「で、どうだった?」
「どう……とは?」
「とぼけなさんなって~。会ったんでしょ?情シスの悪魔に♪」
刑事ドラマの取り調べみたいな茶番劇を繰り広げているのは、秘書課の吉高麻美。
入社式で意気投合した同期だ。
彼女の丸く大きな瞳が、好奇心に満ちている。
ここは、近所で人気の定食屋。
ランチタイムなので、食器の触れ合う音や話し声で賑わっている。
麻美はにんまりした笑みで、スプーンをマイクみたいに向けてきた。
「ねぇ、実際どうだった? イケメン?」
「……イケメンだった」
「やっぱり!」
「でも、最低だった」
「やっぱり?」
「ただ……冷たいけど、ちゃんと助けてくれた」
煮魚の身をほぐしながら、あの日を思い出してみる。
ほんの数分だったはずなのに、不思議なくらい印象に残っている。
(確かに仕事は出来る……でも……)
「お礼のときくらい、顔合わせてくれてもいいのに」
「ほぅ。噂に違わぬ塩対応なのね」
「……それだけじゃない気もする」
「どういう意味?」
あたしの中ではまだ、佐久間主任は秘密のヴェールをかぶったまま。
上手く言えないもどかしさを、豚汁と一緒に流し込む。
「麻美も会えば分かるよ」
「それ!明日楽しみっ」
明日の夜にある新入社員歓迎会。
総務部の山根先輩たちが幹事をしていて、出欠リストを見せてもらった。
——佐久間主任は、【出席】
『えっ、佐久間主任来るの!?』
『私、やっぱり出るっ!』
どこから情報を聞きつけたのだろうか。
これにより、ほとんどの女子社員が参加することになった。
「遠巻きでも、あわよくば悪魔とお近づきになりたいのよね」
「……なるほど」
(……でもやっぱり、優しい人がいい)
ふと、隣の席に座ったサラリーマンから、ニコチンの匂いがした。
(……佐久間主任とは違う香り……)
忘れたと思っていた香りが、シトラスと一緒に蘇った。



