通りすがりの俺様

 


 なににしようかな。

 私は煮たのが好きなんだけど、
と舌平目の調理法を考えながら、暗い夜道を歩いていたいずるは、いきなり、どん、と背中を押された。

 つんのめった曲がり角、前の道に倒れ込みそうになる。

 鼻先を自転車が駆け抜けた。

 いずるを避けようとしたせいで、うわっ、とその自転車が転倒する。

 高校生くらいの男の子だった。

「えっ、ごめんっ。
 大丈夫っ」
といずるは駆け寄る。

「ああ、平気、平気。
 よく転ぶから」

 それ、平気なんですか?
と思ういずるに爽やかな笑顔の彼は訊いてきた。

「おねえさんこそ、大丈夫?」

 なんかよろけてたけど、と言われ、
「あっ、大丈夫。
 後ろから突き飛ばされただけだから」
と慌てて言って、

「えっ?」
と言われる。

 いずるは今来た道を振り返ってみた。

 人の気配はない。

 この辺りは小道がたくさんある。

 いずるを突き飛ばしたあと、その人物は小道の何処かにでも逃げ込んだのだろう。

 隠れやすいここを選んだのだろうなと思っていた。