恋を知らない天才魔術師が、惚れ薬を作るまで



百数年前に発見された魔石から魔術体系を確立し、現在の国家認定制度まで築き上げた人物――それがカイアス・フローベルだ。

そんなすごい人がユリウスの曽祖父だと知った時に、彼の伝記を読み、感銘を受けたのを覚えている。

しかも、かなりの人格者だったらしい。

どこでどう間違えたら、そんな素晴らしい魔術師からあんな人格破綻した非常識なユリウスが生まれてくるのだろうか。

魔術の才能しか受け継がれなかったのが、本当に悔やまれる。

門をくぐり抜け、研究室がある魔術省の建物に向かうために敷地内の庭園を横切る。

庭園の隅に、一本の桜の木が見える。

他の木々が冬の準備をし始めてる中、その木だけ花が咲き誇っていた。

季節外れの狂い咲きではなく、1年中咲いているのだ。

そんな不可思議な桜の木を横目に、イザベラは研究室へと急ぐ。


「おはようございます」


研究室の扉を開け、既に中で作業しているはずのユリウスに挨拶をする。

いつもなら、自身の机から気怠そうに顔を上げ、こちらを一瞥してくるのだが、今日は珍しく姿が見えない。