『付き合ってない、たぶん』上

一方その頃、蓮は――。

(……春、いい匂いしすぎだろ。マジで勘弁してくれ)

蓮は平然とした顔で教科書をめくりながら、内心、狂いそうなほどの自制心と戦っていた。

自分の腕の中にすっぽり収まる、春の細い身体。

肩に触れる春の体温が心地よすぎて、離したくない。

(拓海のやつ、余計なこと言うな。付き合ってるわけないだろ。……付き合いたいけど。つか、春はなんでこんな無防備なんだ? 俺が男だって忘れてんのか?)

「違うし」と否定したときの、春のほんのり赤くなった耳たぶ。

それを見た瞬間、蓮の胸の奥で、ドクンと大きな音が跳ねた。

(赤くなるとか、反則。めちゃくちゃ可愛いんだけど……。これ以上意識させたら、俺、理性が保てない)

「……春、そろそろ行くぞ」

「あ、うん! 蓮、教科書忘れないでね」

お互いに顔を見合わせることすらできず、少しぎこちなく立ち上がる。

周囲から見れば「いつもの仲良しコンビ」の移動風景。

しかし二人の胸のうちは、互いへの「好き」と「萌え」で、すでにパンク寸前だった。