通りすがりの俺様

「あと小金もいらない。
 うち金あるから」

 一鷹は、そこでハッとしたように言った。

「もしや、犯人はうちの金を狙ってっ?
 じいさんの財産を受け継ぐかもしれない俺の嫁になるかもしれない女の命を狙っておくといいかもしれないと思って、お前を狙ってるとかっ」

「……かもしれないが多すぎるので、私なら実行しないですね。
 あと、私を殺す気はなかったと思います。

 ほんとうに()る気なら、もっと大通りで、車がスピードを出して行き交っているところでやります、私なら」

「……お前なら、確実にやりそうだな」

 気をつけよう、とちょっと引かれてしまう。

 さっき愛を告白された気がするのに、もうドン引かれてしまった、といずるはちょっと後悔する。

「犯人は自転車の前に軽く突いただけなので。
 ちょっとした脅しか……。

 あるいは、なにか別の意図があったのかも――」

「なんだ、別の意図って」

 いえ、考えすぎだと思いますけどね、といずるは呟く。

「それより、近くにいるはずのパトカーと鮮魚店のオヤジはどうした」

 鮮魚店のオヤジじゃなくて、包丁ですよ、頼りにしてたのは、と思いながらいずるは言った。

「オヤジさんは舌平目まけてくれましたよ。

 あと、バトカーは、いつも、あそこにいるわけじゃないですし。
 あの場所ではパトカーが待機しているところからは少し離れています。

 まあ、近くても出て来ないかもしれませんけどね」

「なんでだ?
 警察もグルだとか?」

 いつ、そんな壮大な話になりました、と思いながら、いずるは言った。