財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~

 入籍から三カ月が経った頃。
 八月に入り、幼稚園が夏休みを迎え、私は研修や九月以降の行事の準備をして過ごしている。
 惺也くんの仕事は相変わらず多忙で、早朝に出社し、深夜に帰宅する日も多く、同じ家に住んでいるのに会話する時間は驚くほど少ない。
 それでも──朝目覚めた時、隣に彼が眠っているだけで、胸の奥から嬉しさがこみ上げてくる。

 契約結婚なのだから、本命の人の家にいてもおかしくない。
 だけど、こうして帰ってきてくれるだけで、嬉しくてたまらない。
 
 寝ぼけたふりして彼に抱きつくと、「おはよ」と甘美な声音が耳元に落ちる。
「おはよ」と囁かれるたび、その言葉が誰に向けられたものなのかもわからず、胸の奥がちくんと痛む。
 心の奥で〝ごめんなさい〟と名前も知らぬ女性に謝罪しながら、私は彼の腕の中でささやかな幸せを噛みしめていた。

 出勤準備を済ませた私は朝食をとるためにダイニングに行くと、惺也くんが珈琲を淹れてくれていた。

「仕事は大丈夫なの……?」

 思わず、声をかける。

「目途がついて、ようやく落ち着いた」
「……そうなのね」

 私は安堵の溜息を漏らしていた。

「来週の土曜日に、とある財団のチャリティーパーティーがある。……夫婦として出席してほしいんだが、都合はどうだ?」
「来週の土曜日? ……うん、特に何もないから大丈夫」

 スマホのカレンダーを確認してみるが、予定は入っていない。
 
「そうか。じゃあ、パーティー用のドレスを用意させるな」
「えっ、あるものじゃダメなの?」
「ダメってわけじゃないが、金は使ってこそ経済が回るからな」
「そ、……そうね」

 惺也くんの言葉に、思わず苦笑いをしてしまった。