『付き合ってない、たぶん』上

その頃、隣の席で大人しく寝ていたはずの蓮は――。

(……おい、マジかよ)

蓮は、寝たふりをしながら、必死に心臓の暴走を抑え込んでいた。

本当は、春が隣に座ってくれたのが嬉しくて、ちょっと起きていたのだ。

そしたら、まさかの春の口から「好きな人がいる」という爆弾発言が飛び出してきた。

(春に、好きな奴がいる……?誰だよ。いつからだ?)

蓮の頭の中に、冷たい不安が一気に広がっていく。

昼間、春にベタベタくっついていた拓海の顔が、頭をよぎった。

(あいつ、拓海に触られたとき、顔を真っ赤にして逃げ出したよな……。まさか、春の好きな奴って、クラスの――)

自分の昨日言った言葉が原因だとは1ミリも気づかない蓮は、

「春が他の男を好きかもしれない」と、激しい独占欲と嫉妬に襲われていた。

(嫌だ。あいつを他の奴に渡したくねぇ……。俺だけを見てろよ、春……)

「……ん、ぅ」

春が、小さく体勢を変えて、蓮の肩に、こてん、と頭を乗せた。

寝不足のせいで、お喋りしているうちに、春のほうもいよいよ限界を迎えたらしい。

規則正しい可愛い寝息が、蓮の鎖骨のあたりに、優しく吹きかかる。

(こんなに無防備にくっついてくるくせに、他の奴が好きとか、言うなよ……)

蓮は、そっと目を開けると、苦しさと愛おしさが混ざった目で隣の春を見つめた。

そっと自分の大きな手のひらで、春の細い手を、シートの隙間でぎゅっと握りしめる。

「……行くなよ、春」

誰にも聞こえないくらいの、ひどく切なくて、独占欲に満ちた呟き。

お互いに「相手に好きな人がいる」と激しく勘違いしたまま。

二人の距離感は、切なさと萌えを限界まで引きずりながら、学校へと向かっていた。