恋を知らない天才魔術師が、惚れ薬を作るまで



ジョシュアと別れた後、イザベラは自身の家を通り過ぎ、無意識に王宮へと足を向けていた。

どうせ部屋に帰っても自分の浅はかさを思い返して落ち込むのは目に見えている。

それならば、このまま今日のデートの報告書でも書いてしまおうと誰もいないであろう研究室の扉を開けた。

すると、信じられないことに部屋の中にユリウスがいて、静かに自分の席で作業を進めていた。

扉を開けたまま、イザベラがその場で動かずにいると、部屋の空気が変わったことに気付いたのかユリウスが顔を上げる。

イザベラの姿を確認するなり、顔を不機嫌そうに顰める。


「用があるなら早く入れ」


休日にイザベラが研究室を訪ねてきたことよりも、自身の作業を中断されたことがひどく不快だったのか、声に苛つきが聞こえる。

急いで扉を閉め、自分の席に座ったイザベラは気付かれぬようにユリウスに視線を向ける。

研究室に併設された休憩室で寝泊まりしていることは知っていたが、まさか休日まで家に帰っていないとは思わなかった。

今もイザベラのことなど気にも留めず、黙々と机に向かって作業している。

その情熱を少しでも普段の業務にも回してくれたらいいんだけどな...。

まぁ無理かと、考えても仕方ないことを早々に頭の隅から追い出し、イザベラは机に向かった。

早いところ今日の報告書を書いて、ユリウスの邪魔にならないように退散しよう。

机の引き出しから紙と万年筆を取り出し、今日あった出来事を思い出しながら、万年筆を持つ指に力を込めた。