今日も悪魔に恋してる 〜塩対応な先輩は、絶対に好きと囁かない~

新歓当日の朝。
梅雨特有の湿気にあてられて、髪の毛もいつもよりまとまらない。

(ラクなボブにしてるのに……この時期は仕方ないか)
(今日はワンピースの人、多いなぁ)
 
ふんわり巻いた明るい髪に、揺れるピアス。
並々ならぬ女子社員たちの気合いを、そこらじゅうで感じていた。
エレベーターの扉に、台車を押す自分の姿が映っている。
あたしとは別世界みたいだ。 
 
(ブラウスに紺色のカーディガン……地味?)
(って、パンツスタイルは機能性重視だから!)

誰に言い訳したのか、独り言を呟いていると、情シスの扉に着いた。
軽くノックして声をかける。

「お疲れさまです。注文品を持ってきたので、確認お願いします」
「あ、助かります!」

近くにいた男性社員が駆け寄ってきて、中身を確認していく。

(あれ……?……いない?)

この前、座っていた席に、佐久間主任の姿はない。
代わりにデスクには、コーヒーが入ったマグカップ、見たことない銘柄のタバコの箱に、ボールペン。
付箋がびっしり貼ってある専門書らしき本は、乱雑に積まれていて、触ると崩れ落ちそうだ。
そして、一番目を引くのは、キャンディ包みのミルクチョコレートの山だ。 

(うそっ!チョコ食べるの……?!)
(……なのにコーヒーはブラック?) 
 
まじまじと眺めていると、確認していた男性が急いでスマホを取り出し電話をかける。 

「お疲れさまです。主任っ届きましたっ!急いでセットアップします!」
『五分で戻る』

それだけ言って、電話が切れたみたいだ。
男性は「もうっ!主任はいっつもこうっ!」とぼやきながら、作業に戻っていく。
  
「じゃ、あたし行きますね。お疲れさまです」
「あっ、はい。ありがとうございましたっ。お疲れさまです」

顔を見て挨拶してくれた彼と、つい佐久間主任と比べてしまった。 
あの塩対応は、イケメンと呼ばれていても残念すぎる。
  
(……なんで、残念って思ったんだろう)

押している台車と同じように、ほんの少し、胸の奥が軋む音がした。