通りすがりの俺様

 


 じゃあ、といずるはビーフシチューの乗ったトレーを手に頭を下げ、矢端とは別れた。

「今日、多いね~」
「寒いから、いつも外でランチな人も社食に来たんじゃない?」
 席を探してキョロキョロしながら晴菜が言う。

「あっちの辺空いてない?」
といずるは広い社食の窓際を指さして言ったが、なにかが足に引っかかり、コケそうになった。

 おっとっ、と立て直して、
「あっ、すみませんっ」
となんとなく周りに謝る。

 トレーからは出なかったものの、ちょっとビーフシチューが飛んだからだ。

 だが、いずるの腕を引いた晴菜が耳打ちする。

「謝ることないよ。
 足引っ掛けたの、あの人よ」
と斜め下辺りに頭がある女性を指差した。

 有沙みたいな茶髪でサラサラヘアだが、有沙みたいに、こんな風になりたいとは思わない感じだ。

 髪にも人柄が出るのだろうか。

 いや、あの人はあの人で、ロッカー荒らしてあげるっとか言ってくる人なんだが……。

「……水内さんのファンですか?」
と思わず彼女に訊いて、

「はあっ?
 なんでよっ?

 私は、矢端さんのファンよっ」
と睨まれる。

 矢端さんとは、ちょっと口をきいただけなんですが……。