気出ると思う」
「なんでちょっと間があった?」
「別に!」
「ひどい妹だな」
兄が笑う。
「でも、美緒」
「何?」
「悠のこと、ちゃんと応援してあげてよ」
「もちろん」
「玲央もね」
「俺も?」
「当たり前じゃん」
私は二人に向かって笑った。
「二人とも、絶対デビューしてよ」
「うん」
「約束ね」
「約束」
悠が小指を差し出した。
「……子ども?」
「いいじゃん」
「しょうがないなあ」
私は小指を絡める。
兄も呆れながら、その上から自分の小指を重ねた。
三人の小指が重なる。
「絶対、三人で頑張ろうね」
「……うん」
そのとき。
私は、本当にそう思っていた。
この先も。
三人で笑って。
三人で夢を追いかけて。
いつか三人で、大きなステージに立つ。
そんな未来が、当たり前にやってくると思っていた。
――だけど。
数日後。
事務所から突然、呼び出された。
「……え?」
兄が、固まっている。
隣にいる悠も、何も言わない。
「デビューの話ですが」
スタッフさんが、静かに口を開いた。
「一度、白紙に戻ります」
「…………」
空気が止まった。
私は意味が分からなかった。
「白紙って……?」
思わず聞いた。
スタッフさんは少し困ったように笑う。
「いろいろと事情がありまして」
「でも、レコーディングも……」
「申し訳ありません」
それ以上は、何も教えてもらえなかった。
私は兄を見る。
「お兄ちゃん……」
兄は黙っていた。
そして。
悠を見る。
悠も、黙っていた。
いつもなら何か言うのに。
冗談を言って笑わせてくれるのに。
このときだけは。
何も言わなかった。
その日の帰り道。
三人で歩いているのに。
誰も、ほとんど話さなかった。
やがて。
悠がぽつりと言った。
「……また頑張ろう」
兄が顔を上げる。
「うん」
「まだ終わったわけじゃないし」
「……そうだな」
二人が笑う。
でも。
その笑顔は。
いつもの笑顔とは違っていた。
私はまだ知らなかった。
この日を境に。
兄と悠の未来が、大きく変わっていくことを。
そして。
この数日後。
兄のもとに――
ある一つの話が届くことになる。



