『付き合ってない、たぶん』上

「ちょっと待って、春からキスしてんじゃん!! しかも【俺の。】【蓮の。】って何その激甘な落書き!! 恥ずか死ぬわ!!」

「おい拓海、勝手に人のスマホ触んじゃねぇって言っただろ。……消されたいのか」

蓮はいつもの凍りつくような低い声で拓海からスマホをひったくった。

だけど、耳の付け根がトマトみたいに真っ赤になっているのは隠せていない。

「ひえー、怖い怖い! でもさぁ春、お前『流石に外でのキスプリはね〜』とか言ってたくせに、自分からいってんじゃん! 最高すぎるだろ!」

「う、うるさいなぁ拓海……! あれは、その、勢いで……っ!」

俺はユニフォームの襟に顔を埋めて悶絶した。

部室中が「ヒューヒュー!」と指を鳴らす祝福とイジりの嵐に包まれる中、

俺は真っ赤な顔のまま、こっそりと隣の蓮の横顔を盗み見た。

(……あれ?)

いつもなら、からかわれたら「マジで一発殴らせろ」と低い鋭い声で威嚇して、余裕のないピュアな反応を見せる蓮。

なのに、今の蓮はスマホをポケットにしまいながら、

どこか遠くを見るような目で、ぼんやりとグラウンドの方を見つめていた。

怒っているわけでも、照れているわけでもない。

まるで、別の場所に心が奪われているような、そんな冷たい静けさ。