放課後、誰もいなくなった昇降口の近く。
待ち合わせたわけではないけれど、偶然を装って二人きりになった瞬間、空気の温度がフッと上がった気がした。
「夏音」
翔太郎が声をかけながら、耳の近くで指を「く」の字に曲げて近づいてきた。 ――あなたのことが好きすぎて、あなたの話をもっと聞きたい!
反則だ、そんな顔でそんな合図をされたら、さっきまでの不機嫌なんて一瞬で溶けてしまう。夏音は照れくさくなって、指をクロスさせる。 ――幸せ。
「昨日さ、不機嫌だったろ。ごめんな、他の女子と話してて」
翔太郎が気まずそうに頭をかく。夏音は目を見張り、それからふっと柔らかく微笑んだ。 ――分かってくれてるんだ。
夏音は指を鳴らすフリをした。 ――伝えたいことがある。
「なに?」
翔太郎が耳を傾ける。
夏音は周りを見渡し、誰もいないことを確認してから、そっと彼の袖を引いた。 ――服の裾をちょっと引っ張る(こっち向いて!)。
「……すき、だよ」
掠れた声だったけれど、翔太郎にはちゃんと届いたはずだ。
翔太郎の頬がみるみるうちに赤くなっていき、彼は親指と小指を立てて、右手を振った。 ――めっちゃ恥ずかしい。
その不器用な反応が愛おしくて、二人は声を殺して笑い合った。
半年という月日は、確実に二人を深く結びつけていた。



