『付き合ってない、たぶん』上

そんな仕掛け人の邪悪な企みなど、今の二人に気づけるはずもなかった。

「もう、拓海くんたら変なことばっかり言うよね」

俺は胸の痛みを隠すように、わざと突き放したような声で呟き、隣の蓮を見上げる。

「……本当だよ」

蓮はふいっと目を逸らし、ぶっきらぼうに俺のカバンを突き出してきた。

「ほら、お前の分」「あ、ありがと」カバンを受け取る瞬間、指先がほんの少しだけ触れ合った。

それだけで、お互いの心臓はまた、うるさいくらいの音を立て始める。

(付き合ってない。付き合えるわけがない。男同士だし、幼馴染だし……。それに、蓮の好きな人は、拓海なんだから)

夕暮れの街を、いつものゼロ距離で並んで歩きながら、俺は胸の奥の痛みをぎゅっと堪えた。

(あいつ、俺が誰を好きなのか、本当にこれっぽっちも気づいてねえんだろうな……。拓海なんかじゃなくて、俺を選べよ、春……)

隣を歩く春の横顔を盗み見ながら、蓮もまた、切ない独占欲を隠すようにポケットの中で拳を強く握りしめていた。